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司法書士を主人公としたドラマ「びったれ!!」が映画化されるというニュースがあった。現在、テレビ朝日系列のテレビ局で連続ドラマとして放送中だ。これまで司法書士を主人公としたドラマというもの自体がとても珍しいので、私もこれまで放送のあるたびに関連する記事を書いてきた。

第7話はこのようなエピソードだった。

ある男性から、結婚詐欺まがいにお金を借り、それを返さずにいるスナック経営者の女性が登場する。その女性は男性から依頼を受けた司法書士から訴えられ、預金や店舗の什器備品などを差し押さえられ経営が成り立たなくなってしまう。司法書士に対して悪態をついていた女性であったが、実はこの女性には自宅に病床に伏せる父親がいて…という設定だった。

依頼者の利益の実現をすれば、一方で泣きをみる人もいるのだ…ということで、ドラマでは「法律家とは業が深い職業なのだ」と述べている。

はたして法律家とは業の深い職業なのか?

■代理人となった場合には依頼者のために仕事をする
争いとなっている金額が140万円以内の事件については司法書士も弁護士と同様に代理人として交渉や裁判などの仕事をすることができる。

このような仕事を受けるとき、司法書士は自分の依頼者の利益の実現を図るように、依頼者のために仕事を行う。このため司法書士は交渉や訴訟を行っている相手から別の仕事であっても依頼を受けてはならないとされている。

争っている相手から別の仕事を受けて報酬をもらっていては、依頼をする側としては「ひょっとして相手の利益のことも考えて手加減をするんじゃないか…」と疑心暗鬼になってしまうからだ。司法書士も信頼を失ってしまう。

もちろん、自分の依頼者の利益の実現を図る…と言っても何をやってもよいというわけではない。違法な手段を用いてはいけないし(当然だ)、相手の無知や誤解につけこんで不当な交渉などを行ってはならない。

■常識はどこにあるのか?
ところで、最終的なトラブル解決の手段としては「裁判」ということになるのだが、裁判所とは法律を機械的に当てはめて、杓子定規な結論を出す…と思っている人もいるかもしれない。

しかし、私が日ごろの業務のなかで感じるのは、裁判所は「常識的な人間はどう考えるか」ということを常に意識している、ということだ。

このような裁判例がある。

Aさんは、ある不動産の購入を希望していた。不動産の売買交渉のなかで、Aさんは売主であるBさんに対して「不動産を買い受けます」という書面を渡していた。これに対して、売主のBさんも「不動産を売り渡します」という書面を購入希望者Aさんに渡していた。

購入希望者Aさんの発行した書類を買い付け証明書、売主Bさんの発行した書類を売り渡し承諾書などという。

その後、その話は契約書の調印にたどり着くことなく破談になってしまったのだが、売主Bさんとしては異論を唱えた。

言い分はこうだ。

「契約は口頭でも成立する。さらにお互い買い付け証明書、売り渡し承諾書がある以上、契約書を作っていなくても契約はちゃんと成立しているはずだ。契約を破棄したAさんは違約金を支払うべきだ…」と。

これに対して裁判所は「高額不動産などの売買においては、お互いの書面のやりとりがあったとしても、交渉を重ね、最終的に正式な売買契約書を作成するのが通例である、正式な契約書の作成に至っていない場合については契約がちゃんと成立したとは言い難い、Bさんとしては違約金の支払いを求めることはできない」という趣旨の判断をしている。

確かに契約というのは口頭でも成立する。しかし、ケースによって契約の大きさなどを総合的に判断して「常識はどこにあるか」というものを意識した判断を下しているのだ。

■代理人として考えていること
私は相談を聴く際、訴訟となりそうなケースでは「裁判所の考える常識とはどこにあるだろうか」ということを頭の片隅で考えている。

裁判とは相手を引きずり出すところではないということを前回の記事では書いたが(『裁判所で「とりあえず半分でどう?」と言われたらどうする?』)、依頼者と一緒になって感情に走ってしまうと結果として自分の依頼者を不幸にしてしまうこともある。

じっくりと話を聴きながら、どのような選択肢があるのか、どのような結果が予想されるのかを一緒に考える。その過程の中で、考えを共有し信頼関係を築き上げていく。

司法書士は、依頼者の利益を実現するといっても依頼者の要求通りに何でもやる…ということではないのだ。

■法律家とは業の深い職業か?
法律家とは業の深い職業か?

これに対しては、私は少し違うのではないかという感想を持った。

そのような一面があることを否定はしないが、このドラマの設定で言うならば、病床に伏せる父親がいれば借りたお金を返さなくてよいということにはならない。「相手がかわいそうだからお金を請求は止めておこう…」などということがあってはまったくおかしなことになる。

だからといって、私は相手がどうなっても構わないといっているのではない。私が言いたいのは、その女性が経営に行き詰まり家計が苦しい状況を打開したいと思ったとき、手を差し伸べるのは別の法律家であるべきだ…ということだ。

仮に女性が別の法律家のところに相談に行っていれば、結果は違っていたかもしれない。店の経営ができなくなるほど追いつめられる前に、例えば最低でも借りたお金を分割で支払う…という提案をするなどの方法が考えられたはずだ。

女性の側に立った法律家は、女性の利益を実現するために仕事をする。それぞれが、それぞれの依頼者のために全力で仕事をし、結論を導き出していくのだ。これが「代理人」の仕事だ。大岡裁きをするのが代理人の仕事ではない。

もちろん、誰もが法律家を利用できなければならない。代理人が「自分の依頼者の利益の実現を目指す」というのはそれがあっての話だ。一部の人間だけが法律家を利用できる…ということではいけない。

法律家に相談しやすい場を作るということは、依頼者の利益の実現を目指すということと同じくらい、法律家にとって重要な仕事なのだ。

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及川修平 司法書士


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