牛丼
トヨタをはじめ自動車メーカー等の輸出産業を中心に、労使交渉の結果、高水準のベアで妥結する大手企業が続く中、あの「すき家」のゼンショーHDも何故か2000円のベアを発表しました。3期連続のベアだそうです。
ゼンショーホールディングス(HD)は16日、牛丼店「すき家」の運営会社などグループ11社の正社員(911人)を対象に定期昇給と月2000円のベースアップを実施すると発表した。ベアは3年連続。2015年4月入社の大卒者初任給も4千円高い20万5千円とする。人手不足を受けてすき家に深夜営業休止店が発生したことなどから、ゼンショーHDの15年3月期の連結最終損益は赤字の見通し。
(『ゼンショーは赤字でもベア』、日本経済新聞朝刊、3/16付)

17日に発表された業績予想の修正によれば、2015年3月期の連結営業利益は前期比67%減の26億円。いわゆる「鍋の乱」で深夜閉店していた店舗が半年で半減するなどしたことで、前回の赤字予想から上方修正されました。

営業黒字予想となったとは言え、最終損益は大きく赤字となる見込みの中で、2000円のベアというのは異例の決断と言えるでしょう。

■ベアは従業員の生活改善のため?
3月17日のキャリコネニュース記事『ゼンショー、業績厳しくても2000円のベースアップ 「従業員の生活を改善したいという経営側の強い思いある」』によれば、業績が厳しい中でのベア実施は従業員の生活改善のためと、同社広報が語っています。

昨年、「鍋の乱」が取りざたされた際にブラック企業と揶揄されていた同社が、業績から見て過ぎた水準のベアを実施するというので大きく注目されることになったわけですが、こうした「従業員のため」的な言い分を空々しく感じる人も少なくないのではないでしょうか。

上の記事でも、正社員はいいけどバイトはどうなんだ、といった巷の声が紹介されています。パートタイム職の離反が原因で問題になったことを考えると、これは当然の見方でしょう。

一部の正社員と、それ以外の社員を含めたその他の従業員との間で、格差が拡大しつつあるのが実態ではないか、というのが同社の決算資料等から類推されるのです。

グラフをご覧ください。2014年3月期までの有価証券報告書から、社員とパートタイムの平均賃金、社員の数、社員に対するパートタイムの倍率などの推移をまとめてみました。
ゼンショー
パッと見てグラフから分かるのは、最大の経常利益を記録した2012年3月期を境に、パートタイム主体の拡大路線から、おそらくパートタイムの契約社員化によるパートタイム比率の縮小へと方針転換がなされている点や、社員の平均給与が明らかに減少し続けている点などでしょうか。

じつは、ゼンショーHDが発表したベアの対象となる911人の正社員というのは、社員全体の1/6程度でしかありません。それ以外の社員は、契約社員や傍流の関連会社正社員ということになります。

そして、おそらく本流の正社員の平均給与が550万円近辺と考えられる一方で、その他の社員の平均給与はその半額程度と見込まれるのです。

■バイトから続く、正社員への細く長い道のり
試しにすき家のバイト募集を見ると、バイトとして採用された新人「ニューフェース」から始まり、「クルー」、「キャプテン」、「チーフ」と、ここまでバイトの立場でキャリアアップしたら、その次が契約社員の「エース」。ようやく店長になれます。募集サイトによれば、最短では3か月とのこと。

その契約社員であるエースとして、店長の後に複数店舗担当もこなせば、ようやく正社員になる目が開けます。

この間、時給換算ではバイトとそれほど変わらない給与水準です。道は繋がっているとは言え、容易ならざるものがあります。

2013年3月期以降の社員平均給与の減少、社員の増加、パートタイム倍率の減少等を見ると、パートタイムから契約社員への転換はそれなりに進んでいるようですが、そのうち正社員まで辿りつける人は一体どのくらいいるのでしょうか。

■頑張っても報われない社会に、人は希望を持てない
結局のところ、大企業の経営陣と正社員労組が春先にゴニョゴニョやった結果「ベア何千円」とか言っているのは、既得権者同士が自分たちの都合の良いようにパイを分けているだけの話なのです。

不幸にも既得権から漏れた人に配慮しようという殊勝な考えは、そこには一切ありません。

労働問題に限らず一般論として、既得権やそれに伴う参入障壁は、個々の努力を否定する働きを持っています。そして、頑張っても報われないような社会では、多くの人は将来に希望を持てません。また、頑張ったことが報われると思っていない人は、当然のことながら、他人の努力についても評価しません。

ポスドクや中高年の学び直しなどが日本で評価されないのも、そうしたことが心因的な背景にあるような気がします。

以下の記事も、是非参考にしてください。
■すき家「バイトの乱」から学ぶ「ノー残業制度」の問題点。 (本田康博)
http://sharescafe.net/43084842-20150127.html
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42781228-20150108.html
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42894098-20150115.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html
■全国で深刻化する空き家問題。東京都心で空き家が放置される理由とは? (本田康博)
http://sharescafe.net/43711735-20150309.html

■まとめ
・すき家のゼンショーHDが、最終損益赤字見込みにも関わらず、ベア2000円を発表しました。
・ベアの対象となるのは、全従業員の一部である正社員のみです。
・その他社員の平均給与は、対象正社員の概ね半分程度と類推されます。平均給与全体は逓減。
・バイトから契約社員への転換はおそらく少なくないものの、正社員へは長い道のりです。
・正社員優遇の雇用制度では、個々の努力は評価されにくいと思われます。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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