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私は社会保険労務士であるとともに、資格関係のビジネスを営むベンチャー企業の取締役にも就いている。

近年、一部を除き、各種資格試験や検定試験の受験者数は減少傾向にある。背景には「資格をとっても食べられない」とか「資格よりも実務だ」という風潮があるようだ。しかし、資格を持つことのメリットがなくなった訳では決してないので、改めて「資格を持つことのメリット」を私なりに整理してみた。

■資格があれば転職で有利に
第1のメリットは、資格があれば自分のスキルを客観的に相手に伝えることができるということだ。

たとえば転職活動のとき「私は経理が得意です」とPRしても、相手の面接官はどのくらい得意なのか想像ができない。しかし、「簿記1級を持っています」と言えば、自分の持つスキルを面接官に一発で伝えられる。履歴書における書類選考でも「簿記1級」は採用担当者の目を引くことであろう。

20代での転職であれば、実務経験よりもポテンシャルを重視しての採用されることが多いので、資格を持っていること自体が大きなアドバンテージになる。

逆に、実務経験が重視されるという30代以降でも、資格取得は決して無駄ではない。

会社側の面接官の立場に立って考えてみると面白いことに気付く。中小企業では経営者が自ら面接を行う場合もあるかもしれないが、基本的には面接官もサラリーマンだ。だから、変な人を採用してしまったら上司に怒られるし、人事考課でもマイナス要素にもなりかねない。

すなわち、面接官が採用する人を決めるに当たっては、「安全パイ」を選びたいという心理が働くということだ。

実務経験があることを重視して採用するという場合であっても、採用した人が全くの期待はずれだった場合、「私の直感で選んだ」ということであれば、100%面接官の責任になってしまう。だが、「実務経験に加え、簿記1級も持っているから採用したが、ダメだった」ということであれば、「簿記1級」が面接官にとって一種の免罪符になる。

そのような前提を踏まえて、転職者の立場に視点を戻すと、しっかりとした実務経験があることは大前提として、その実務経験に見合ったスキルがあることを客観的に証明して、「安心して私を採用してください」と面接官にPRするために、資格は有用であると言えるのだ。

■業種によっては資格が決め手に
第2のメリットは、職種によっては、資格を持っていること自体が、転職やキャリアアップに圧倒的に有利になるということだ。

業界によっては、一定数以上の有資格者を揃えることが必須になっていることがある。

代表的なのは不動産業界だ。事業所に所属する社員のうち、5人の1人以上が宅地建物取引士でなければならない。

私の実務感覚としても、少なからずの不動産会社が人材不足、とくに宅地建物取引士不足を嘆いている。会社が費用負担して研修を実施し、社員を宅建試験に合格させようとしている会社も少なくないのだ。

そのような背景があるので、「宅地建物取引士」の資格を持っていれば、よほど面接で悪印象を与えない限り、不動産業界で転職先が見つからないということはないであろう。

マンション系の資格である管理業務主任者も宅地建物取引士と同様に法定の設置義務があるし、FPは法定の設置義務はないが、保険会社や証券会社など金融系の会社ではFPの資格を持った人の採用に積極的である。

このように、特定の業界においては、資格を持っていることは転職において大きな強みになるのだ。そして、給与面でも「資格手当」がついて、優遇されることが多い。

■資格を持つことによって得られるチャンス
第3のメリットは、資格を持つことによって見識や人脈が広がるチャンスがあるということだ。

たとえば、FPに関していえば、日本FP協会のAFPやCFPに登録をすると、毎月「FPジャーナル」という機関紙が届くようになり、最新の税法や社会保険関係法令の改正を網羅的に把握したり、インタビュー記事でFPとしての知識の生かし方などを学んだりすることができる。

都道府県単位で活動している「スタディーグループ」に参加して、勉強をしたり、仲間作りをしたりできるのもメリットだ。

私のような社会保険労務士も、開業社労士・勤務社労士を含め、県単位の「支部」に所属し、支部会や研修会などに出席したりする。

このような有資格者団体での活動が転職につながったり、場合によっては独立のきっかけをつかんだりすることもあるであろう。

サラリーマンの方にとっては、会社とは関係のないところで人脈を持つことができるのは新鮮ではないだろうか。専業主婦だった方や無職だった方も、資格を基点にして社会と接点を持ち、人脈を広げることができる。

■資格が人生を豊かにする
第4のメリットは、資格の勉強を通じて自分自身の人生が豊かになるということだ。

ここでも、FPの資格が代表例であろう。

近年は「勤務先で確定拠出年金が導入された」とか「NISA口座を開設した」とか、個人も金融の知識が必要になる場面が増えた。また、ライフスタイルが多様化して、どのような保険に入れば自分は安心なのかとか、持家と賃貸はどちらが有利かとか、1人1人が考えなければならなくなっている。

FP試験の勉強を通じて身につく知識は、これらのことを考えるにあたって大いに助けになることは間違いない。

また、社会保険労務士の知識であれば、自分自身の働き方や年金について考えるきっかけになるし、行政書士の知識であれば、法的トラブルに巻き込まれたときや、相続が発生したときなど、最終的には専門家に頼るにしても、自分自身である程度の状況把握はできるようになる。

ここまで述べてきたような国家資格だけでなく、もう少し専門分野を絞った民間検定も近年は増えてきている。「相続診断士」「敷金診断士」「年金アドバイザー」など、国家資格よりは気軽にチャレンジできるので、自分自身の勉強のためにはもちろん、国家資格を受けるためのウォーミングアップや、既に取得した国家資格に深みを出すためのツールとしても民間検定を活用することができる。

■まとめ
このように、資格を持つことによって得られるメリットは、転職での優位性から人脈の拡大まで様々なものがある。

確かに、何も考えずに漠然と資格試験を受けようと考えると「お金や時間がかかる」「取得しても生かし方が分からない」など、デメリットが最初に浮かんできてしまうかもしれない。しかし、資格の生かし方を主体的に考えていくならば、資格を取得することのメリットは非常に大きなものがあると私は確信している。

■FP実務家インタビュー ~独立系FPとして働く 国分さやか
http://seep-jp.com/seeplink/blog/2015/01/27/post-1051/
■これから必要とされる新しい英語とは 斎藤浩史
http://seep-jp.com/seeplink/blog/2014/06/28/post-145/
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■我が国において、「いつ起業するか?今でしょ!」と断言できる理由 榊 裕葵
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