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現在公開中の映画で鑑賞後の評価が最も高いのではと言われているのが、知る人ぞ知る超天才アラン・チューリングの半生を描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』です。Yahoo!映画のユーザーレビューでは、3月25日現在、4.52の高評価となっています。

映画はドイツの暗号エニグマの解読に挑むシーンを中心に進行するのですが、原題のタイトルでもある「イミテーション・ゲーム」は暗号解読のことを言っているわけではなく、人工知能の父と呼ばれるチューリングが考案した、機械が人工知能と言えるかどうかを判定するチューリングテストを意味しています。この点を念頭に置きつつ、チューリングの言葉や感情の動きに気を配りながら映画を観ることで、この映画が本当に伝えたいことについて、少し深く考えることができるかもしれません。

私もとりあえずもう一度観てみようかなと思っています。遥か昔、学部時代に専門だった暗号学と回路に関係する話でもあり、一度目は素直に夢中になり過ぎました。

■感動を呼んだアカデミー賞受賞スピーチ
先日の第87回アカデミー賞で最も感動を呼んだのが、この映画で脚色賞を受賞した脚本家のグレアム・ムーア氏の受賞スピーチでした。
"心苦しいことです。アラン・チューリングがこのような舞台に立って、そして困ってしまうくらいに魅力的な皆さんを見渡すことは、決してありませんでした。私はしています。そしてこれは、私の知る限り最もアンフェアなことです。
つまり、このような機会を頂き私が言いたかったのは、このことなのです。16歳のとき、私は私自身を殺そうとしました。自分が変わっていると感じ、自分が他人と違っていると感じ、そして、自分はどこにも属さないと感じていたからです。そして、いま私はここに立っています。このひとときを、自分が変わっている、自分は他人と違う、自分にぴったり合う場所はどこにもないと感じている子供のために捧げたいと思います。あなたは(どこかには)ぴったり合っているのです。私が請け合います。ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント、そして、あなたの番になって、あなたがこの舞台に立つ時に、どうか同じメッセージを次に続く人に渡してください。ありがとうございました!”(注)
既にエンタメ系メディア等で紹介されている訳文は、こなれた日本語に置き換えているものばかりですが、ここでは敢えて、できる限り原文に忠実に、直訳に近い形で訳してみました。そうすることで、ムーアのメッセージをより正確に受け取ることができると思うのです。

「ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント」は、「(そのまま)奇天烈であれ、異質であれ」と言う意味ですが、もちろんこれは、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での名スピーチ「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」に掛けています。そうした理由も思い当ります。

じつは、本当のところは分からないのですが、アップル社のロゴであるかじったリンゴは、青酸カリ入りのリンゴを食べて自殺したとされているチューリングへのリスペクトを表しているとも言われているのです。アラン・チューリングは、コンピューターサイエンスの世界では史上最高の功労者とされているため、実際にジョブズにそうした意志があったとしてもおかしくはありません。

ムーアはおそらく、疎外感を感じている普通とどこか違う部分のある子供たちに、単に「そのままで良いんだよ」と言ってあげているのではないのだと思います。そこには、ジョブズが次代を担う若者に託したように、自分が本当に大切だと思っている価値観を後世に繋ぎたいという明確な意思があるのです。

ムーアは言っています。次はあなたがここに立ち、後継に繋げよと。そうなるために、相応の困難を乗り越えよと、暗に言っているのです。

チューリングがしたように。

自らがそれに続いたように。

■異質であること、それ自体に価値がある
ムーアが映画やスピーチを通して伝えたかった一番大事なことは、「他人と違っていても大丈夫だよ」みたいなありがちな柔らかいものではなく、「異質であること自体に価値がある」という強いメッセージなのだと、私は考えています。

誰もが異質であることを望まない状況は、順調なときはとても強固に見えるのですが、一旦それが破たんすると雪崩を打って崩れ去り、じつはとても脆弱だったということが分かります。

政府も軍もメディアも国民も、皆が何かに憑りつかれたかのように戦争に邁進した時代の日本を例にあげるまでもありません。「空気読め」的な同調圧力の強い日本では、経済や政治、社会、会社、学校、家庭等、あらゆるレベルで、他人と異なることを良しとしないが故の脆弱さが問題になっているように感じます。

例えば、経済では1990年代のバブル崩壊や2000年代の金融ショック等、いずれも皆が極端に同じ方向を向いていたことが、問題が拡大した大きな要因となりました。

政治では鳩山ショック、震災後の過剰な「自粛」が求められる空気、前例主義で無駄な手続きの多い社内決裁、個性を伸ばせない学校教育、皆が同じようなスーツを着て同じように疲弊する就活、子供たちを蝕むいじめ問題、、、本当にたくさんあるように思います。

異質な存在は、高層ビルの制振構造のように、全体が一方向に振れるのを抑える効果を持っています。

同調圧力の強い日本でこそ、「ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント」というムーアのメッセージを大事に考えるべきではないでしょうか。

以下の記事も是非参考にしてください。
■「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。 (本田康博)
http://sharescafe.net/43385921-20150216.html
■有馬記念から考える「にっちもさっちもいかない状況」の克服方法。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42605108-20141227.html
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42781228-20150108.html
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42894098-20150115.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 (本田康博)
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html

■まとめ
・不遇の超天才アラン・チューリングの半生を描いた映画『イミテーション・ゲーム』が高評価を得ています。
・感動を呼んだ脚本家のアカデミー賞受賞スピーチは、大事な価値観を後継に繋ぐ素晴らしいメッセージです。
・「ステイ・ウィアード、ステイ・ディファレント」は、同調圧力の強い日本でこそ大事に考えるべきでしょう。

(注)スピーチ全文
"Here's the thing. Alan Turing never got to stand on a stage like this and look out at all of these disconcertingly attractive faces. I do. And that's the most unfair thing I've ever heard. So, in this brief time here, what I wanted to do was say this: When I was 16 years old, I tried to kill myself because I felt weird and I felt different, and I felt like I did not belong. And now I'm standing here, and so I would like this moment to be for this kid out there who feels like she's weird or she's different or she doesn't fit in anywhere. Yes, you do. I promise you do. Stay weird, stay different, and then, when it's your turn, and you are standing on this stage, please pass the same message to the next person who comes along. Thank you so much!"
(『“This unsuspecting Oscar winner gave the most inspiring speech of the night”, Business Insider, 2015/2/23』より抜粋。)
本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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