都心風景s
週末にこんな記事を見つけました。
インターネットでお金の貸し手と借り手を結ぶ融資型のクラウドファンディングが伸びている。2014年末時点の累計融資額は310億円と、1年前の約2倍になった。国内ベンチャーキャピタルの大型ファンドに相当する規模だ。数万円からお金を出せるため、銀行の融資を受けにくいベンチャー企業などが活用している。金融庁は対価として株式を受け取る株式型も5月に解禁する。(日本経済新聞3月29日付朝刊『ネットで小口融資、1年で倍増』より抜粋。)
融資型のクラウドファンディング、日本で一般にソーシャルレンディングと呼ばれている投資商品の融資額がこの一年で倍増したというニュースです。

■ソーシャルレンディングとはどんなものか
日本でもクラウドファンディングという言葉がかなり浸透してきていますが、日本で通常クラウドファンディングと呼ばれているのは、クラウドファンディング四分類(寄付型、購買型、融資型、株式型)のうち、寄付型と購買型の二つ。何らかのプロジェクトを実現するための資金募集や、集めた資金で作成されるものを受け取る契約になっているものなどです。

これに対し、企業や個人の資金ニーズを満たすための融資による資金調達をクラウドファンディングの枠組みで行うのが、融資型クラウドファンディング、あるいはソーシャルレンディングと呼ばれるものです。欧米ではP2Pレンディング(Peer-to-peerレンディング)という呼称が一般的です。

日本のソーシャルレンディングの場合、基本的に借り手は事業者で、不動産購入資金や事業資金等のうち、担保掛目やスケジュール等の問題から銀行融資でまかない切れない部分が、ソーシャルレンディングによって調達されているようです。

投資の枠組みとしては匿名組合出資の形になっていて、投資家が組合に出資した出資金を元に、組合の営業者が事業者に資金を貸し出し、その元利返済金から営業者の利益や必要経費等を差し引いた金額が分配されます。匿名組合なので、分配金のうち利益となる部分は源泉徴収の対象となります。

リスクマネーですので、目標利回りは当然高く、国内への融資であれば4%~7%程度、海外へのマイクロクレジットでは10%超で募集されているようですが、目標利回りが高いということは、貸出先が返済不能となるリスクや、担保回収でカバーされないリスク、ソーシャルレンディング事業者又はその関連会社に信用事由が生じるリスク等が、相応に高いということです。

リターンとリスクがバランスを取るというのは、投資商品の基本中の基本です。どんな投資話にも必ず落とし穴がありますが、リターンが低い投資の落とし穴は通常小さく、リターンが高い投資の落とし穴は大きいのです。

■日本のソーシャルレンディングに欠ける新規性
上述のとおり、日本のソーシャルレンディングは、匿名組合方式のファンドに出資して、そのファンドが事業者に貸し出す、または事業者に貸し出す貸金業者に貸し出すという仕組みをとっています。この仕組みは普通の私募ファンドと同じで、ネットで募集して比較的少ない金額から投資できる以外は、特に目新しい点はありません。

先ほど、欧米ではPeer-to-peerレンディングという呼称が一般的だと書きましたが、慣例の問題だけではなく、同じ融資型クラウドファンディングとは言っても、日本ではそう呼ぶことができない理由があります。

Peer-to-peerには、借り手と貸し手を直接結ぶという意味合いがあるのですが、じつは日本のファンド型ソーシャルレンディングは、基本的に投資家が自ら借り手を選んで投資する仕組みがありません。これに対し、欧米のP2Pレンディング・プラットフォームでは、投資家が自ら直接、自分が資金を貸し出す相手と金額を指定する仕組みを実現しているのです。

例えば、融資型クラウドファンディング世界最大手でニューヨーク証券取引所への上場も果たしているLendingClub社(以下、LC社)の場合は、投資家が選んだ借入希望者に対して銀行が貸し出した個別の消費者ローンをLC社が買い取った上で、ローンの返済金と同額(但し、回収業務の費用を差し引き後)のキャッシュフローを受け取ることのできる社債をLC社が発行し、投資家がそれを購入するという形(注1)で、Peer-to-peerを実現しています。これは新しい仕組みです。

「既存の私募ファンドの枠組みをまったく超えずに募集だけネットでやりました」という日本の融資型クラウドファンディングは、欧米の融資型クラウドファンディングとはまったくの別物として理解する必要があるでしょう。

■日本のソーシャルレンディングの最もイケていない点
日本のソーシャルレンディングの一番の問題は、投資のリスクがどの程度あるのかという点がさっぱり分からないものが非常に多いという点です。米国P2Pレンディングの基準で考えた場合、ほとんどがそうだと言っても言い過ぎではないかもしれません。

先ほどのLC社の場合、借入希望者の過去の借入履歴等の信用情報や年収、職業、個人の信用度を示すFICOスコア、LC社の信用モデルによる格付等、多くの情報が投資家に開示されるだけでなく、過去の全債務者についての同様の情報のほか、全債務者のすべての返済履歴についても開示しています。

そうした情報が開示されているからこそ、投資のリスクを定量的に理解することが可能となり、Peer-to-peerが成り立つのだとも言えます。

翻って、日本の場合は、投資対象の事業者の財務や事業についての情報、担保価値や担保余力等、回収可能性について合理的に判断する材料が十分でないケースがやけに目立ちます。いくら利回りが高くても、リスクが計れないのであれば、投資商品としては欠陥商品だと言わざるを得ません。

個人的には、融資型クラウドファンディングのような、オープンに募集されるリスク性の投資商品というのは選択肢の一つとしては面白いと思っていますので、リスクに関する情報開示を充実させるといった、市場を健全な形で発展させるためのたゆまぬ努力を、融資型クラウドファンディング業者の皆さんには期待したいと思います。

ぜひ以下の記事も読んでみてください。
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■まとめ
・融資型クラウドファンディング市場が、日本でも拡大しつつあるようです。
・ソーシャルレンディングと呼ばれる日本の融資型クラウドファンディングは、これまでもあった私募ファンドをネットで小口で募集しているだけで、欧米等と比べ新規性に欠けます。
・欧米の融資型クラウドファンディングはP2Pレンディングと呼ばれ、貸し手と借り手を直接結び付けるものです。
・日本のソーシャルレンディングは、リスクに係る情報開示が不十分です。情報開示等を進め、市場が健全に拡大するよう、融資型クラウドファンディング業者は努力すべきです。

(注1)証券化と似ていますが、ローンはLC社のバランスシートに載ったままとなります。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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