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お笑い芸人のたむらけんじさんが、3月30日、コメンテーターを務める朝の生放送の番組に寝坊のため遅刻したことがニュースで取り上げられていた。たむらさんは生放送終了後、twitterでジョークを交えながら謝罪を行ったということだ。

遅刻は誰にでも起こりうることだが、この機会に、サラリーマンの遅刻について、世の中でよく言われている迷信を、3つほど社会保険労務士の目線から法的に斬っていきたい。

■遅延証明書を出せは遅刻にならないはウソ
第1の迷信は「鉄道の遅れは遅延証明書を出せば許される」ということだ。

確かに、少なからずの会社で、車両トラブルや人身事故などで電車が遅れた場合、遅刻を不問にしていることが多い。そして、これを当たり前だと認識している方も少なくないのではないだろうか。

だが、法的には決して当たり前ではなく、会社が「恩恵的」に不問にしてくれているのだということを知っておかなければならない。

1日の所定労働時間のうち、従業員の不就労があった場合、「会社は賃金を支払わなくてよい」というのが労働基準法の根本的な考え方なのだ。これは俗に「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼ばれている。

確かに、機械の整備不良で作業ができないとか、発注ミスで加工すべき原材料がないとか、会社側に落ち度があって従業員が就労できなかった場合には、「休業手当」といって、賃金の60%以上を補償しなければならない。

だが、逆に言えば、会社に落ち度がなければ賃金補償は必要がないということであり、従業員に落ち度がある場合は当然のこととして、会社にも従業員にも落ち度がない、まさに電車が遅延したような場合にも、会社は従業員の賃金を補償する必要はないのだ。

つまり、電車の遅延で従業員が遅れて就業を開始したら、遅れた時間分だけ、会社は賃金をカットして何ら問題はないのである。

なお、補足であるが、電車の遅れの場合は賃金をカットされない会社であっても、万事問題がないわけではなく、上司や人事部からは、「あいつはギリギリに来るからちょっと電車が遅れただけでも遅刻するのだ」と、社会人としての評価が下がっていることは認識しておいたほうが良い。

つまり、余裕を持って出社するのが社会人としてのマナーということである。

■遅刻を有給消化でカバーできるのはウソ
第2の迷信は「遅刻をしても有給を使えばチャラにできる」ということだ。

これも、実務上は少なからずの会社で許されていることであるが、「遅刻した日に有給休暇を使う」というのは本来、法的にはできないことなのである。

有給休暇は、確かに従業員が好きなときに取得できるのが原則である。だが、会社側にも「時季変更権」があることを忘れてはならない。

「時季変更権」とは、会社が有給休暇の取得を申請しようとした従業員に対して、「ちょっと待ってくれ。その日に休まれると困るので、別の日に有給休暇を取得してくれ。」と言う権利である。

従業員から有給休暇の申請があった際には、会社も時季変更権を使うかどうか判断しなければならない。

したがって、有給休暇を事後的に申請したり、取得の直前に申請したりすることは、会社から時季変更権を奪うものとして許されず、会社はその有給休暇の申請を却下して差し支えない。

なお、法的に明確な基準があるわけではないが、少なくとも有給休暇を取得する日の前日までには、従業員は申請を出すことが求められるであろう。

そう考えると、「遅刻をしたから事後的に有給休暇を申請する」などということは、本来「もってのほか」なのである。会社としては、「遅刻時の有給申請は求めない」と宣言しても、何ら問題はない。

■遅刻に対する罰金制度があるのがブラック企業なのはウソ
第3の迷信は「遅刻をしたら罰金をとる会社はブラック企業である」ということだ。

“第1の迷信”のところで、「ノーワーク・ノーペイの原則」について触れ、会社の責任以外で従業員に不就労があった場合、その時間の賃金は支払わなくても良い旨を説明した。

これは、説明されれば納得できる人が多いのではないかと思う。

では、さらなる賃金の減額として、「遅刻30分につき日給1割カット」のような罰金制度を設けたときにどうなるのかということである。

この点、「罰金制度なんてとんでもない」「罰金なんてブラック起業がやることだ」などと感じる人も多いであろう。

だが、労働基準法を見ると、第91条に「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定められている。

つまり、労働基準法は、第91条に規定された範囲であれば、懲戒の一種として罰金制度を設けることを認めているのである。

したがって、上記の「遅刻30分につき日給1割カット」という罰金制度は、労働基準法第91条の「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」という上限の中に納まっているので合法であり、法的には何ら批判されるべきものではないのだ。

労働基準法91条で認められた範囲を超える罰金を課したり、遅刻を1回でもしたら月給の1割を罰金として引くといったような、行為に対して過大すぎる罰金を課したときに、はじめて違法性が問題になるのである。

当職の私見であるが、ノーワーク・ノーペイの原則だけでは、例えば10分の遅刻には10分に対応する賃金しかマイナスできないので、遅刻をした従業員もさほど痛みは感じない。これでは、遅刻の常習犯の従業員は改善する動機付けが難しいであろう。

あえて痛みを感じさせて、遅刻をさせないように教育するという意味で、遅刻に対して罰金制度を用いるというのも、あながち的外れではないのではないだろうか。

そう考えると、遅刻に対して罰金制度を設けている会社というのは、「ブラック企業」というよりも、むしろ「社員教育に熱心な企業」という見方もできるのではないだろうか。

会社にしてみれば、罰金額を計算したり、給与明細に罰金の項目を追加したりするのも、事務作業が増えて大変なのである。

■結び

本稿を読んでいただいて、「遅刻」に対して労働基準法がいかに厳しい考え方をしているのかということと、それに対して実務上は会社がいかに恩恵的な対応をしてくれているかを感じた方も少なくないのではないだろうか。

時間を守るというのは、法的な観点からはもちろんのこと、社会人にとってのマナーの第一歩でもあるから、余裕を持って行動して、遅刻をしないよう心がけたいものである。

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社会保険労務士 榊 裕葵


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