コスモス
現代は、メンタル受難の時代である。「上司のパワハラにあい自殺」といった報道も珍しくはなくなった。日々メンタルが疲弊している方も多いのではなかろうか。

メンタルケアの専門家の一つが、カウンセラーである。カウンセリングを受けた経験のある人や、メンタルを病んだ同僚がいる人等を中心に、カウンセラー志望者は相当数いるというのが筆者の実感である。

一方で、カウンセラーという職業に関する具体の情報は、案外少ない。「カウンセラーになるには」的な書籍を読んでも、「今後はカウンセラーの需要は益々高まるものと思われる」といった記載に終始している場合が多く、カウンセラーへの転身を考える人にとっては、いまいち参考にならない。そこで本稿では、カウンセラーの端くれとして、カウンセラーへの転職事情等についてご紹介したいと思う。

■カウンセラーに必要な資質
カウンセラーの転身について論ずる前に、「カウンセラーに必要な資質」について触れたい。筆者は以下の3点が基本ではないかと考えている。

第1には「心身ともに健康であること」である。何を改まって、と思われるかもしれないが、カウンセラー志望の人の中には、自身が過去にメンタル不調で悩んだ経験や精神疾患の治療歴を持つ人が少なくない。そうした経験は当然恥ずべきものではないが、相談者の悩みを丁寧に聞いていくことは、カウンセラーにかかる心身の負担は大きい。万が一、カウンセラー自身が(精神疾患を含めた)疾病を抱えたままその職務に従事するならば、思わぬ体調不良状態に陥ってしまう可能性が高いのである。

第2には「異なる価値観についての理解があること」である。実社会において異口同音は殆どの場合あり得ず、10人集まれば10通りの価値観があって然るべきである。例えば「父が死んだ」という事実に対して、「悲しい」と感じる人もいれば、諸々の事情があって「嬉しい」と感じる人もいる。良し悪しの価値判断は一旦留保して、多様な価値観に共感できることが必須であろう。やっとの思いで相談したのに、話の内容に怒り出すようなカウンセラーは、不適格だと断じざるを得ない。

第3には「人の話がしっかり聴けること」である。「人の話を遮らずにはいられない人」や「人の話を評価・論評せずにはいられない人」は、残念ながら不向きかもしれない。もっとも、カウンセラーを目指す過程(後述するカウンセラーの資格を取得する過程)で話の聴き方については相当程度の訓練を受けるはずであるから、第3の要件は努力次第では改めやすいものと思われる。

■カウンセラーの職場
では、カウンセラーの働く職場にはどのようなものがあるだろうか。一般には、総合病院の精神科や心療内科で心理検査を行うような光景を想像されるかもしれない。また、公立小中学校のスクールカウンセラーもイメージしやすいだろう。

ビジネスパーソンが活躍し得る職場としてご紹介したいのが、いわゆるEAP企業である。EAPとは、Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略であり、メンタル面から労働者を支援するプログラムを指す。社会問題化している労働者のうつ病などを回避させるために、企業が外部団体と契約して社員の心の健康をサポートするシステムである。大手企業にお勤めの方であれば、自社の福利厚生の一メニューとして整備されている場合もあるのではなかろうか。

これらEAP企業の求人においては、要件に「企業・法人等で勤務した経験」「管理職経験」等が盛り込まれていることがある。ビジネスパーソンの相談に乗るという職務内容からも、ビジネスの世界で培った経験が活かせる環境であると思われる。

EAP企業の求人については、通常のものと同様、就・転職サイトやハローワーク等の公共職業あっせん機関等にて確認が可能な他、産業カウンセラー協会等関連機関をとおして行われるものも多い。

しかしながら、求人に際しては、ビジネスマン経験の他に、特定の資格を要件とする場合も多い。以下カウンセラーの資格について簡単にご紹介したい。

■カウンセラーの資格
現在、我が国におけるカウンセラーの国家資格はなく、民間資格が複数存在していることは前回記事 で述べた。以下では、資格取得がカウンセラーへの転身という視点においてどのように活用し得るかを述べる。

カウンセラーの資格として最もメジャーな資格は「臨床心理士」であろう。公立学校のスクールカウンセラーのほとんどが臨床心理士であることからも、知名度の高さがうかがえる。

臨床心理士になるには、指定大学院に入学する必要がある。ビジネスパーソンにとってのネックは、この「指定大学院への入学および実習」であろう。

例えば佛教大学大学院では、病院や教育機関での配属実習として、「週1日の実習を15週間にわたり実施」×2科目分+配属実習と連動したスーパーヴィジョン(教員による面接指導)が年8回あるという。勿論、実習以外にも、大学院レベルのレポートや試験等がある。心理系の学部卒、かつ学生時代に真面目に勉強に勤しんでいたであるとか、バイタリティがあり徹夜も厭わない体力・気力の持ち主であるである等の事情がなければ、資格取得までには相当の努力を要するものと思われる。

そこで、あくまでビジネスパーソンが取得しやすいという観点でお勧めしたいのが、「産業カウンセラー」または「キャリア・コンサルタント」である。両資格は、養成講座として数か月~半年間の座学・実習に参加を要するが、講座の開設日は土日祝、または平日の夜間であり、勤務の傍ら通学しやすいカリキュラムとなっている。

全国の主要都市で講座が開講していることも魅力である。臨床心理士指定大学院入試と違い入学試験はなく、学歴・職歴を問わないのも特徴の一つだ。あくまで筆者の経験則となるが、講義内容も実際の会社場面に特化したケースが扱われることが多く、ビジネスパーソンには馴染みの多い内容と思われる。そういった意味で、挑戦しやすい資格だろう。養成講座を通じての人脈形成も、会社と家との往復だけの生活では決して得ることのできないものである。

なお、資格団体によっては「最短○ヶ月で資格取得!」「独立開業が可能!」といった謳い文句で受講生を集めているところもある。それらの団体の「資格取得後の就職実績」を見ると、なんと当該団体の専属カウンセラーと堂々と紹介されていて、ギャフンと思ったりもする(これは、我が国においてカウンセラーの国家資格が存在しないことに起因する問題である)。

当然に、臨床心理士や産業カウンセラー以外にも資格は多く存在するが、特に就転職という観点から役立つ資格をとお考えであれば、ネットで当該資格名を検索し、各EAP企業での求人要件に掲げられているか、といった情報をお調べすることを強くお勧めする。

■まとめ-カウンセラーへの転身にあたって-
今までの議論と矛盾するようであるが、「カウンセラーへの転身」は、なにも転職をお勧めするものばかりではない。日々の業務においても、カウンセラーのエッセンスを活かせる場面はないだろうか。

例えば、企業の研修担当者がカウンセラー的観点から「部下の話の聴き方研修」を企画する、上司として、カウンセリングの技法を活かしながら部下の相談に対応する等、工夫次第で活用の機会は多いのではないだろうか。「カウンセラー」としてバッターボックスに立たずとも、そのエッセンスを活かした仕事は無数にある。

しかしながら、やはり一念発起カウンセラーに転職したいうお考えも共感できる。我が国においては、まだまだ市場が未成熟なこともあり、例えば自治体のスクールカウンセラーは殆どが非正規・有期雇用である。ハローワークの相談員も然り、家族を養いながらカウンセラー専従で食べていくとなると、なかなか厳しいのが現状だ。

また、資格団体によっては資格取得後の安易な独立開業を勧めるきらいがあるが、賛同できない。カウンセリングは一朝一夕でできるものではなく、相応の訓練が必要なことは言うまでもない。未熟なカウンセラーを量産することは、相談者にとってもカウンセラー本人にとっても不幸なことだ。将来的には独立を見据えることもあるかもしれないが、まずは教育訓練体系がしっかりした組織で力をつけるべきであるというのが筆者の考えである。

求人情報を見る限りでは、EAP企業においては様々なバックグラウンドを持つビジネスパーソンを求めている。求人の多くは正社員であり、会社規模にもよるがカウンセラー業務で食っていくことも可能かと思われる。当然顧客獲得のために、スタッフの教育訓練に熱心な企業も多い。

「SE専門のカウンセリングを提供」「メールやスカイプを用いて時間的・空間的制約を排除」「メンタル不調防止の研修とカウンセリングをタイアップ」等、提供するサービスや求められるスキルもさまざまである。そういった職場で経験を積みながら、カウンセラーとして成長していくという道を選択してみてはいかがだろうか。

【参考記事】
■メンタルが限界だと思ったら誰に相談すべきか?!-良いカウンセラー・悪いカウンセラーを見分けるポイント-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/43348690-20150212.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか? (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/44175529-20150408.html
■「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~ (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/42556186-20141224.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43405362.html
■大学で簿記3級を教える事は正しい。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/41604444-20141029.html

後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント


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