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とにかくモノが溢れている。結果、「どれを選べばいいのかわからない」→「(だから)買わない」→「(売れないから)新商品を出す」→「さらにモノであふれる」という悪循環に陥っている。

例えば、本。出版年鑑2015によると、新刊書籍は年間で約8万冊も出ている。1日に換算すると約220タイトル。文化庁「平成25年度 国語に関する世論調査」によると、1か月に一冊も本を読まない人の割合は47.5%と最も高く、ついで「1、2冊」が34.5%だ。3冊以上読む人は全体の2割に満たない。月に1冊しか買わない場合、翌月に本屋にいくと新しい本が6,000冊も追加で並んでいる状態だ。これでは消費者が選びきれないのは当然かもしれない。

■「選ぶ」手間を省けば売れる?
こんな状況を打破するために生まれたのが、「サブスクリプションコマース」と呼ばれる会員の仕組みだ。日本語に訳すと”定期購入”。一定の月額料金を支払うと、ショップが選んだおすすめの商品が定期的に届く。つまり、顧客の負担になっている「選ぶ」手間を減らしますよというサービスだ。

マーケティングの先進国である米国で2011年頃に火がつき、日本でも水、ワイン、化粧品や野菜など日用品を中心に2012年頃から広まり始めた。オフィスや家庭でよく目にするようになったウォーターサーバーなど、今や2,000億円を超える市場だ。

さきほどの本の場合も、北海道砂川市にある「いわた書店」が行う「1万円選書」が最近話題になった。1万円を払うと、新刊を中心に合計で1万円分、13冊ほどの単行本を購入者別にセレクトして送ってくれるというものだ。月に6,000冊もの新刊が出る有り様では、どれを選べばいいかわからない。本が読みたいけれど、どれを読めばいいのかわからない。そんな人に取っては打ってつけのサービスだ。実際、予約が殺到しており、半年先まで予約待ちだという。

このような事例を知ると、サブスクリプションコマースを運用すればうまくいくのではと思える。しかし、すべての商品がそのまま当てはまるわけではないようだ。

■ミクシィが撤退した定期販売サービスとは
サブスクリプションコマースの運営企業が参加する日本定期販売サービス協議会(JSCA)に登録されている商品を見ると、お米、日本酒、コーヒーなど「食べ物や飲み物」が中心で、意外にもファッション系が少ない。

ファッションの世界も本と同様、毎年とんでもない数の新商品が生まれる。「選びきれない」という気持ちが顧客に生まれるのも自然だろう。一見、サブスクリプションコマースに適しそうだが、SNS大手のミクシィが服の定期販売を諦めた事例がある。

ミクシィは2013年9月に10代から20代の女性をターゲットとした服の定期販売サービスを立ちあげた。ところが、「服は嗜好性が強く、好き嫌いや値段で決めるため、定期販売には合わない」と判断し、なんとわずか半年で撤退しているのだ。

なぜ、ミクシィの試みが外れたのか。嗜好性が強いのは、ワインなども当てはまるはずだ。ファッションは例外なのだろうか。

実は、ファッションには食べ物や飲み物にはない商品としての別の性質がある。この点を見抜き、順調な滑り出しを見せているサービスがある。

■モノではなく、「センス」を売る
システム開発会社ノイエジークが展開する「エアークローゼット」。

月額6,800円を支払うと、スタイリストが選んだ服を毎月3着送ってくれるという服のレンタルサービスだ。特徴は2つある。1つは利用のしやすさ。自分で選ぶ手間が省けるだけでなく、返却時にクリーニングをする必要がない。無料の返送用伝票を添付してそのままコンビニに出すだけなのだ。

そしてもう一つの特徴が、プロのスタイリストの存在。
エアークローゼットでは、スタイリストが利用者のアンケートを確認し、次月送るものに反映させていくという。使えば使うほどより自分に合う服が送られてくる仕組みだ。

このサービスには、大切なことが隠れている。それは「服を売っていない」ということだ。先ほどの「1万円選書」と異なり、「服」はレンタルだ。顧客のものではない。顧客は「服」そのものではなく、プロのスタイリストの「センス」に対してお金を支払っている。

いくらプロが選ぶとはいえ、毎月送られてくるものの中には、気に入らないものが入っている可能性もある。服は嗜好性が強い。服に対して、顧客は「失敗したくない」という気持ちが働く。これこそが食べ物などとは違う点だ。

この気持ちを見事に汲みとっているのが「レンタル」だ。気に入らないものがあっても、買ったわけではないから「失敗」にはならないのだ。

こうした仕組みに支えられ、2015年2月にスタートしたばかりの「エアークローゼット」は、事前登録も含め、会員数は早くも4万人を超えており、順調な滑り出しを見せている。

商品が溢れかえり、競争が激しい。その環境を脱しようと新しい仕組みをそのまま利用するのではなく、「選ばせない」「売らない」というような逆の発想を付け加えてみる。これまで常識とされてきたところに、新しいビジネスチャンスの芽が隠れているかもしれない。

【参考記事】
■ライザップと行列ができる本屋の共通点。
http://sharescafe.net/44050998-20150331.html
■相次ぐ牛丼大手の値上げに見る、付加価値というモノの位置付け 
http://sharescafe.net/44338355-20150420.html
■ソーシャルメディア時代に求められる、お客様との向き合い方 
http://sharescafe.net/43907807-20150323.html
■「すき家のゼンショーがベア2000円」に感じる空々しさの正体は、やはり雇用格差問題だった。
http://sharescafe.net/43888995-20150320.html
■シェアリング・エコノミーの発展で、これまでのITの常識は崩れるのか。
http://sharescafe.net/43452263-20150219.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表


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