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クドナルドの原価率は96.1%、つまり粗利(あらり)はたったの3.9%……。

先日「マクドナルドの『原価』を調べてみた」という記事ではこのように書いた。こんなに原価が高いければ利益は出ないだろう、と多数の反響をいただいた一方で、原価の計算がおかしい、原価に人件費や家賃は含まない、などいくつかの指摘もあった。

その中には飲食チェーンのステーキけんを経営するエムグランドフードサービス社長・井戸実氏のコメントもあり、ツイッターでは以下のように手厳しいコメントを頂いた。


さて、これらの指摘は正しいのだろうか。結論から言えば100%間違っている。マクドナルドの決算書では「製造原価明細書」として、材料費以外に労務費(人件費)、その他(家賃・光熱費など)も記載されている。つまり店舗でハンバーガーの調理に携わる人の給料も家賃も原価として計算しているという事になる。

飲食業の常識では原価=材料費という事になるのだろうが、会計ルールはそれほど単純ではない。「マクドナルドの原価を調べてみた」を書いた動機は、企業経営を語るなら最低限、原価の構造くらいは見てから議論してほしいと思ったからだ。しかし原価の定義が人によって曖昧で、飲食店経営者ですら正確に理解していないのであれば、さらにさかのぼって説明する必要があるだろう。

■原価とは何か?
「原価」と聞いて想定する範囲は人によって異なると思うが、企業会計では以下のように決められている。
「売上原価は、売上高に対応する商品等の仕入原価又は製造原価(中略)」
企業会計原則より。

原価とは仕入原価か製造原価である、と書いてあるがこれも説明が必要だろう。一番わかりやすい原価は小売業などで用いる仕入原価で、仕入代金がそのまま原価となる。

一方、製造業であればもう少し複雑だ。何かを製造する際には「材料費」以外に、モノを作る人の「人件費」、工場や設備とそれらを動かす電気代などの経費も必要となり、これらが原価=製造原価となる。

※かなり簡略化して説明しているので、詳細は専門書・専門家等に確認されたい。

■飲食業は製造業+小売業。
ではマクドナルドのような飲食店は小売業と製造業、どちらなのだろうか。店舗で料理を作るという面では製造業の要素があり、作ったものを店舗で売っている面を見れば小売業でもある。

会計処理は企業によってまちまちで、原価に人件費を計上している企業もあればしていない企業もある。企業によって扱いが異なる点について、4大監査法人の一つである新日本有限責任監査法人では以下のように説明している。
「店舗で発生する人件費を、売上高と直接対応させて売上原価(製造原価)として捉えるか、売上と直接対応しない費用として販売費として捉えるかといった違いによるものと考えられます。」
外食産業における営業業務 新日本有限責任監査法人 HPより

つまり、モノ作りのコストとして原価に計上している企業もあれば、原価ではなく販売管理費(販管費)として計上している企業もある、という事だ。販売管理費には通常、人件費や家賃、宣伝広告費などが計上される。

■粗利と営業利益の違い。
企業の利益は何段階かにわけて計算するが、売上から原価を差し引いたものを売上高総利益(うりあげだかそうりえき、いわゆる粗利)、そこから販管費を差し引いたものが営業利益(本業の利益)となる。勘違いした指摘の多くは、人件費は例外無く販管費であって原価ではないという思い込みによるものだ。すでに説明したように製造業として原価計算するのであれば人件費も原価に含む事になる。

企業は人件費をどのように判断をしているのかというと、以下のようになる。
「店舗やセントラルキッチンで料理人が調理を行う場合と、食材加工のほぼすべてを納入業者が行い、店舗ではアルバイトがそれを温めるのみといった場合では、店舗での調理を主要業務と捉えるか販売のための付随的な業務と捉えるかによって、人件費の捉え方に違いが生じることになります。」
外食産業における営業業務 新日本有限責任監査法人 HPより

店舗は「工場」と「お店」のどちらなのか?という事だ。これは企業によって異なるだろう。つまり実態に即して計算していれば正しいという事になり、人件費や家賃を原価に含む事は間違い、という指摘の方が不正確だと言える。

■製造業と飲食業の違い。
製造業では原価に人件費を計上するため、工場で働く社員に払った人件費が、倉庫に在庫の形で眠っていることは普通に起こりうる。そして給料を払ったのが今年でも商品の売れた時期が翌年であれば、在庫に含まれた人件費が費用として計上されるのも翌年という事になる。

これは費用と売上は対応させる、つまり売上を得るために使った金額しか費用は計上できないという会計ルールがあるからだ。まだ売れていない商品に関わる人件費を計上してしまえば、結果として正しい利益は計算できない(払った給料が費用として計上されない、つまり現金の動きと利益の計算は異なるという点はキャッシュフローの話になるが、本筋から外れるので省略する)。

飲食業の原価計算が小売業と製造業のどちらの方式でも許されている理由は、今年作ったものを来年売るといったタイミングのずれが基本的に起こらないからだと思われる。売上と費用が対応していれば、計上する項目が原価でも販管費でも最終的な利益の額は変わらない。

各飲食業の「製造原価明細書」を見ると、マックのように原価に占める材料費の割合が3割程度の企業もあれば、サイゼリヤは71.8%、王将は93.2%となっている(いずれも有価証券報告書より)。一番調理に手間がかかっていそうな餃子の王将が材料費だけで原価9割を超えている理由は、店舗の人件費をほとんど原価として計上していないから、という事になる。

■マクドナルドが人件費を原価に含める理由は?
マックが店舗の人件費と家賃を原価とする理由は、店舗のコストと本社のコストをできるだけ分離することで利益の計算を整理することも目的の一つではないかと思われる。同じ家賃や人件費でも、性質が異なるものは原価と販間費で分けて計上したほうがより正確に利益を計算できる場合もある、という事だ。

以下の記事も参考にされたい。
■マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43641340.html
■マクドナルドの「原価」を調べてみた。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43707071.html
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43721475.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43503648.html
■破れたソファーと落書きを放置するマクドナルドはしばらく復活出来ないと思う件について。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/42649631.html

原価というシンプルな言葉一つとっても誤解や勘違いはある。恥ずかしい議論をしないためにも最低限の知識は身に着けておきたい。

※今回の記事の内容は簿記二級レベル、商業高校レベルの話でなんら高度な知識は必要としない。ビジネスマンなら常識レベルの話だ。記事への反響を見る限り、改めて簿記は音楽や美術と同じように学校で教えればいいのにと思わされた。

※※「マクドナルドの原価を調べてみた」の記事には、ありがたい事に経営学の教授からゼミ生に向けて読んでおくようにという指示も出ていた。

※※※96.1%という数字は日本マクドナルドホールディングス・平成26年の有価証券報告書から、「製造原価明細書」で直営店売上原価として記載された材料費35.9%、労務費32.4%、その他27.8%、合計96.1%、という数字を引用したもの。

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

※マクドナルドに関する4本の記事はヤフートップ掲載、ヤフーニュースの経済カテゴリ4連続1位といずれも多数のアクセスを頂きました。
■1.マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
■2.マクドナルドの「原価」を調べてみた。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
■3.なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか? (中嶋よしふみ SCOL編集長)
■4.ステーキけんの社長も間違える、マクドナルドの原価96.1%について。(中嶋よしふみ SCOL編集長)
破れたソファーと落書きを放置するマクドナルドはしばらく復活出来ないと思う件について。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)


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