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スーパーに働きに出たサザエさんの番組「スーパーのお姉さん」が放映されて約1か月になります。すぐに働くのをやめてしまったサザエさんについて盛り上がった議論もひと段落したようです。

放映内容は、サザエさんがスーパーに働きに出て活躍したものの、タラちゃんが寂しさを訴えたことと、外で働くのは思った以上に疲れることに気づいたため、わずか2日間の勤務でやめてしまったというもの。その後の議論では、「古き良き昭和の家庭なのだから」と番組の内容を擁護する意見がある一方、「わずか2日とは無責任だ」「子供が寂しがっているというのは一昔前の価値観だ」とサザエさんの働く姿勢に疑問を呈するものも多かったようです。

筆者は放映当日に番組を見たわけではありません。しかし、もしサザエさんがスーパーの仕事をやめるにあたって相談にきたら、キャリア・コンサルタントとしてどんな話をするだろうか、その後の議論を見ながら考えていました。外で働く女性が増えたとはいえ、現実には子供のことが理由で家庭に入る選択をする人も少なからずいるからです。キャリアカウンセリングの様子を妄想しながら、女性が働きに出ることをいったん止めて家庭に入るリスクについて考えてみたいと思います。

■サザエさんがキャリアカウンセリングを受けたなら…
・キャリア・コンサルタント朝生:こんにちは。今日はどんなご相談ですか?

・サザエさん:実は…仕事をやめようか迷っているんです。

・朝生:やめようかと迷っている。

・サザエ:はい、2日ほど前に近所のスーパーで販売の仕事を始めました。仕事は楽しかったのですが、体力的に厳しいのと子供が寂しいといったのでやめようかと思っているんです。でもさすがに2日でやめるというのは気が引けて…。

・朝生: やめたいというお気持ちははっきりされているけれど、2日は短すぎるのでもう少し続けようかと迷っているんですね。

・サザエ:はい。体力は慣れれば何とかなるかなと思うのですが、子供が寂しいというのを聞いていたら切なくなっちゃって…。やっぱり家にいて子供のそばにいたいと思ったんです。

・朝生:お子さんに対して切ない、お子さんのそばにいたいと思われたんですね。

・サザエ:そうなんです。家に帰ると疲れきっているので子供が近寄ってきても、「今疲れているから寄ってこないで…」という気持ちになっちゃって、それでまた後ろめたくなってしまうんです。

・朝生:後ろめたい…それで仕事を辞めて、お子さんにとって元気なお母さんとしてそばにいようと考えるようになられた。

・サザエ:仕事してみてわかったことなんですが、私はタラにとって「元気なお母さん」いることが、大事なんですね。

・朝生:ご自身にとって大事なことがわかったとしたら、仕事をしてみたことは無駄ではなかったようですね。

・サザエ:そう考えることもできますね。仕事も楽しかったんです。けっこう売れちゃったりして、自分に向いているのかなと思ったこともあったんですが…。子供に寂しいと言われたら、やっぱり今は子供のそばにいたいという気持ちが強いことに気が付きました。

・朝生:仕事が楽しかったということは、職場では結構活躍されていたんですね。実はよいお母さんというだけでなく、よいビジネスウーマンの力もお持ちかもしれないですね。

・サザエ:いえ~。そんな…お財布忘れて買い物にいっちゃったり、はだしで猫を追いかけちゃったり、そそっかしいんです、わたし。

・朝生:いろいろ武勇伝をお持ちのようですね。で、いまはお母さんということを優先したいというお気持ちなんですね。

・サザエ:はい。今思うと、仕事を始めたのもなんとなくで…。子供のことも自分のことも、ちゃんと考えていなかったですね。これもそそっかしいお話で恥ずかしいです。だから2日でやめたくなってしまうんですが…短すぎて迷惑ですよね?

・朝生:確かに迷惑かもしれませんが、いつかやめようと思って続けられるのも企業側にとっては迷惑でしょうね。どちらにしても迷惑をかけるのなら、正直に今の気持ちをお伝えになってはいかがでしょう?

・サザエ:つい軽い気持ちで働きに出てしまったこと、ちゃんと謝ります。これ以上迷惑かけないように、どのタイミングでやめたらよいか相談してみます。

・朝生:辞めるというお気持ちは確かなようですね。反省もされているようですから、会社にはそのお気持ちもしっかり伝えてください。

ただ、専業主婦として家にいらっしゃるのは先のことを考えると心配な点もあります。たとえば将来はお子さんの手も離れますよね。その時のことはお考えですか?あるいは、縁起でもないですが、ご主人の会社が業績不振で今まで通りの収入が得られなくなってしまうかもしれない。

・サザエ:そんなことは考えてもみませんでした。そんなことになったら、働きに出るしかないですね。

・朝生:そんなときは働きに出ようというお気持ちなんですね。ただ、お勤めに出ない期間が長くなると、企業側も採用するのは慎重になります。「未経験者可」とあっても、どうしても経験のある人が優先されるのが現実です。

・サザエ:やっぱり再就職って難しいんですね。働き続けないといけないのでしょうか?

・朝生:ブランクがあると絶対に再就職できないというわけではありません。いつか就職しようと考えていらっしゃるなら、専業主婦でいる期間も将来は外で働くことを意識して準備していかれてはいかがですか?

・サザエ:わかりました。外で働くやりがいも感じられたので、子供の手が離れたときに働くことも考えます。そのためにどんなことをしていったらよいでしょうか?

・朝生:主婦の仕事の中でも組織に関わることや家庭以外の社会に触れることは、一つの選択肢だと思います。たとえばPTAや町内会ですね。

・サザエ:なるほど。ちょっと考えてみます!専業主婦でいても、将来働く準備はできるんですね。

・朝生:これからも応援していますので、ぜひがんばってください。

■キャリアの決断は何かを捨てること
家庭の外で働く女性が増えてきたとはいえ、いまだにM字カーブといわれる日本女性の特有の就労率の落ち込みはいまだに見られます。厚生労働省の平成22年の調査によると、女性の就業率がもっとも低くなる35~39歳の数値は62.6%で、4割近くの女性が就業していません。就業率が最も高い25~29歳でも72.7%であり約3割が就業していません。外で働かず家庭に入っている女性がはけっしてマイナーな存在ではないのです。

家庭に入った女性の中でも、サザエさんのように子供のためという理由の人は多いと思います。自分の働きたい気持ちより、子供の気持ちを優先するのもそれは本人の価値観です。サザエさんのその決断を尊重したいと私は考えています(番組内容が時代に合っているかどうかという議論は別にして)。ダイバーシティ(多様性)の重要性は、企業経営だけの話ではなく、世の中全体のものとしてとらえられるべきでしょう。「子育てを優先したい」という価値観も多様な価値観の一つです。

ただし、キャリアにおいて一つの選択をするということは、必ず何かを捨てることが伴います。そして何かを捨てたことで、必ずリスクが生じます。そのリスクを十分認識せずにいると、後々後悔することになりかねません。サザエさんの例でいえば、専業主婦の道を選んだことで将来、子供から手が離れたときの復職の可能性が低くなることや、マスオさんや波平さんらがリストラにあった時に、生計を支えられなくなるリスクが生じます。

■捨てたことで生じるリスクに備える
キャリアの選択においては、その選択でどんなリスクが生じるのかをまず洗い出してみることをお勧めします。そのうえで、今後そのリスクを減じる方法はないかを考えていくことで、「こんなはずではなかった」と後悔する可能性を低くすることができます。サザエさんにとっては、今は母親がいないと寂しいと言っている子供が何年か後には親離れをしていくことはほぼ確実でしょう。その後に生きがいをなくしてしまうリスクに備え、今からできることはないかを考えておくことをキャリア・コンサルタントとしてはお勧めします。

リスクの洗い出しにあたっては自分で考えるだけでなく、ぜひ第三者、できれば専門家に相談していただきたいと思います。自分ひとりで考えると、希望的観測などの主観要素や知識不足により、視野が狭くなってしまうからです。

何より、第三者とリスクへの対策を考えていく過程は、自分自身の決断を吟味する効果があります。他人から意見を言われたときに、自分の心の中に起こった感情によって、自分が何をしたいのか、何を避けたいと思っているのかを何度も検証することになるからです。「あえてその人の意思決定の方向とは反対の意見を言って、その決意のほどを確かめる」といったことも、キャリアのアドバイスをする際によく言われる話です。

さらに、数年ごとに自分の決断を見直すことをお勧めします。環境変化は年々激しくなりつつあります。決断の方向が大きく変わらなくてもリスクに備える方法は陳腐化しやすいのです。健康診断で数年ごとに自分の健康状態をチェックするように、キャリアにおいても定期的に志向やスキルについて検証していくことで、リスクを低減できるのです

キャリアの選択において、これが正解というものはありません。時には客観的に見ると「誤り」ではないかと思う決断もするでしょう。しかし重要なことは、本人が「自分で選んだ道だ」という確信を持つことです。選んだ道を後悔しないためには、第三者の知恵も借りてできるだけリスクを低減するための手を打つこと、たとえ「失敗」してもそれを糧にする方策を考えるといった過程を経ることが大事であると考えています。

【参考記事】
■40代から見つける自分らしい働き方(1)前編~大手教育機関広報室長からスタートアップベンチャーへ
http://sharescafe.net/44250159-20150413.html
■40代から見つける自分らしい働き方(1)後編~転職先での成功の秘訣
http://sharescafe.net/44625300-20150508.html
■転職で忘れられがちな職務経歴書を書く視点
http://sharescafe.net/42183394-20141202.html
■辞任閣僚に学ぶ、女性リーダー生き残りの心得
http://sharescafe.net/41591678-20141028.html
■サザエさんが働きに出た!!
http://sharescafe.net/44465516-20150426.html


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