SCOL36
サイボウズ社の青野社長のお話が伺える、ということで、先日、第2回若手中小企業診断士シンポジウムに出かけてまいりました。分科会のテーマは「日本に多様な働き方を根付かせる」です。アクトコンサルティング社野間氏のファシリテートのもと、1時間を超えるお話でした。

サイボウズ社は以前の記事でも取り上げた、「大丈夫」という働くお母さんの現実を描いたムービーが話題となりました。同社はグループウェアやクラウドサービスを提供しており、通常は激務が想定されるIT企業です。青野氏いわく、離職率が28%にまで上昇したことがきっかけで働き方を見直そうと思った、とのことですが、そのお話には今後の働き方を変えていくヒントになる内容がたくさんありました。

中でも私が「目からうろこ」だったお話が4つあります。
(1)人材の多様性を当たり前と受け入れ、人事制度はあとから足していくもの
(2)働き方を決める上で世界一のグループウェアの会社を作るというコミットメントは絶対に崩さない
(3)風土=価値観を変えることが重要で、早く帰るかどうかはやるかやらないかの気合の問題
(4)働く個人の評価は市場にゆだねる

■(1)多様性は当たり前で、人事制度は足していくもの。
この発想には驚きました。通常、人が働きやすくするためになるべく最大公約数となるような制度を考えますが、発想が全く逆なのです。人に制度を合わせて足していく、という考え方は自分にはなかったことだったので、非常に新鮮に聞こえました。

人事制度は個人の意見を聴いて合わせる。こうしたことはむしろ中小企業でやりやすいことです。実際に、長時間働けないパートの主婦の人たちのシフトをうまく組んでモチベーションをあげ、売上を伸ばしている十数名の企業も存在します。

■(2)働き方を決める上で世界一のグループウェアの会社を作るというコミットメントは絶対に崩さない
働き方施策は、福利厚生ではなく、会社の存続を決める重要な経営戦略です。人を甘やかす施策ではありません。

日本は高齢化社会を迎え、長時間労働できる人たちだけで会社を運営していくのはとても困難になります。一方で、中小企業といえどもインターネットの普及によってグローバル競争に巻き込まれ、競争相手は世界に広まっています。売上・利益を伸ばすことは以前にくらべますます困難になってきているのです。

こうした環境がますます進むなか、数時間しか働けない人たちをどう配置して、やる気を引き出して会社としての経営目標を達成し経営理念を実現させるか。経営者や管理職は以前よりももっと高度なマネジメント能力を求められるのです。その為の手段の一つが、働き方施策ということになります。

■(3)風土=価値観を変えることが重要。早く帰るかどうかは、やるかやらないか、気合の問題。
いろいろな働き方の制度が企業で作り上げられる中、実質的にはなかなか機能しない日本。男性の育児休暇取得率はいまだ2%台、長時間労働は相変わらずです。そんな中、現在3人のお子さんの父親である青野社長は16時に帰宅します。やればできるんだ、と勇気づけられます。

「大丈夫」のムービーにもあったとおり、保育園の送迎はお母さんがしている家庭も多いでしょう。多くの母親が出産復帰後、生産性を上げて、何が何でもお迎えの時間に間に合うように仕事を終わらせて園ダッシュしているのです。私自身も過去、何度も保育園の最寄り駅から保育園まで走っていたことを思い出します。

実は無駄かも、と思える仕事はないでしょうか。お客様もしくは会社に付加価値を提供できているでしょうか。自分の仕事で、人に任せられるところがあるかもしれません。会社が全体として長時間労働を減らすには、全員がまず自分の仕事の整理(=いらないものを捨てること)から始める必要があります。人に仕事をつけず、仕事に人を、それも複数の人をつけるワークシェアリングも今後できるようにしなければ、社外に対して責任ある仕事ができなくなってきます。

■(4)評価は市場にゆだねるという新しい選択
なるべく早く帰るとなると、必ず議論になるのが評価の問題です。「高度プロフェッショナル制度」の導入でも議論になっている通り、働く時間で評価されない場合、どうやって仕事の成果を測ったらいいのか。私自身も、明確な答えを出せずにいました。

青野氏の答えは明快でした。「あまりにいろいろな働き方をしている人たちが社内にいるので、社員同士の比較はできず、やめた」とのこと。転職市場と比較して、その人の市場価値が上がれば給与が上がるようにしているそうです。

働き方が多様化するこれからは、みんなが納得しやすい評価方法だと思います。転職市場での価値が高い人が会社で多くの給与をもらってモチベーションをあげ、生産活動をすることで企業に付加価値をもたらす。企業にとってもメリットがあり、本人も自分の付加価値が高まる仕事をすればその分報われます。

おのずと企業側が従業員に提供する研修内容等も違ってきます。雇用してもらいやすい能力を磨いて、会社に貢献してもらうと同時に個人の力も高める。企業は常に能力の高い人材を確保することができ、従業員の側も自分が労働市場で普遍的に必要とされる力をつけることができる。エンプロイアビリティ(=雇用される力)が高まり、会社を選ぶことができるようになるのです。

従業員はエンプロイアビリティを磨くため、積極的に社外でも通用するポータブルなスキルを身に付け、専門職として経験を積み重ねることになります。終身雇用や年功序列が崩れつつある現在、今の会社で働き続けることができなくなることを恐れることなく、自分らしいキャリアを積み上げ給与を上げていくことができれば、個人が働く環境を選べるようになるのです。

■新しい働き方で企業と個人は対等に。女性の働く可能性も広がる。
企業側が何かをしてくれる、してくれない、ではなく、個人がまず、自分が会社に対して何ができるか考える。そうした発想にたったとき、働き方はおのずと違ってきます。

まず、企業の側は長時間働ける人材を確保するのがどんどん難しくなってきます。短時間でも働ける人をいかに楽しく、快適に働き続けて企業に貢献してもらうか智恵を絞った経営者だけが、人手不足の中、優秀な人材を確保して継続発展していけるのです。

一方で、こうした働き方を採用する企業が増えると、女性の産後復帰にとって、あるいは介護等で一時仕事をお休みしたい男女双方にとって有効な施策となります。各個人はキャリアを企業任せにせず、自分自身でキャリアを管理することが求められます。当然、企業側には各個人が他社で培ってきた技能や経験をしっかりと判断して採用することが必要になります。

個人も企業も、状況としては今までとは違う厳しさがありますが、希望も広がります。こうした働き方が、超高齢化であっても人材を確保しながら企業が成長を続けるためのひとつの解になるのです。

小紫恵美子 OfficeCOM代表 中小企業診断士

《参考記事》
■「大丈夫」じゃないのはお母さんだけじゃない。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42520618-20141222.html
■2015年は長時間労働崩壊元年に (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42734491-20150104.html
■日本は「良いお母さん」のレベルが高すぎる(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39261507-20140608.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206


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