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また高速バスの事故が発生してしまった。

■事故の発生状況

東名阪自動車道で、7月14日未明、高速バスがダンプカーに追突し、ガード下に転落するという大きな事故であった。

23人が重軽傷を負ったというが、死亡者が出なかったのは不幸中の幸いであろう。

事故の原因は調査中であるが、バスがダンプカーに後ろから突っ込む形で事故が起こっているので、バスの運転手の前方不注意による可能性が高そうだ。

警察も、自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)容疑で捜査を始めたということである。

事故に対する運行会社の幹部の1人のコメントとして、朝日新聞には次のように掲載されていた。

「今月3日に休みをとって以来、11日連続勤務中だった。」(2015/7/14 朝日新聞デジタル)


私は直感的に「2012年に起こった関越道での悲惨な事故を受け、バスの運転手の労働環境の改善が図られたはずなのに、11日も連続で働かせていたなんて、とんでもないことだ。」と、憤りを感じた。

だが、専門家としては感情論だけで物事を判断してはならないので、一呼吸おいて、労働関係諸法令を紐解いてみた、

その結果、なんと、運転手の11日連続勤務は合法たりうるということが分かり、むしろ法律の定めのほうに私は驚かされた。

■バスの運転手に適用される労働時間規制

ここで、バスの運転手に適用される労働時間に関する法制度について確認しておこう。

まず、高速バスの運転手も労働者であることには変わりないので労働基準法が適用されるのは当然のことである。

労働基準法においては、1日8時間、1週40時間までの労働時間の制限が課せられるが、「36協定」を結んで割増賃金を支払えば、時間外労働や休日出勤は、事実上青天井に近い形で認められているというのが実態だ。

しかしながら、それではさすがに運行の安全が図れないだろうということで、高速バスの運転手には、「バス運転者の労働時間等の改善基準」という、厚生労働省が定めた、さらに厳しい労働時間規制が課せられている。

この規制基準を一読いただけば、「勤務と勤務の間には8時間以上の休息期間を設けなければならない」とか「連続運転時間は4時間までで、4時間経過後は30分以上の休憩をとらなければならない」とか、運転手に配慮した規制が並んでいると感じ取ることができるであろう。実際、私もこの規制には一定の合理性があると評価している。

■それでも抜け道はある

しかしながら、私はいくつかの例外規定が抜け道的に使われて、現場の運転手に過酷な勤務を課しているのではないかと懸念している。

今回の事故の事実関係はまだ調査中であるので、以下は一般論という前提でお読みいただきたい。

たとえば、次のような規定を見て皆様はどう感じるだろうか。

運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合(ただし、車両内に身体を伸ばして 休息することができる設備がある場合に限る)においては、1日の最大拘束時間を20時間ま で延長でき、また、休息期間を4時間まで短縮できる。

高速バスは、関越道での事故を受け、長距離路線では2人体制で運行するようになったが、2人体制だからこそ、逆にこの例外規定に当てはまってしまう。

いくら身体を伸ばして休めるとはいえ、動いているバスの中である。何かあった場合は対応しなければならないという緊張感もあるであろう。

つまり、4時間しかゆっくり休めていない運転手が、あなたの乗っているバスのハンドルを握っているのかもしれないのだ。果たして、これが安心できる勤務体系と言えるであろうか。

また、休日労働は2週間に1回に限り可能となっている。しかしながら、1日の労働時間を調整することによって週休1日制にすることも可能なので、その1日の休日に出勤をさせた場合は、最大で13日間もの連続勤務が可能となってしまうのだ。

より具体的にいえば、たとえば2人体制で東京大阪間を運行するならば、所要時間は片道8~9時間程度なので、整備や点呼、車庫への回送などの時間も含めて1人あたりの実労働時間は5~6時間程度、拘束時間は10~11時間程度になろうか。1週間の拘束時間は65時間が上限なので、週休1日制も成り立つわけである。

■運転手の過剰労働の根底にあるもの

このように、法律上は、様々な規制をクリアして一応は合法な形が作れる。

しかし、常識的に人間の体力を考えて、勤務と勤務の間に4時間しか休息を与えないとか、連続で13日間勤務させるとか、そのような働かせ方をして、本当に運行の安全が図れるであろうか。

しかし、バス会社だけを責めるわけにはいかない。

運賃を見ると「よくぞここまで安くしたな」と感心をするほどで、厳しい競争の中、決して余裕のある経営はしていないであろう。

この点、「需要のあるところに供給がある」が経済の大原則であるから、このような過当競争を生み出してのは、私たち消費者自身にも問題があるのかもしれない。

近年はインターネットで価格を簡単に比較できたりして、それはそれで便利ではあるのだが、供給側に対しては過剰な値下げの圧力になっていることは否定できないであろう。

だが、我々消費者も、そろそろ「安ければ安いほど良い」という考え方から「モノやサービスには適正価格がある」という考え方に、もう少しシフトしていかなければならないのではないだろうか。

そうしないと、供給側が無理を重ね、その結果が「事故」や「欠陥商品」という形になって、消費者自身がかえって不利益を被る結果になってしまいかねないと、私は懸念をしている。

《参考記事》
■職人の世界に労働基準法は適用されるか?
http://sharescafe.net/41988647-20141120.html
■経験者だから語れる。パワハラで自殺しないために知っておきたい2つのこと。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42167544-20141201.html
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http://sharescafe.net/41373749-20141016.html
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http://sharescafe.net/41885958-20141114.html
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あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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