ビル

先日、久しぶりにテレビをつけると、篠原涼子さんが出演するCMが目に飛び込んできた。

会社のオフィス。部長の篠原さんの席に近づく若手社員。「プレゼン資料、見てもらえますか?」

「大丈夫。ちゃんと見たから。」と部長。しかし、全く目を通していない。一瞬の間。

「え?」腑に落ちない若手社員。

回想昨日の昼。会議室にこもって資料を作成したり、電話の対応をしたりする若手社員。それをガラス越しに見つめる部長。

若手社員へ向き直り、語りかける。「キミががんばっている姿をね。」席を立ちあがり、プレゼン資料をつき返す。

「だから任せた。」そのまま声をかけながら立ち去る部長。

「オリックス銀行カードローン」「任せる」篇 オリックス銀行HP (2015/07/27確認)から抜粋

■日本人は頑張るのが好き
われわれ日本人は、頑張るのが好きである。貧乏な境遇に負けずに努力を重ね一財を築くような立志伝が大好きだ。職場でも頑張りすぎて、時に心身を壊すまで働き過ぎるから、困ったものだ。無論、我が国の経済成長を支えたのが先人の頑張りの成果であることは、言うまでもないのだが。

サラリーマン生活をおくっていれば、このCMのような光景をよく目にするものだ。「ワークライフバランス」という言葉はなんのその、夜を徹しての業務は日常茶飯事だ、という職場もあるだろう。

経験則で大変恐縮だが、えてして男性は頑張るのが大好きだ。専業主婦の妻が家事全般を引き受け、会社員の夫が長時間労働や単身赴任等の無制限な働き方で経済発展を支える、というのがちょっと前までスタンダードなサラリーマン像であった。現代でも、合コンの場で「職場で忙しい俺」自慢が絶えず、今月の残業時間の多さを、男同士で競ったりもする。女性は内心「この人、仕事できない(アウトプットが低い)のかしら・・・」と引いていたとしても。

かつて筆者も、人事異動の際、前任者に「ここに異動になったら、早く帰れるとは思わないほうがいい」と言われたことがあった。繁忙の理由を分析することなくこのようなセリフをのたまうことは思考停止状態だ、と今なら自信を持って断言できるが、当時はただただ暗い気持ちになってしまったことを、10年以上たった今でも強く記憶している。

■改めてこのCMを概観してみる
さて、改めてこのCMに話を戻そう。前提としてこのCMに描かれている以上の上司部下の関係性や各人の能力等は知り得ないので、その点ご容赦願いたい。

この部長は、部下の資料の中身を一切確認せずGOサインを出していることから、職務怠慢状態である。プレゼンの重要性は分かりかねるが、上司の決裁を部下が仰いでいる以上、ある程度の確認は必要だろう。「頑張っていたから」ノーチェックで書類を通すのは如何なものか。

「頑張っていたから、当然に仕事の結果も伴うものだ」という発想は明らかに誤りだ。頑張ってもダメなものはダメ。冷たいようだが、仕事は結果が全てであろう。少ない労力でいかに大きな成果をあげるべく工夫するかが肝要であり、さらに言えば、最終責任は最終決裁権者が負うのだ。

そういう意味では、部長は部下の頑張りをねぎらいながらも、丁寧に資料に目を通すべきではなかったか。また、この部下も「いやいや部長、○○の点が少々不安なのでご見解を伺いたいのです」等と不安な点があれば部長に訴えるべきではないか。ちょっとした詰めの甘さが、経営に多大な影響を与える可能性も低くはあるまい。

■結びに代えて
たかがCMに目くじら立てて、と思わなくもないが、頑張り好きが日本人の長所でもあり重大な短所であると思えるから、黙って見過ごせないのである。

昨今のパワハラや過重労働問題も、日本人の「頑張るマインド」が多大な影響を与えてはいないか。「俺も若手のころはプライベートを犠牲にして働いたんだ。土日なんかあると思うな!」と若手を叱責する上司。会社に住んでいるんじゃないかと思うほど帰宅時間が遅く、暗に同じ働き方を部下にも求める上司等、現代の職場問題の影には「無駄に頑張る」御仁の存在が見え隠れしているように思われる。

勿論、時と場合により頑張ることは必要だ。新しい職場に配属になったり、大きなプロジェクトを主担当することになった場合等、適切な努力は必要なものだ。しかしながら、心身の健康を保持する等、状況に応じた対応は絶対に必要となる。

頑張ること、もっと言えば、「他人にも自分のように頑張ることを求める」ことが、ハラスメントやメンタルヘルス不調など、我が国の職場における様々な問題の根底にあるような気がしてならない。

ゴールに向けて全力疾走する人は、歩いて進む人やマイペースにジョギングする人を見ると、無償に腹立たしくなるようだ。誰も全力で走ることを命じていないとしても。だからこそ、職場で頑張る人が、時に好きになれないのである。

【参考記事】
■メンタルが限界だと思ったら誰に相談すべきか?!-良いカウンセラー・悪いカウンセラーを見分けるポイント-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/43348690-20150212.html
■「うつ」は「うつる」のか-職場でメンタル不調者が発生したときに考えるべきこと-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44493262-20150428.html
■「話があるなら、聞くぞ。」と気軽に言ってはいけない理由~岩手中2いじめ自殺問題で考える~(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45498694-20150710.html
■所沢市「第2子出産で保育園退園」問題-子育て真最中の産業カウンセラー的視点-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45231318-20150619.html
■所沢市「第2子出産で保育園退園問題」に関する保護者バッシングが危険な理由(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45313644-20150625.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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