うつはうつる

先日、現職の北見市長である桜田真人氏が亡くなった。心からお悔やみ申し上げたい。報道によれば自殺であるといい、明らかに心労が重なっている状態であったという。

6日に自宅で首をつった状態で見つかり、死亡が確認された北見市の桜田真人(まこと)市長(52)は7月下旬ごろから時折、周囲に仕事の悩みを漏らすようになり、疲れた表情を見せることが多くなったという。市長として直面するさまざまな事態に対し、心労が重なっていたと指摘する声もある。

(中略)

ある政党関係者は7月に面会した際、「市長は『自分のしたいことができない』と涙を流した」と打ち明けた。同じころ桜田市長は市幹部との打ち合わせで「(行事などで)市民の前に出て行きたくない」と目を潤ませて断ったという。別の幹部は「笑顔がなく目がうつろで、打ち合わせでは話もかみ合わないときもあった。休ませるべきだった」と話した。親しい人たちには「議会対応が大変だ。自分には市長としての資質がないのかもしれない」などと相談。「もう市長を辞めたい」と漏らしていたという。

「北見市長自殺 「もう辞めたい」周囲に 難題続出し孤立感」北海道新聞 8月7日(金)8時2分配信

■市長はどのような状態であったのか
現役市長の自殺ということで、関係者の間では動揺が広がっている。特に地方都市においては首長は地元の名士・リーダー的存在でもあり、住民の精神的支柱であるといっても過言ではない。桜田市長は幼稚園の園長でもあったとのことであり、住民はもとより子供たちへの影響も気がかりである。

報道によれば、「人前で涙を流す」「会話がかみ合わない」「人前に出ていきたがらない」等の状態が続いていたという。筆者は医師ではないので断言はできないが、これらの状態が相当程度続いていたとするならば、うつ病等の精神疾患に罹患していた可能性が高いと思われる。事実そのような直感を抱いた関係者も少なくないようだ。だが、自殺という事態を避けることはできなかった。

■組織トップも心病む時代だ
メンタル不調の予防については、厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」等にて、事業主に対して様々な情報を提供している。しかしながら、これらは企業等における従業員への対策が主であり、基本的に組織トップへのケアは想定されていない。

これは、一般に、経営者は裁量の範囲が広範であること等の考え方が根底にあるものと思われる。確かに仕事上の負荷は高いが、ある程度は自身で自由にコントロールできるでしょう、という具合だ。

しかしながら、企業によってはトップがプレイングマネージャーにならざるを得ないときもある。ましてや、市長ともなれば、基本的に代替が不可能な状況下で、様々な政治的思惑が飛び交う状況を打破していかねばならない。その心理的ストレスたるや、相当なものであったろう。特に、地方自治体の財政はどこも火の車である。自身の意図に反する積年の負の遺産も多くあろう。これではメンタル不調にならない方がおかしい、とすら言えるのではないか。

■ストレスに強いは、あてにならない
「俺、ストレスに強いから」「あの人はメンタル不調なんかならない」そんなセリフをよく耳にする。しかしながら、それらは「俺、がんにならないよ。だって体強いもん」という理屈と同レベルな議論であり、まったくあてにならない。

膨大な選挙資金を投じる財政力、選挙戦を勝ち抜く判断力と実行力、ストレス耐性。なにより市民の支持を得る信頼性。それらを全て兼ね備えていたであろう現役市長ですら、本当に残念ながら心を病み、自殺という結果を選んでしまった。ましてや、凡人である我々が心病まない理由など、ないのである。

■組織トップのメンタルを守るために
それでは、組織トップのメンタルを守るためにどうすればよいのだろうか。以下2点にご留意いただきたい。

まず第1に、トップ自身が心身の変化に敏感になることだ。眠れない、食欲がない、趣味が楽しめない。このような状態が引き続くようであれば、是非身近な家族や専門家への相談をお願いしたい。まずは雑談でもいいので心情を吐露してほしい。

よほど親密な部下でない限り、「社長、メンタル的にお疲れでは?!」等とは言えないだろう。自身の気づきが肝要である。

第2に、メンタル不調は弱い人がなるもの、等と思わないでほしい。最近ではコメンテーターの勝谷誠彦さんや歌手の武田鉄矢さん、お笑いコンビNON STYLE(ノンスタイル)の石田明さんらが、相次いで自身がうつ病であったことを告白している。皆、厳しい芸能界で活躍している猛者たちであり、決して弱い人間でないことがお分かりではないだろうか。病気故、なるときはなってしまう。そんな心持でいれば、病気を悪化させることもないように思うのである。

組織トップが心を病む、その果てに自殺してしまう。家族や関係者にとってこんなにも辛いことはない。そんな素直な発想すら奪われるのが怖いところだ。

トップには、是非自らが先頭に立って、心身の健康を保持するという姿勢を打ち出していただきたいものだ。トップが健康であれば、その組織も健康になるのである。

【参考記事】
■メンタルが限界だと思ったら誰に相談すべきか?!-良いカウンセラー・悪いカウンセラーを見分けるポイント-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/43348690-20150212.html
■「うつ」は「うつる」のか-職場でメンタル不調者が発生したときに考えるべきこと-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44493262-20150428.html
■「話があるなら、聞くぞ。」と気軽に言ってはいけない理由~岩手中2いじめ自殺問題で考える~(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45498694-20150710.html
■所沢市「第2子出産で保育園退園」問題-子育て真最中の産業カウンセラー的視点-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45231318-20150619.html
■所沢市「第2子出産で保育園退園問題」に関する保護者バッシングが危険な理由(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45313644-20150625.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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