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甘利明経済財政・再生相は、8月14日の閣議に2015年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出しました。今回提出された経済財政白書の中で注目される点は、「失業なき労働移動の促進が重要」との認識を、初めて打ち出していることです。

■「失業なき労働移動促進政策」の概要
一か月ほど前の話になりますが、日本経済新聞は「転職しやすい社会へ踏み出せ」というタイトルの社説を掲載しました。

転職しやすい社会へ踏み出せ

政府の規制改革会議の第3次答申は、雇用面では働く人が新しい職に就きやすい環境づくりに力点を置いている。「失業なき労働移動」政策は人を需要のある分野へ移すことで経済成長も促す。政府は全力で取り組んでほしい。
(中略)
答申のポイントは3つある。一つは再就職のための従業員の能力開発を支援する企業などに払う労働移動支援助成金の拡充。次に職業紹介などの人材サービス会社が活動しやすくする規制の見直し。そして裁判で不当解雇と判断された際の金銭解決制度の検討だ。

労働移動支援除籍金の拡充は人の技能向上を促し、伸びる産業に人が移りやすくなる効果が見込める。経営が悪化しても雇用を維持する企業に支払う雇用調整助成金はできるだけ抑え、人の移動を促すことを主眼とすべきだ。
(中略)
経営環境の変化が激しく、一企業の中だけで雇用を守るのには限界がある。柔軟な労働市場を整える政策を強力に進めるときだ。
<2015年7月11日(土) 日本経済新聞朝刊>


上の記事にあるように、規制改革会議の答申の内容は、従来の雇用調整助成金を柱とした雇用維持政策を180度転換し、今後は労働移動支援助成金を核とした「失業なき労働移動」を促進する政策に軸足を移すことを提言しており、今回の経済財政白書の内容も、この提言に沿ったものになっているようです。

しかし、金銭解雇制度については多くの報道がされていますが、「失業なき労働移動の促進」政策の柱となっている労働移動支援助成金の拡充については、報道では殆ど取り上げられていません。そこで、労働移動支援助成金の内容を明らかにするとともに、労働移動支援助成金の拡充によって、雇用環境にどのような変化が起きるのかなどについて、考えてみたいと思います。

■労働移動支援助成金の概要
労働移動支援助成金(再就職支援奨励金)とは、「雇用対策法」または「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づき、事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者等に対して、その再就職を実現するための支援を民間の職業紹介事業者に委託して行う事業主に対して助成するものであり、労働者の再就職の促進を目的としています。

本年3月に労働移動支援助成金(再就職支援奨励金)は拡充され、従来は中小企業のみを支給対象としていましたが、3月からは支給対象に制限がなくなり、大企業などにも支給されるようになりました。加えて、労働移動支援助成金のひとつ「再就職支援奨励金」は、企業が労働者の再就職支援を再就職支援会社に委託しただけで、まず労働者一人当たり委託時に10万円が支給され、その後再就職決定時などに、最大で一人当たり60万円まで支給されることとなりました。

併せて労働移動支援助成金は、従来の「再就職支援奨励金」に加えて、新たに「受入れ人材育成支援奨励金」が創設され、2本立てとなりました。新しく創設された「受け入れ人材育成支援助成金」とは、再就職援助計画等の対象となった労働者の雇い入れ、移籍による労働者の受け入れ、または在籍出向から移籍への切り換えによる労働者の受け入れを行い、それらの労働者に対して訓練を行った事業主に対して支給される助成金のことです。この助成金の創設により、受け入れ側の企業は、再就職援助計画の対象となった労働者を採用しやすくなりました。

■再就職支援会社のサービス内容
規制改革会議の第三次答申で触れられている「民間の職業紹介事業者」というのは、一般的な職業紹介会社ではなく、「再就職支援(アウトプレースメント)会社」のことを指します。

再就職支援会社とは、一般的な職業紹介会社とは異なり、人員削減を検討している企業などから委託を受けて、希望退職に応募した人材等の再就職を総合的に支援するサービスを提供する企業のことであり、登録した求職者の意向を受けて転職支援を行う一般的な職業紹介会社とは、ビジネスモデルが全く異なります。よって、一般の個人が再就職支援会社に登録して、受け入れ企業開拓などのサービスを求めることはできません。 全て企業・法人単位での契約になります。

標準的な再就職支援会社が提供する主なサービスは、以下のようなものです。

1.キャリアカウンセリング
求職者のキャリアの棚卸を行い、転職先の選定などについてアドバイスを提供します。
2.再就職のためのノウハウ提供
応募書類の作成支援や、面接対策などの指導を行います。
3.求人企業の開拓
求職者に適した転職先の開拓を行います。
4.再就職のためのオフィス提供
再就職支援会社内のデスク等を利用し、PCなどを使った転職活動を行える環境を提供します。

再就職支援会社を活用すると、求職者が個人で活動した場合と比べて、求人企業の開拓はもとより、再就職に必要とされるノウハウなども吸収できるので、短期間で再就職に成功する可能性が高くなります。

■「中高年雇用流動化時代」への対応策
以上のように、業績が低迷している企業にとっては、再就職支援会社を活用しやすい環境が整備されたため、希望退職制度等を活用した人員削減策など、各種経営合理化策を実行しやすい状況が生まれたことは、間違いありません。

特に今後は、従来再就職支援会社を活用していなかった企業の利用が急増することが予想されることから、40歳以上の「中高年人材層」の雇用流動化が、一気に加速化されることは確実です。一方で、人手不足に悩む成長企業にとっては、今まで大手企業などに偏在していた実務経験豊富な人材を採用できる、またとないチャンスが訪れたともいえそうです。

このように、政府が主導する「失業なき労働移動促進政策」の本質は、業績が思わしくない大手企業などに滞留している、主に40歳以上の労働者を、今後成長が期待できる中小・ベンチャー企業などに転出を促す点にある、といえるでしょう。

一方で、「失業」を予防するために、再就職支援会社を「セーフティネット」として活用する点も、本施策の特徴のひとつです。よって「失業なき労働移動促進政策」が展開されていくにつれ、早晩日本型終身雇用制度は事実上崩壊し、欧米型の雇用流動化社会に急速にシフトしていくと考えて間違いないだろうと思います。

ではこのような雇用流動化時代の到来に、40歳以上の中高年層に属するビジネスパーソンは、どのように対処していけばよいのでしょうか? 認識しておかないとならないことは、40歳を過ぎたら、社内の評価のみならず、外部の「転職市場での市場価値向上」を意識する必要性が生じてきたことです。そこで留意するポイントは、以下の3点になります。

1点目は、「ポータブルスキル」をブラッシュアップすることです。 これは自社だけではなく、どこの企業に転職しても通用する専門知識やスキルを、定期的にブラッシュアップしておくことが肝要となります。

2点目は「環境対応力」を磨くことです。例えば、大手企業から中小・ベンチャー企業に転職した場合、自分よりも10歳以上若い上司の部下になるなど、過去に経験のない事態に直面することが多々あります。よって、このような環境変化に対応できる能力が、今後最も必要とされる時代になっていきます。

3点目は、「社外人脈」を意識的に形成することです。雇用流動化の時代には、同じ会社の同僚とばかり付き合っているだけでは、視野が広がりません。社外に多くの人脈を形成することにより、自分自身の能力レベルを客観的に捉えることができるようになるため、効率的にスキルアップを図ることが可能になるはずです。

「失業なき労働移動促進政策」は事実上、各企業に日本型終身雇用制度からの脱却を促す政策であるといっても、過言ではありません。よって、自分自身の市場価値を常に意識して行動できる人材しか生き残ることができない、厳しい時代が幕を開けたといえるでしょう。

【参考記事】
■「経営革新計画」を活用した新製品・サービス等の開発
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-12.html
■大塚家具を復活させた、久美子社長の「レジリエンス」
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-14.html
■「女性管理職比率」を引き上げるための特効薬とは?
http://sharescafe.net/45853529-20150810.html
■忘れられた戦略論~任天堂のDNA「ブルーオーシャン戦略」の行く末
http://sharescafe.net/45663893-20150723.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点
http://sharescafe.net/44050998-20150331.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 



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