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先日、複数の大手不動産仲介業者の「囲い込み」があったとダイヤモンド・オンラインが次のように報道し、話題となっていました。

大手不動産仲介各社による宅地建物取引業法違反とみられる行為の数々が記録されたデータが、業界の一部で出回り始めている。本誌では同データを独自に入手した。今後、不正行為の実態が明るみに出れば、各社に厳しい処分が下される可能性もある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹) (大手不動産が不正行為か 流出する“爆弾データ”の衝撃 ダイヤモンド・オンライン 2015/4/13)


不動産の「囲い込み」とは、家を売って欲しいと依頼を受けた不動産業者が他の不動産業者に情報を渡さない事で、故意に行う事は法律で禁じられています。またそれによって、家の購入を検討している方々へ充分情報が行き渡らなくなり、売却に余計な時間や費用が掛かってしまう事に問題があります。

筆者も不動産業者として日々営業する中で、「囲い込み」であろう状況に遭遇した事は一度や二度ではありません。不動産の円滑な売却を妨げるこの商習慣は、残念ながら近々に対策が打たれる事は難しいでしょう。

■なぜ「囲い込み」が起こる?
このような行為が行われるのは、現在の仲介業務に対する報酬形態に原因があると考えられます。不動産業者への報酬は売買代金に応じた割合で算定した額を、売り手と買い手それぞれから受ける事が出来るとして、法律で決められています。(詳しい法律を知りたい方は、「宅地建物取引業法」の「国土交通省告示第172号」をご参照ください。)

この法律では、ひとつの不動産業者が売り手と買い手それぞれから報酬を受ける事を禁止していません。元々この法律は、売り手から依頼を受けた業者と、買い手から依頼を受けた業者が、それぞれから別々に報酬を受ける事を想定していますが、単体の不動産業者がそれぞれから報酬を受けとる事が条文上可能で、実際に現実に行われています。不動産業者としては同じ業務で報酬が倍になりますので、「囲い込み」を行うメリットがあるのです。

■「囲い込み」は業界の常識?
実際の不動産取引の現場に身を置くと、「囲い込み」をするかを別の問題として、売り手と買い手のそれぞれから報酬を頂く仲介業務は数多く経験します。町の不動産屋さんと呼ばれるような小規模な会社でも、意識的でないにせよ、依頼を受けた物件を先に自分の顧客へ紹介するという事は、往々にして行われていると言えましょう。

実際には、規模の大きな不動産業者の方が店舗数や人員が多いため、自社内で買主を見つけられる可能性が相対的に高く、「囲い込み」をしやすい状況である事も事実です。「囲い込み」という単語の定義にもよりますが、自社直接の購入検討者に対して情報開示を優遇するという行為として広く規定すると、かなりの割合で行われているというのが現状なのではないでしょうか。

このように、抜本的に「囲い込み」を防ぐ規制がなされていない現状において、公正な売却活動を不動産業者に促すため、筆者は売却を希望される方々に「一般媒介契約を締結する」事と、「複数の不動産業者に売却を依頼する」事を推奨しております。

■媒介契約には種類がある
不動産業者へ不動産の売却の相談をすると、多くの場合「専任媒介契約」という契約を締結し、売却を依頼する事になります。しかし、この「専任媒介契約」という契約がクセモノです。そもそも、不動産業者へ売却を依頼した時に締結する媒介契約には、依頼の内容により「専任媒介契約」、「専属専任媒介契約」、「一般媒介契約」の3種類のタイプが存在しています。

・専任媒介契約
不動産業者へ売却を依頼するときに、最も使われる契約です。契約から7日以内に指定流通機構に物件を登録する事が義務付けられ、不動産業者は2週間に1回以上の活動状況の報告義務があります。また、契約期間は3か月以内となり、依頼者の申し出がある場合に限り更新が可能です。この契約では、依頼者は別の不動産業者への売却依頼が禁止されており、これに違反して他の不動産業者を通して売却した場合、媒介契約書に記載された約定報酬額を違約金として請求される事になります。ただし、依頼者が自ら買主を見つけた場合は、違約金の請求をすることができないと規定されています。

・専属専任媒介契約
この契約を締結すると、5日以内に指定流通機構に物件を登録する事が義務付けられ、不動産業者は1週間に1回以上の活動状況の報告義務があります。契約期間は専任媒介契約と同じく、3か月以内の期間で、依頼者の申し出がある場合に限り更新が可能です。売却依頼についても、専任媒介契約と同じく別の不動産業者への売却依頼は禁止され、更に依頼者が買主を見つけたとしても、不動産業者への約定報酬が発生します。

・一般媒介契約
この契約は上記の2つに比べると、かなり緩い契約形態となっております。指定流通機構への登録は任意となり、依頼者への報告義務も課されません。契約の有効期間も法令上の制限はありません。この契約形態に限り、依頼者は別の不動産業者への売却の依頼が可能です。なお、別の不動産業者へ依頼する場合、本契約を締結した不動産業者へ通知が必要な「明示型」と、通知が不要な「非明示型」のふたつの契約形態がありますので、注意が必要です。

■「複数業者と一般媒介契約」で「囲い込み」対策を
専任媒介契約や専属専任媒介契約は、指定流通機構への登録義務や活動状況の報告義務が不動産業者に課されるので、安心と考える方もおられます。しかし、3か月は他社に邪魔される事無く売却活動ができるため、「囲い込み」が行われるリスクは高くなります。焦って他社の顧客に情報を開示するよりも、自社の顧客を探すだけの時間があるからです。

これを防止するためには、一般媒介契約を締結し、かつ複数の不動産業者に依頼する事で、業者間の競争を促す事が重要です。

複数の不動産業者へ足を運び、こまめに依頼者側から状況の報告を依頼する事で、「囲い込み」は相当程度防止する事が可能です。売却に掛かる手間は増えてしまいますが、より早く希望の金額で不動産を売却するために、少し多めに行動してみてはいかがでしょうか。

細貝圭二郎 宅地建物取引士

【参考記事】
■家賃はもったいないか?(中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/45634620-20150721.html
■不動産会社の「大丈夫」が全然大丈夫じゃない件について。(中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44077052.html
■家を早く買わないと家賃がもったいない、は間違い?  「ローンを組む期間を短くしたい」のはわかるが、焦らなくてもいい理由 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/41933544.html
■1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/45556415-20150715.html
■家を買う前に読んでおきたい記事のまとめ。(中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/23396989.html

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