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消費税の軽減税率の代案として、マイナンバーカードを活用した還付金制度が検討されているとの報道がなされています。

毎日新聞では

財務省が2017年4月の消費税率10%への引き上げ後を念頭に、消費税負担を軽減するため導入を検討している新たな還付金制度の骨格が判明した。酒類を除く飲食料品すべてを負担軽減の対象に指定。消費者は会計の際には10%分の消費税を支払うが、対象品を買った場合は後日、消費税率軽減分の還付を受けられるようにする。2015年9月8日 毎日新聞


といったように報道しており、財務省案では「消費税負担を軽減するため」に「酒類を除く飲食料品すべて」を負担軽減の対象とすると言っているようです。

本稿では、わざわざマイナンバーを活用する必要性の薄さと、マイナンバーカードへの記録機器をどうするのかといった技術的な問題点について触れていきたいと思います。

■マイナンバーをムリに使う必要はありません

さて、せっかくの軽減税率への代案ですが、筆者はマイナンバーと紐づける必要性を感じません。報道では

 仮に消費税率10%、対象品の軽減税率8%の場合、2%分が還付金となる。消費者が事前に登録した金融機関の口座に後日、振り込まれることになる。所得に関係なくすべての人が還付を受けられるようにするが、還付の年間上限額を設定する。2015年9月8日 毎日新聞


とされており、還付には年間上限額を設定するとの事ですが、この水準をどこに持ってくるかによっては、マイナンバーとの紐づけが不要であると考えられるからです。

さて、我が国の消費支出は統計データとして以下のように出ています。

平均的な世帯(世帯人数2.41人)の消費支出は月額25万1千円であり、そのうち、食料品に60,272円支出される。(単身世帯は月の消費支出16万2千円、食料品に38,539円支出)

「家計調査報告 平成26年平均速報結果の概況」(総務省統計局) をもとに筆者作成


この統計データから言えることは、仮に単身世帯であっても食料品に年間45万6千円は使うという事です。(3万8千円×12か月)

という事は、報道の通り食料品の2%を還付する場合は、9千円程度の還付される必要があるのです。

■一部で言われている水準の還付なら支出額を調べる必要はありません

逆に言うと、一部で言われている年間4千円という上限を設けるというのであれば、食料品に年20万円以下しか使わない人以外は調査するだけムダというものです。

そして、単身世帯の平均値の半分以下の水準しか食料品に支出しないような人がどれだけいるかを考えてみれば、調査などせずに黙って4千円を配った方が事務コストもかからず良いと考えられます。

(もっとも、還付を世帯単位でなく個人単位で考えているのであれば若干の意味もあるでしょうが、平均世帯人数が2.41人であるため、通常は還付金の上限額が還付金額となりそうです。)

■カードに記録する機械をどうするの?

と、還付金の額からあまり効果的ではないと指摘させていただきましたが、事業者の立場に立って考えた場合はどうなるでしょうか?

食料品の支出額を調べる必要があるとの事なので、還付金を受けるためには、食料品を取り扱うような店舗には、必ずマイナンバーのカードに情報を記録する機器を導入しなければならないでしょう。

我が国の小売業数は平成24年の経済センサスによると

小売業・卸売業数93万73企業

「平成24年経済センサス」(総務省統計局)をもとに筆者抜粋


といった結果が出ています。我が国にある小売業・卸売業の数は93万社です。もちろん多種多様な業種・業態があるので、全ての企業が食料品を取り扱っているわけではないにしても、かなりの企業数を対象として機器を行き渡らせないといけないわけですから大変です。

消費者の立場に立てば、マイナンバーのカードに食料品の購入情報を記録する機器を置いていないお店は、実質2%分割高になるようなものですから、敬遠されてしまいます。

そのため、食料品を販売する小売業を営む場合、この機器の導入は必須になってきます。

一体いくらで機器を販売するのでしょうか?それとも配るのでしょうか?このように、いくつかの疑問点を挙げただけで、現行の還付金方式はあまり良い案ではないと考えられます。

■費用を節約してその分支給額を増やした方が良い

上記のような問題点があるため、筆者は還付金方式をとりたいのであれば、単純に一人当たり一定額を給付すればそれで済むと考えます。

もちろん、ちゃんと調査する方式と比較して正確さは犠牲になりますが、どのみち還付額も不足しているため、調査してもしなくとも金額的には同じになる見込みとなります。そのため、調査などしない方がよほど費用の節約になると考えられます。

また、低所得者対策といった大義名分を掲げるのならば、そのような施策の導入にコストをかけるよりも、還付金の金額を増やした方が良いと思われます。

【参考記事】
■当事者が誰も得をしないオワハラ行為を今すぐ止めるべき理由(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44683992-20150511.html
消費税の軽減税率という小規模事業者に負担を強いる案の代案として給付金方式が提案されました
http://keieimanga.net/archives/8957376.html
■消費税増税で支給された臨時給付金の実情 (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/41787425-20141108.html
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/38555851-20140430.html

中小企業診断士 岡崎よしひろ

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