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■なぜ損だと思っても抜け出せないのか

投資したのに、損失が出る。その時、あなたはどうするか。投資といっても、株式投資もあれば事業投資、研究投資もあります。意外と思うかもしれませんが、恋愛だってそうです。私たちは、「せっかく○○円も注ぎ込んだのに」、「せっかく○○年もやってきたのに」と、「せっかく」ということの呪縛に捉われることがよくあります。1000万円も投資したのに・・・、5年も付き合ってきたのに・・・。でも、いつしか、その注ぎ込みが目減りしていることに気づいてしまいます。

株式投資でいえば、一時20,000円を超えていた日経平均株価は18,000円を切っています(9月25日現在)。200万円で株を買っていれば平均的には20万円(10%)以上も損失が出ていることになります。せっかく投資したのに・・・、というわけです。

■どうしたら「せっかく」という呪縛から解かれるか
これが事業なら、数億円の資金を投入して数千万円の赤字です。研究活動も同じです。何年も研究費を注ぎ込んでいるのに、成果の出ない研究を続けている。思い切って方向転換すればと思うのですが、ここまで、せっかくやってきたのだからやめられない。

恋愛ともなると、もう5年も付き合っているのに結婚したいという感情が湧かない。さっさと別れて新しい相手を探せばいいのに、せっかくここまで付き合ってきたのだから、ここで別れるのは納得いかない。いや、もったいない。これまで費やしたお金もそうだが時間が。

せっかく。
せっかく。
せっかく。
私たちはいくらでも言えます。
――ああ、せっかく・・・してきたのに。
これは、1つの呪縛です。そのことに捉われている限り、今の状況から抜け出せないでいるのです。この呪縛から解き放たれるには、どうしたらいいのでしょうか。

■「見切るか」「待つか」が投資の決めどころ
まずは、見切るのか、待つのか、の判断です。
「見切る」というのは、この時点で投資をやめて撤退することです。株式投資ならこれ以上傷を深くしないために売却します(いわゆる損切り)。事業計画は中止、研究活動であれば方向転換、恋愛ならば別離。そして、それぞれ新たな道に進む、ということです。

次に、「待つ」というのは、文字通り原状回復するまで忍耐強く待つことです。しかし、これではさらに損失を拡げるリスクもあります。株価は18,000円が17,000円、16,000円・・・と、どこまで下げ続けるのか、そしていつ上昇するのか。

私たちは、ここで新たに迷うのです。見切るか、待つか、ではこれをどう判断するか?
その判断方法の1つに「他人の意見を聞く」があります。自分では判断できないから迷うのです。しかし、第三者の専門家の意見というのも、十人十様です。自分で判断する以上に、その第三者を選ぶことの判断に迷ってしまいます。

■損得判断の起点を移す
そこで次の判断方法は、「損得の立ち位置を見きわめる」ことです。例えば株価が10,000円の時に投資したとします。10,000円で買ったら、自分の投資の起点は常に10,000円であると考えるのが普通でしょう。投資した時を起点として、現在の時点で損しているか得しているか。これは「損益分岐点」の考え方です。その分岐点となるのが10,000円なのです。

ここではそのように考えないことです。どういうことかというと、10,000円投資し、1,000円マイナスとなって9,000円になったのだから、投資家がいま損得の判断をする起点は9,000円なのです。起点を移さなければなりません。起点がいつまでも10,000円のところにあると、9,000円からまた10,000円に戻ることを期待して待つしかなくなるのです。

投資の起点が9,000円に移ったと考えれば、9,000円が上げるか下げるかの問題となりすっきりします。その新しい起点から見て、さらに損すると思えば売却するしかないのです。ここには「せっかく10,000円投資したのに」という考えは排除されます。今の9,000円が上昇するか下落するか。もちろん、ここで売却したからといって、1,000円の損失(10,000円-9,000円)が帳消しになるわけではありません。あくまでマイナスを拡げるか縮めるかの問題です。

■「損益分岐点」よりも「損失許容点」を考える
それにしても、現在の起点である9,000円からもっと下落するのか、あるいは底を打って上昇するのか、という判断がまた出てきます。これについては、自分が受け入れられるトータルの損失をあらかじめ決めておくことです。これが「損失許容点」の考え方です。どこまでの損失なら許容できるか(耐えられるか)。100万円投資したら20%の損失、つまり20万円の損失が出たらすっぱり売却するという考えです。

とはいえ、人の心理は自動損切りできるほど簡単なものではありません。特に思い入れのある投資の場合はなおさらです。私たちは客観的に見ればほとんど起こりそうもない損失について過敏に反応してリスクを避けるくせに、客観的にはほぼ確実に実現しそうな損失に対してはそれを確信できず、怖れることなくリスクを過大にとったりします(ギャンブル投資)。

■恋愛リスクに賭ける心理構造
恋愛の心理構造も同じです。恋愛相手に新しい恋人ができて、今の恋は破綻と明らかになっても、その現実を信じたくないばかりに、相手の気持ちを取り戻そうとします。今までの関係を維持したいという保有効果、すなわち今持っているものに過大な価値を感じ手放したくないという心理が働き、リスクを冒してもこれまでの彼(彼女)との生活を挽回しようとします。つまり、損失が確実視されることで大きなリスク(ギャンブル)に賭けることになります。その行為が恋愛事件にもつながるわけです。

ところで、恋愛の場合のリスク許容点は、愛憎という複雑な心理要素が強いだけに難しいものがあります。相手のために100万円使ってきたのだから、20%(20万円)の損失なら我慢できるというわけにはいきません。そもそも愛情をお金に換算できればこれほど簡単なものはないのですが・・・。

■まとめとしての投資心理学
お金や恋愛の熱情が冷めた今、どうするか。ここでまとめると、まずは拠って立つ場所を移して冷静に考えること。投資でも恋愛でも今の起点からこの先、自分にとってプラスになるのかマイナスになるのか。決して投資した時点、恋愛を始めた時点を今の起点として考えないようにすることです。最初の時を起点にすると、マイナスが現れた時に、その起点に戻ることしか考えられなくなります。

そして、あらかじめ損失許容点を決めておけば、そこに達した時に容易に決断ができるのです。投資であれば何%の損失となったら売却というふうに。恋愛の場合はちょっと複雑になりますが、あるレベルの悪い事態(相手に恋人ができた、暴力を振るった、仕事をしなくなった、など)に陥ったら未練もなく別離(することを推奨)、というわけです。

人は諦めが悪いものです。最初から悪い事態を想定して行動などできにくいものです。しかし、このようなルール決めをしておかないと、いつまでたっても「あの時から今日まで、せっかくこれだけやってきたのに」という深い呪縛にどんどん捉われていってしまって身動きできなくなることがあります。

最後に断わっておきますが、投資というものは損得だけで割り切れないものがあるのも事実です。そういう場合は、損を覚悟でとことん付き合ってみるのも手であるわけです。お金もそうですが、特に恋愛は。




【参考記事】
■老後資金づくりでハマる心理的な罠  野口俊晴
http://www.tfics.jp/ブログ-new-street/
■就職面談で給与アップを勝ち取る先手交渉術  野口俊晴
http://sharescafe.net/45714680-20150730.html
■「家族的」な会社のホワイトに見えるブラックな部分  野口俊晴
http://sharescafe.net/44029506-20150331.html
■目先の損得にとらわれない これからの年金、早くもらう方法と多くもらう方法  野口俊晴
http://sharescafe.net/41566040-20141026.html
■年俸制の契約社員でも未払残業代を堂々と取り戻せる法  野口俊晴
http://sharescafe.net/42292529-20141208.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー  TFICS(ティーフィクス)代表 

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