教授
日本人のノーベル賞受賞が相次いでいる。ノーベル医学・生理学賞の大村氏、ノーベル物理学賞の梶田氏のお二人である。大変な快挙であり、日々の地道な研究努力が実った結果であろう。一国民として、心から敬意を表したい。

■労基法上は大学教授も労働者である
ノーベル賞の授賞者ともなれば名だたる大学の教授陣であることが大勢だ。所属する大学の学長がコメントを求められることからわかるように、大学教授といえども大学という組織に属している立場である。

大学教授というと、日夜研究室にこもって研究三昧なイメージがあるだろう。外部から招へいされての講演や企業との共同研究を精力的に行うことも業務の一環であり、非常にフレキシブルな働き方が可能な印象だ。教授それぞれが、個人事業主的だというイメージになろう。

しかしながら、労働基準法(以下、労基法)に照らせば大学教授も一労働者に過ぎない(労基法第九条:この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。)。従って、労働時間や休日等については、我々一般のビジネスパーソンと同様の規制を受けることとなる。

■法の趣旨を徹底すれば
去る平成16年4月に、旧国立大学が一律に国立大学法人となり、従来の国の機関ではなくなった。各法人は労働関係法令の適用を受けることとなり、労基署の一斉摘発を受けることとなる。

労基署の立ち入り調査では、労働者としての大学教授の勤怠管理について指導を受けることとなった。すなわち、過重労働防止や健康保全措置等々である。これには当時の国立大関係者は一様に面食らったものである。

従来から、大学教授は労働者である、という認識は自他ともに皆無であったといってよい。大学教授が研究のために深夜まで研究室にこもったとしても、本人をはじめ人事当局さえ、それを残業だと認識はしていなかったであろう。真理の追究は大学教授の使命、さらに言えば喜びである。給料をもらいながら好きなだけ専門分野の研究ができるなんて、夢のような仕事だ。それが従前から現在に至るまでの、大学人における共通認識であると思われる。

しかし、前述のように大学教授とて一労働者である。よって事業主は法の趣旨にのっとった労働者保護を行わなければならない。現行、多くの大学では大学教授職について専門業務型裁量労働制を適用し、働き方については本人に大幅な裁量を与えているものと思われるが、それとて労基法のもとでは無制限な働き方を看過するわけにはいかない。

具体には、連日こうこうと深夜まで研究室の電気がついていたら、「先生、お体に障りますのでお帰りください」と人事当局が逐次指導しなければならない。勤務時間の実態把握のために、タイムカードを導入するという施策も必要だ。なぜなら、大抵の大学教授の働き方が、極めて「ブラック企業的」であるからである。

■「理念」と「法」の摺合せが必要だ
念のため述べるが、筆者はブラック企業やブラックな働き方は、明確に否定する。誰しも健康的に働く権利があり、人を使い捨てにする働き方が肯定されることは、決してあってはならない。

論点としては、「大学教授の使命」という視点に立てば、労基法に定める労働者性の議論が大学教授職において馴染むのか。さらに言えば、画一的に毎日17時に帰宅を促し、土日の出勤を禁じるような働き方のもとで、果たしてノーベル賞級のイノベーションが生まれるのだろうか、ということだ。本人が働くのが好きなんだから、勝手にやらせればいいじゃん、という次元の話をしたいわけではない。

無論、ここまでは「大学教授が、働き方を自ら選択している(できる)」という前提で議論をしている。例えば、教授が部下である准教授に自分と同じような(研究の虫的な)働き方を求めた結果、准教授がそれを負担に感じたとすれば、それはハラスメント性を帯び、ブラック企業と同様の問題となり得る(無論、研究者としてそれでいいのか、という別の議論も生じるのだが)。

大学教授とは何か、という理念的な話と、極めて実務的な法の話は、元来かみあわない議論だ。それゆえ、大学関係者の間では、今現在も理念と実務の間で悩ましい対応を迫られている。労基署からは是正を迫られ、大学教授からは研究の邪魔はしないでくれと言われ、人事当局の悩みは尽きない。

科学技術立国の推進、我が国大学の世界トップレベル化等が国策となり、久しい。そろそろ文部科学省と厚生労働省の折衝等を行い、大学教授職における労働者性の議論をされてはどうだろうか。その議論が曖昧なままでは、当事者も混乱するばかりだ。

国を挙げて、様々なイノベーションが生まれる研究環境づくりを是非とも応援していただきたいものである。

【参考記事】
■重要法案は「安保」だけではありません~カウンセラーの国家資格化法案が成立したという話。~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46263013-20150914.html
■「雑談をしようとせず、仕事が終わったらさっさと帰る部下」は、問題ではありません。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46233171-20150914.html
■祝!東尾理子さん第2子妊娠~働く女性への配慮は妊娠初期にこそ必要だ!~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46118904-20150901.html
■山本耕史流アプローチがストーカーとならない理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46042230-20150825.html
■組織トップのメンタルケアが急務な理由。(後藤和也 産業カウンセラー・キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45911315-20150813.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加



関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。

執筆者プロフィール