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8月~9月にかけて引っ越しをしたという方も多かったことと思います。不動産業者がリフォームに要する費用の見積もりを終え、これから敷金の清算が始まる時期です。

「不動産業者から、クロスの張替費用が高額となるため、敷金はほとんど戻せないと言われた…」というのはよくあるケースです。

このような場合、どのような対処をすればよいでしょうか。

■不用意に交渉をスタートさせることは、丸腰で相手に挑むようなもの。
あわてて電話をかけ「半分くらいになりませんか?」などと交渉をスタートしてしまうと、本来、全く負担する必要が無かったような場合は、大きく損をしてしまいます。

不動産業者は交渉の中で「通常このようにさせてもらっています」とよく言いますが、何が通常であるのか、入居者にはわからないわけですから、これでは勝負になりません。

「知らない」ということは交渉をするうえで大きな差を生みます。

■事前に情報収集をするために、国土交通省のガイドラインを読んでみる。
敷金返還を求めるに当たり、国土交通省がガイドラインを作成しています(「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン」)。このガイドラインは過去の裁判例などを参考にトラブル解決の基準となるように示されたものです。

1.クロスが日焼けしているけど、それは入居者が負担するもの?
賃貸住宅の契約は、入居者が部屋を使用する対価として大家さんに家賃を支払うことで成り立っている契約です。

賃貸住宅で通常の生活をすることは、当然、契約上想定されているわけですから、普通に生活をしていてクロスが日焼けした…というものは、原則として入居者が負担する必要はありません。

2.一部でも汚していたら、全部取り替えないといけないのか?
例えばクロスを一部汚してしまっている箇所があったとします。

そのような場合、ガイドラインでは、色合わせのために物件全体の張替をする必要はない、汚している箇所のみの補修で足りるとしています。

入居者が賠償するのは、あくまで入居者自身の不注意で汚してしまった部分の補修費で足ります。色合わせのために物件全体のクロスを張り替えるということは、大家さんが次の入居者のために物件をグレードアップさせるものなので大家さんが自分で負担するべきものと考えるのです。

3.長年住んでいた…ということは、長年家賃を払い続けていたということ。
長年住んでいた…ということは、当然、その分、賃貸住宅も劣化していきます。長年住んだことで劣化した分は、入居者は負担しなくていいというのがガイドラインの基準です。

クロスの例でいえば、クロスを張り替えてから6年経過すると、クロスは価値が0になるという基準が示されています。

これは、入居者の不注意でクロスを汚してしまったとしても、6年以上経過している場合は、長年の使用によりクロス自体が無価値となっているので、その部分について、入居者は賠償しなくていいということです。

仮に家賃が月7万円の物件であれば、6年入居していると、総額で504万円の家賃を支払うことになります。入居者が長年家賃を支払い続けていることで、クロスの張替分については、大家さんも元を取っていると考えるわけです。

■事前に情報収集行い、十分な検討をした上で交渉に臨む。
ガイドラインには、クロスのほかにも問題となる箇所ごとに基準が示されています。

例えば家具を設置していたことによるカーペットの凹みは入居者の不注意による毀損とはならない…、といった具合に細かく基準が示されていて、参考になると思います。

冒頭で紹介したように「とりあえず半分…」などと話を切り出しているのに、あとになって「いや、実はリフォーム費用の負担はもっと少なかったはずだ」などと言いだせば交渉をこじらせてしまうだけです。

ガイドラインを参考に事前に十分な検討をした上で交渉に臨むことで、準備不足のまま不用意な交渉を行い、損をするというリスクを減らすことができます。

■その場で判断をしない。回答は後日でも構わないと知る。
私が相談に来る方によくお話をするのは、納得できない場合は、その場で結論を出さないということです。

納得ができないということは、自分の集めた情報と相手の言い分がかみ合っていないのですから、相手の言い分が道理にかなうかどうかは、更なる情報収集をする必要があります。その場合は「検討して後日回答します」という返答で十分です。

交渉の中では結論を急かされることがあると思いますが、敷金の返還をめぐる交渉の際に、その場で結論を出さないと大家さんに大きな損害が出る…などということはまずありません。

数日おいてから冷静になって、回答するようにしてください。

■まとめ
交渉というものは「こうやれば必ずうまくいく」などという方法はまずありませんし、「黒を白にひっくり返す」といった裏技的な交渉方法はありません。

それよりも、事前にしっかりとした情報収集を行い、不本意な交渉となってしまうリスクを減らすことに注意を払うと考えるとよいと思います。

トラブルとなった際に誰かに任せっぱなしにするという姿勢は、新たなトラブルとなります。

不動産業者に任せる。場合によっては法律家に解決を任せることもあるでしょう。

任せっぱなしにして上手くいけばいいのですが、これはたまたまうまくいったというだけで、これでは二次被害にあってしまう典型的なパターンとなります。

事業者は、相手の情報力不足に付け込んで、安易な判断をしがちだからです。

自らのトラブルについては、自らが結論を判断するという意識を持つことが大切です。

不動産業者の言い分が分からなければ、根拠を訊けばよいのです。そしてその根拠に信憑性があるかどうか情報を収集し「知る」ように努める。これを繰り返すのです。

こうすることで、事業者などの安易な判断を予防することができ、自分の納得のいく結論を導くことができるようになると思います。

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及川修平 司法書士


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