検診[1]
「うつ病はこころの風邪である」とは、よく耳にするフレーズだ。近年は自殺防止や労働者のメンタルヘルス不調予防がキャンペーン展開されることもあり、啓発の意味もあるのだろう。しかしながら、筆者が見聞きする限りでは「風邪」の範疇を超え、「肺炎」のような事例が少なくないというのが実感だ。

■どんな人でもメンタル的に落ち込むことはある
少々古い話になるが、人気お笑いコンビのナインティナイン岡村隆史さんが、2010年に長期の休養状態となった。先日放送されたNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル仕事の流儀」にて、仕事の重圧に耐えかねて不眠状態に陥ったことを明かしている。以前も自身の番組で「ファンからサインを求められても対応できなかった」状態を告白しており、具体の病名は明かしていないものの、うつ病・不安障害等のメンタル的な疾患だったのではないかとの指摘がなされている。

そのほかにも、俳優・歌手の武田鉄矢さんや、お笑い芸人のノンスタイルの石田明さんらも、自身のうつ病について告白している。長期間の下積みにも耐え、バイタリティやストレス耐性等の面で、数多の芸能人の中で抜きんでているだろう彼らですら、メンタル的な疾患に悩まされているのだ。ましてや、並みの能力しか持ち合わせていない筆者のような一般市民は、いつうつ病になってもおかしくないという認識に立つべきであろう。

■大切なのは事前の予防である
どんなに強靭な精神力や体力の持ち主でも、メンタル的に落ち込んでしまえば、やはり苦しいものである。やや教科書的な言い回しだが、事前の予防が一番なのだ。では、どのような方法で、メンタル不調を予防できるのだろうか。

筆者は産業カウンセラーの端くれであり、心身の健康保持については人並み以上に研鑽を積んでいるつもりである。そもそもこの業界に足を踏み入れたきっかけは、「悩まないためには、どうすればいいのか」を知りたかったからだ。よくKYであると妻に揶揄される筆者であるが、それ相応に人間関係等の悩みもあるのである。

結論を言うと、「悩まない方法」を学ぶことはできなかった。そもそも人間が生きる上で悩まない状態というのは存在しないのかもしれない。聖書でいうところの「悩める子羊」なのだ。産業カウンセラーを志す人の中でも、うつ病にかかった経験のある人が相当数いたのが、印象的であった。老若男女が集まっていたが、皆それぞれの悩みを抱えながらの参加だったのであろう。

ただ、「自分の心身の状態に敏感になること」を考えるきっかけを得ることはできた。人の話をしっかり聴くという行為には、自分自身の健康状態についてよく把握しておくことが求められるからだ。このきっかけが得られただけでも、ン十万円の受講料は安いものであった。

■自分自身が「メンタル的にヤバい」時の状態を把握する
以下では、心身の状態を事前に把握する際のご参考までに、筆者自身がメンタル的に落ち込んでいるときの状態を具体的かつ段階的に例示しようと思う。もちろん、落ち込みの程度や状態については個々人により異なるものであるので、一参考としていただければ幸いである。

第1段階は、「鼻血、下痢が頻回に起きる」ことである。特に社会人になってからは、ストレスが胃腸に来るという実感が強い。前夜の暴飲暴食との区別は意識する必要があるのだが、特段そういった覚えがなければ、無意識にストレスが溜まっているか、疲労が蓄積している場合が多い。月並みな対応であるが、折を見て休むことや、趣味等の自分自身の時間を確保することで解決を図っている。

第2段階は、「感情がゆらぎやすくなる」ことである。例えば、いつもなら可愛い可愛いと許せるわが子のイヤイヤについて必要以上に叱ってしまったり、周囲の言動にいちいち傷ついてみたりと、いつもなら軽く流せるようなことが流せない状態だ。いつもできることができない、というところが、結構深刻だなあ、と考えている。かなり意識して休息時間を確保する(育児などは妻にお任せしてしまう等)や、職場や家庭の問題については、放置せずに当事者間で真摯に話し合う等、「その場での解決」を心掛けている。家族や友人などに、話を聞いてもらうことも有用だ。フェイスブック等のSNSを利用してもいいだろう。落ち込みがひどいと、それすらおっくうになってしまうのだが。

第3段階は、「発熱、悪感等の身体症状が頻発する」ことである。決して詐病ではないのだが、1月に1回以上ペースで風邪のような症状が出現したら、かなりの要注意状態だと認識している。体が強く休息を求めている段階であり、具体の問題からいったん自信を遠ざけることも検討したい。無論単なる責任放棄もできないため、普段からの諸々の調整が必要である。また、信頼できる専門家に相談することもお勧めする。職場の問題であれば産業医、産業保健職などである。信頼できる上司がいるならば、まずは上司に相談するのも一考の余地があろう。

■自分で解決できること、他人の支援が必要なことを見極めよう
以上、自身の恥をさらしながら筆を進めてきた。幸いにして、今までの人生において、第3段階を超えた経験というのは極めて稀であったし、本当に社会生活が困難だと自覚していた時は、多数の人が手を差し伸べてくれた。ある友人は、悩める筆者に対し10年以上たった今でも忘れられないような熱い内容のメールを送ってくれた。自身が今現在健康を保ちながら、こうして雑文を書いていられるのも、そうした人たちのおかげであると思えば、頭が下がるばかりだ。

拙稿で筆者が主張したいことは、繰り返すが「自身の健康に対して敏感である」ことの有用性である。ここに鈍感、ないしは「見て見ぬふり」して頑張りすぎてしまうと、ある日突然会社に行けなくなってしまうかもしれない。

よく言われることであるが、ブラック的な過重労働に長期間従事した場合、中高年層はまず体を壊すという。そもそも体力が続かないのだ。しかし、若者の場合は体力が有り余っている分、体は壊れず、最初に心が壊れるケースが大勢だという。

メンタル的な症状は目に見えず、専門家でもその判断に悩む場合がある。「骨折する」とか「熱が40度以上ある」だとか、傍目にもわかるようなものではないため、誤解や偏見も多い。自身も不調の兆候を見落としがちだ。いまだに「うつ病で職場に来られないなんて、なまけ病にかかってしまったのではないか」といった論調を見聞きするのも、やむを得ない部分もある。

また、諸々の情勢に思いが至らなくなるのも、メンタル的な疾患の怖いところだ。幼子と妻を残して夫が自殺した場合等、「子供も小さいのに何で自殺なんか・・・。」と周囲は思いがちであるが、メンタル的に追い込まれている本人には、悲しむ子供や妻のことに思いをはせる余力すらないのである。感情を奪われることほど怖いものはない。

一度崩れてしまった心身のバランスを元の状態に戻すのは、思った以上に大変である。できる限り、バランスを崩す2,3歩前で体制を立て直せれば、まだ軌道修正は可能であろう。

現代は社会全体に余裕がなく、労務提供が不十分と評価された社員に対する風当たりも強いものと思われる。誰しもが、自身の心身の状態に思いをはせながら健康的な社会生活を送っていただきたいと、筆者は常々切望してやまないのである。


【参考記事】
■重要法案は「安保」だけではありません~カウンセラーの国家資格化法案が成立したという話。~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46263013-20150914.html
■「話があるなら、聞くぞ。」と気軽に言ってはいけない理由~岩手中2いじめ自殺問題で考える~(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45498694-20150710.html
■祝!東尾理子さん第2子妊娠~働く女性への配慮は妊娠初期にこそ必要だ!~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46118904-20150901.html
■山本耕史流アプローチがストーカーとならない理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46042230-20150825.html
■組織トップのメンタルケアが急務な理由。(後藤和也 産業カウンセラー・キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/45911315-20150813.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加




関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール