日本近海

ビジネスコラムなどでも定期的に上がってくる「出世したくない人(若者)が増えている」という話ですが、実際に若者を部下に持つ方、お子さんが働き始めた方など、感覚的には同意できることが多いのではないでしょうか。これは単に年齢を重ねたゆえの悟りなのか、会社に居続けてもなおかつ、そのような志向がかなうのか、人事システムの変化を考えましょう。カギはグローバル化です。グローバル化という波は人事政策にも大きく影響しています。

■仕事・暮らし・つり合い
ワークとワイフのバランスについて書かれた記事を見つけました。ある経済団体の調査報告によれば、「(私用がある時)残業を引き受けるという回答は、大卒職員で「引受ける」が3割近く、「断る」が4割少しとなっており、公私を分けてプライバシー守りたい傾向が現れている」ということです。

実はこれが報告されたのは昭和47年だそうで、40年以上前ということになります。残業意識と出世意識を同一とみるのはやや強引ですが、その根底にある心情で共通する部分は多いのではないかと思います。モラール(士気)という視点です。上記の残業への意識の割合は、最近の若者調査でもよく見かける「出世したくない」「出世にはこだわらない」他、「仕事量と給料が割に合わない」等の理由でヒラで良いと思う人の割合と比べても、相関関係があるように感じます。

若者や若い世代のモラールとは、ワーク・ライフ・バランスという言葉が出る前から、私生活(プライバシー)重視という志向はあったのでしょう。40
年前の高度成長期の終盤ですら、です。


■リストラの今
リーマンショックの後くらいに吹き荒れたリストラの嵐は、一応の景気回復基調で収まっているように感じるかも知れません。しかし現実は中高年社員を中心に、雇用調整は続いています。これは経営的に大きな問題のある企業以外でも、業績とは関係なく組織再構成で給与ベースの高い社員を減らすメカニズムが働いているという意味です。

ホンダや日立など、日本を代表する製造業で定期昇給廃止の動きが伝えられ、パナソニックの、幹部・管理職以外の一般社員も年功賃金を廃止する取組み発表は衝撃的でした。役職定年もかなり普及し、役員以外の中高年者がこれまでのような高い給与ベースで居続けることはどんどん難しくなっています。派手な首切りのような目立つ形ではなく、静かにむしろリストラの定着化が進んでいるといえます。

人間誰でも歳は取ります。企業で役員になれるほんのごくわずかな人以外、年齢とともに昇給や昇進昇格が無くなるすう勢は広がっていくでしょう。アメリカなどでは差別を禁止するため、人種や性別はもちろん、年齢も採用選考においては顧みないといわれます。年齢と経験を重ねたことと給与や役職が連動した、年功序列という日本的経営の代表的なメソッドが、グローバル化が進めば駆逐されることになります。


■「ライフ」を会社員生命ととらえたら
最近では新卒学生まで口にするようになったワーク・ライフ・バランスですが、元来の意味から離れ、この「ライフ」の意味を、私生活やプライバシーではなく、会社員生活や会社員生命だととらえたらどうでしょう。ワーク(職責)とライフ(会社員としての存在)のバランスが取れているかという尺度に使うのです。

給与と生産性のバランスで考えれば、当然給料が相対的に安い一方、さまざまなフットワークでも優れる若手社員のバリューが高いのは、ある意味当然です。生産性が低くとも、給与が低ければ雇用バランスは取れています。幹部になれるような経営的判断ができる能力を持ち、成果が出せる人材であれば、これまた給料が高くとも雇用に見合うバランスが取れていることになります。問題はこれ以外の人です。

ワーク(職責)とライフ(会社員としての生命線である給与)のバランスから外れる者には、確実に雇用が保証されない事態が進んでいるとみるべきです。これはただちに不要な人材の首切りという意味ではありませんが、日本を代表する企業がアナウンスした、年功序列的給与配分と役職配置を止めることは十分実行できます。つまり、「ヒラでもいいからのんびり」とは、正社員ではなく契約社員になったり、歳とともに昇給昇格はなく、場合によっては若い時より減給もあるという生活になります。


■雇用システムの変化はグローバル化が原因
正規雇用社員中心で固められた、日本的大企業・伝統企業であれば、しばらくは正規社員の立場がゆらぐことはないでしょう。しかしキャリアは一生モノです。3年5
年はともかく、10年20年先は誰にもわかりません。

これまで国内だけだった競争環境が、人材においてもグローバル化します。日本語で業務遂行出来れば、国籍や年齢は問わない人材がライバルです。相手は正規雇用ではなくアウトソースやコントラクトワークです。実にシビアなコスト競争となるのは必至です。

出世を望まず、自身の生活を重視した暮らし向きというのは、グローバル化が進む社会では難しくなることでしょう。出世しないことも、高給を得ないことも選択可能ですが、それでいて正社員としての身分保障や昇給を望むことは理論的に無理です。これが出世したくない、責任を負いたくない以上、覚悟しなければならない未来といえるでしょう。

「誰にもできる」仕事は国内に置く必要がありません。インターネットや輸送手段があれば、外国での業務アウトソースは既に始まっていますし、それは今後ますます増え、逆になくなる可能性は低いでしょう。のんびりした会社員生活は、その立場を非正規雇用へ変える恐れがあります。そうなればのんびりどころか、有期雇用となる可能性があるのです。これをピンチと見るか、チャンスと見るかは、捉え方次第ですが。


【参考記事】
■なぜ求人募集時の給与レンジと、提示時は違うのか
http://shachosan.rm-london.com/?eid=820954
■就活で傷つく若者たち
http://shachosan.rm-london.com/?eid=656497
■「就活後ろ倒し」は早くも変更?!2017年卒就活スケジュールを大胆予想
http://sharescafe.net/46264087-20150915.html
■内定辞退の作法。
http://sharescafe.net/46036751-20150826.html
■組体操の事故を生む「感動ありがとう」絶対主義
http://sharescafe.net/46557342-20151013.html

増沢隆太 人事コンサルタント 株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役


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