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11月9日の「おはよう日本」(NHK)で、女性社員のワークライフバランスに優しいと言われていた資生堂が方針転換をし、「育児中の女性も戦力」として、子育て中の社員にも、土日祝日の勤務や、遅番と呼ばれる夜8時までの勤務を要請するようになったという放送内容が、大きな社会的波紋を呼んでいる。

ネット上の意見としては賛否両論が飛び交っているようだが、私は、「会社側の工夫不足」と「従業員側の協力不足」、労使双方の歩み寄りが不足しているからこのような事態になってしまったのではないかと考えている。

■女性社員に負担を求めるしか選択肢はなかったのか
まず、「会社側の工夫不足」について説明したい。

今回の方針転換は、育児中の女性社員が増えすぎたため、売り場に必要な数の美容部員を配置できず、機会損失が生じてしまったということが背景にあった。

だが、育児中の女性を無理に働かせること以外に取るべき選択肢はなかったのだろうか。

たとえば、男性の美容部員を増やすというのも一手ではなかろうか。プロのメークアップアーティストには男性も珍しくないので、決して非現実的な話ではないだろう。

他の業界を見ても、保険の販売で言えば、昔はセールスレディによる販売が一般的であったところ、現在は外資系を中心に男性のライフプランナーが活躍している。

飛行機に乗っていても、男性のキャビンアテンダントにサービスを受けることも珍しくなくなったものだ。

このように、一昔前は「女性の職場」と言われていた領域で活躍する男性も増えている。

したがって、資生堂が「美容部員は女性」と決め打ちして、「美容部員が不足している」という判断をしているところにいささか工夫不足を感じたのだ。

■18人の接客ノルマは逆効果の恐れ
また、資生堂は、短時間勤務をしている社員にも、フルタイム社員と同じ、1日18人の接客をノルマとして課すという方針を打ち出したということだが、これに対しても私は違和感を持った。

たとえば、6時間の短時間勤務をしている社員を想定して、具体的に考えてみよう。

当該社員の持ち時間は6時間×60=360分であり、朝礼や準備、片づけなどを踏まえて、接客に使える時間を1日の80%と仮定すると、お客様に接客できる時間は288分である。

288分で18人のお客様の対応をしなさいと言われたら、お客様1人あたりに使えるのは、たったの16分(288分÷18)である。

1人のお客様の対応が終わった後、次のお客様との入れ替わりの時間も必要なので、そうすると、1人のお客様に対する正味の接客時間は10分から15分が良いところでではないだろうか。

資生堂というと、「一流」とか「洗練された」というブランドイメージがあるが、このような時間効率を追い求めたノルマを課すのは、自らブランドイメージを毀損しているのではないかと心配になってしまう。

実際問題、通りすがりの顧客5人を相手にするよりも、上顧客1人に5人分の時間をかけて丁寧な接客をするほうが、売上につながる可能性は高いのではないだろうか。

数字でノルマを決めるならば、1日あたりの接客数ではなく、1日あたりの個人別売上高にすべきである。

会社としては、短時間勤務社員もフルタイムの社員と同じ成果を上げてほしいという意図からノルマを課すことにしたのだろうが、短時間で成果を出したかどうかを読み取れる指標は、接客人数ではなく、売上高であろう。

■資生堂の従業員は恵まれた立場
次に、「従業員側の協力不足」についての説明である。

法律論としては良くないことだが、事実上の問題として、経営体力や人員不足などの問題があり、育児休業を取得することや、短時間勤務をすること自体が難しいという会社も少なくはないのが我が国の実情だ。

であるから、「育児休暇や短時間勤務を当たり前に取得できる」ということ自体、資生堂は恵まれた会社であると言えると私は思う。

育児休業や短時間勤務制度が当たり前に取得できる環境を提供した上で、「時には土日や遅番のシフトにも入って下さい」と会社側はお願いしているのだから、従業員に対して、決して無理難題を押し付けているわけではないであろう。

世の中には、そもそも完全週休2日制でない会社や、飲食店のように遅い時間が所定労働時間の会社も多数存在しているのだ。

■ベビーシッター代まで負担する資生堂の配慮
それから、資生堂は、「夫や家族の協力は得られるかなどを聞きながらシフトを決め、協力が得られない場合はベビーシッターの補助を出す」という提案もしているようだ。

これはとんでもなく手厚い会社の配慮である。

そもそも、夫が家事や育児に協力してくれるかどうかは、その社員の家庭内の問題であり、会社には何も責任はない。

共働きならば、社員の女性が夫を説得して、夫に家事を分担させるべきであろう。

それにも関わらず、夫が家事を分担しないしわ寄せを、ベビーシッター代まで出して、資生堂が被ろうとしてくれているのだ。

資生堂はそこまで配慮をしているのだから、「甘えはやめよう」という呼びかけには一定の合理性があり、従業員もそれぞれの家庭の事情はあるものの、会社の配慮に応えて、協力をすべきではないだろうか。

■結び
結局のところ、会社側も、従業側も、100%自分の権利を主張するのではなく、もう少し自分を客観視したり、相手のことを思いやったりすれば、労使お互いが納得できる、良い落としどころが見つかるのではないか、ということである。

《参考記事》
■東名阪高速バス事故、11日連続勤務は合法という驚き 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45556859-20150715.html
■職人の世界に労働基準法は適用されるか?
http://sharescafe.net/41988647-20141120.html
■経験者だから語れる。パワハラで自殺しないために知っておきたい2つのこと。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42167544-20141201.html
■すき家のワンオペを批判するなら、牛丼にも深夜料金を払うべきだ。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41373749-20141016.html
■日テレ内定取り消しの笹崎さんに必要なのは「指原力」だ 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41885958-20141114.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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