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先日、8月に出産した女優の上戸彩さんが、12月6日に生放送される番組への出演で仕事に復帰することがわかりました。産後3ヶ月程度での仕事復帰の発表に、ネット上では「子供がかわいそう」、「子育てに専念しなよ!」といった批判的なコメントが相次ぎました。

■女性芸能人の復帰はたびたび批判の対象に
上戸さんに限らず、女性芸能人が出産後に批判を浴びる事例は少なくありません。今年の初めにモデルの山田優さんが産後2ヶ月で復帰した際には、そのファッションやコメント、仕事場に子どもを同伴したことなども批判の対象になりました。ほかにも産後の女性芸能人が表に出るたびに批判される例は数知れませんが、今回は特に違和感がありました。

それは、まだ実際に上戸さんが復帰した姿を見せていないにもかかわらず、「仕事をする」という報道だけで批判のコメントが上がったからです。実際に上戸さんの姿をみて、その容姿や態度などが批判されるならともかく、本人が出てきていないうちから上がるコメントのほとんどは、「芸能人ならこうであろう」という憶測によるものでした。

しかし、芸能人が一般的に置かれている状況を鑑みると、彼らには「子どもが大きくなるまでは家庭に専念する」と悠長には言えない事情があると思うのです。


■芸能人には出産手当も育休手当もない
会社員や公務員の女性が出産をする場合、産前6週間、産後8週間は休業(産休)することができ、健康保険から月給の3分の2相当の出産手当金が支給されます。また、子どもが1歳の誕生日を迎えるまでは育児休業(育休)を取得し、雇用保険から休業前の賃金の50%~67%(育休を開始してからの日数による)の育児休業給付金を受け取れます。

しかし、芸能人の多くは自営業です。芸能事務所とは、芸能活動を行うための支援をしてもらうための「マネジメント契約」は結びますが、これは雇用契約とは全く違います。一部の芸能人には、雇用契約を結び、法律上の従業員になる人もいるようですが、かなりレアなケースのようです。自営業となると、そもそも産休・育休はありませんし、これに伴う手当もありません。

上戸さんが所属事務所とどのような契約をしているかはわかりませんが、産休・育休に関わる手当がない可能性もあります。

「芸能人なら手当なんてなくても生活に困らないはず」、「出産前にたっぷり稼いだんだから、育児中ぐらい収入がなくたって平気なはず」という意見もあるでしょう。確かに上戸さんのような売れっ子の女優さんなら、少々の休業や手当の有無が目先の生活に影響することはないでしょう。

ただ、それだけの稼ぎがあるからこそ、休業して収入が急に減るギャップは大きいものです。たとえ貯蓄がたくさんあったとしても、キャッシュフローの大きな変化は、長引くと大きなダメージになりかねません。芸能人の場合、休業が長くなると人気が下がり、復帰してもギャラが下がる、仕事がなくなるリスクもあります。

上戸さんの場合も、事務所の意向か本人の意向かはわかりませんが、できるだけ早く復帰して、収入減へのリスクヘッジをしているのかもしれません。

また、上戸さんへの批判には、夫で元EXILEのHIROさんが高収入であることを挙げて「旦那がお金持ちなんだから、働かなくてもやっていけるのに」というコメントもありました。確かにHIROさんは現在EXILEなどのプロデュースをする会社の社長で、直近の決算では27億円の黒字を計上しています。本人の収入もかなり高いと想像できますが、経営者なら、それを維持していく難しさも承知のはずです。今は経済的に余裕があっても、上戸さんが働かなくてもずっとやっていけると保証するかは、いささか疑問です。

■一度上がった生活レベルは落とせない
筆者はファイナンシャルプランナーとして一般個人の家計を数多く見てきましたが、各々の家庭の生活費は収入に連動しています。たとえば月収が30万円だから、結果として生活費が30万円前後になる、というように、まず収入があり、それに応じて生活費が決まってきます。

芸能人でもおそらくそれは同じ。売れるまでは貧乏生活でも、ブレイクして高収入を得るようになれば、それに伴って生活レベルを上げる人が多いでしょう。しかし逆に、一度裕福な生活をしたら、下げるのは厳しいはずです。ひとたび家賃20万円の家に住んだら、次の更新時に家賃5万円の家に引っ越すのは心理的にハードルがあるのと同じです。

もちろん、芸能人は収入に波があるのを覚悟のうえでこの世界に飛び込んできているでしょう。だからこそ、稼げるときに稼ぎ、これまで築いてきた生活を維持するための危機管理は、一般人よりも重要です。

■芸能人は教育費がかかる?
芸能人の場合、子どもの教育費が高くなりやすいことも考えられます。差別、いじめのリスクを避けて、芸能人や有名人の子女が集まる私立学校に入れることがあるからです。芸能人といえど、人の親なら「子どもに苦労はさせたくない」と願うでしょう。

幼稚園から大学まですべて私立に通わせれば、教育費は平均でも2,500万円はかかります。もちろん公立に通っている芸能人の子どももいるでしょうが、親が芸能人では普通に暮らしたくても暮らせないこともあります。一般人には想定されない費用がかかり、生活費が高くなることも考えられます。

芸能界での寿命はいつまで続くかわかりません。子どもが独立するまでの約20年間、絶えず収入を確保していける安定性は、一般人よりもきわめて低いのです。その意味で、芸能人は稼ぐことによりシビアでいなければならないのかもしれません。

■母親が子育てに専念すべきかどうかは、イエスでもノーでもない
母親なら子どもとずっと一緒にいたいはず、子どもは家で育てるべきといういわゆる「3歳児神話」は、芸能人だけでなく一般女性の間でもしばしば問題になります。

そもそも、母親が働くべきか、働かざるべきかについて、絶対的な答えはありません。発達心理学が専門の大日向 雅美恵泉女学園大学大学院教授は、3歳児神話について「答えはイエスでもあり、ノーでもある」と述べています。世界的にも「母親が子育てに専念すべきかどうか」というテーマは数多くの研究が行われていますが、その解に至る結果は得られていません。

ただ近年のトレンドとしては、母親が仕事をすることが子どもに悪影響を与えるわけではない、という結果が多く発表されています。たとえばカナダのトロント大学でMelissa Milkie氏らが行った研究では、親が子どもと過ごす時間の長さは、子どもの学力、行動、情緒の安定とは関係がないことが明らかになっています。

科学的には、大事なのは子どもと「どれくらい過ごすか」ではなく、「どう過ごすか」であることが実証されつつある中で、世論はまだまだ非科学的な根拠で母性を語り続けているきらいがあります。

■多様性を受け容れる視点を、母親へも
しかし、たとえ将来に研究が進み、科学的根拠が出てきたとしても、子どもを産んだ女性がその後どんな子育てをして、どんなキャリアを積み、どんな生き方をしていくかは、最終的には本人が決めることです。そして、それぞれの母親が出す答えの裏には、環境的ないしは経済的な事情があり、理由があり、意見があるはずです。

働き方からパートナーシップまで、ライフスタイルのさまざまな面で多様化が進むにつれ、子どもを産んだ女性の考え方、社会との関わり方も多様になってきています。

「子どもを産んだ女性はこうだ」という画一的な解釈を一度取り払って、その裏には、個人あるいは家庭によってさまざまな事情があることに配慮すれば、働く女性たちの見え方は、ずいぶん違ってくるのではないでしょうか。

※一部、加筆修正しました。(12月1日)

加藤梨里 マネーステップオフィス株式会社 ファイナンシャルプランナー

《参考記事》
■サザエさんが働きに出た!(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44465516-20150426.html
■「大丈夫」じゃないのはお母さんだけじゃない。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42520618-20141222.html
■日本は「良いお母さん」のレベルが高すぎる(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39261507-20140608.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■保険に入るのは結婚直後がベスト! その本当の理由(加藤梨里)
http://moneystep.co/archives/223


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