社会人セミナー

先日、某新聞社が主催した「地方創生に果たす大学の役割」というタイトルのシンポジウムに参加しました。そのシンポジウムには、首都圏にある5校の大学が参加され、各大学が地方創生に関する取組み事例などを発表されました。 

そのシンポジウムに参加された大学はもとより、現在では多くの大学が「地方創生」関連のプロジェクトに積極的に参画し、学生と地方の企業が協働して、地方創生関連の施策実行に携わるなど、様々な活動をされているようです。

■25歳以上大学入学者の割合の国際比較
そのシンポジウムの中で、モデレーターを務めた文科省の審議官が、興味深い問題提起をされました。その審議官は、以下の「25歳以上の入学者の割合の国際比率」のグラフを提示され、OECD諸国の中でも、日本では25歳以上の大学入学者の割合が2%と極端に低く、特に社会人の「学び直し」のニーズが低いことを指摘された上で、各大学のパネリストにその現状をどのように感じているのか、意見を求められました。
25歳以上入学者の国際比較
                                 <文科省HPより転載>

しかしながら、そのシンポジウムに参加されていた各大学のパネリストの方々は、そのシンポジウムのテーマとは直接関連のない事柄について突然意見を求められたせいか、明確なコメントはされませんでした。

文科省の審議官は、特に上記の右側のグラフにあるように、日本では25歳以上の大学入学者の割合は2%に過ぎず、OECD諸国の平均と比較して極端に少ない現実を問題視しており、各大学に社会人学生比率を上げるような工夫を求めるお考えをお持ちのようでした。どうやら文科省には、各地域の産業振興を担うビジネスリーダーを育成する役割を、日本全国の大学に担ってほしいという期待があるようです。

しかし上記のグラフを見る限りにおいては、日本では「25歳以上の社会人が、大学で学び直す」という文化が未だ定着していないように感じられますが、果たして各大学は文科省が期待する役割を担うことができるのでしょうか?

■日本の大学で学ぶ「社会人大学生」が少ない理由
筆者は日頃複数の企業で、人材育成体系の開発や研修指導に関する仕事に携わっていますが、その経験からビジネス関連領域の指導に限定した場合、企業での実務経験を殆ど持たない大学の教員が、百戦錬磨の社会人を対象としてビジネス関連領域の指導を行うことは、現状では極めて困難だと感じています。

筆者は、過去に複数の企業における管理職を対象とした研修で、ビジネス領域で優れた研究実績を上げられている大学の先生方に講師を依頼し、指導をしていただいた経験を持っています。しかし社会人大学院のMBA課程等でも指導をされている一部の先生を除き、日頃学部の学生だけを対象として指導をされている先生方に対する研修受講者の評価は総じて低く、残念ながら企業から期待されたご評価をいただけなかったことがありました。

社会人を対象とした教育やコンサルティング等の現場において、企業等での実務経験を持たず、日頃研究を中心とした活動をされている教員の割合が高い大学が、百戦練磨の社会人を対象としてビジネス関連領域の指導を行い、受講者の期待に応えられるのかというと、通常の場合、指導内容の面でも指導スキルの面でも、極めて難しい現状があります。 この現状が、日本の大学で25歳以上の入学者が少ない理由のひとつになっているもの、と推察されます。

文科省の審議官が示された前述の右側のグラフによると、確かに日本の25歳以上の大学等での教育機関に入学する人は約2%と、OECD諸国などに比較して極めて低いのは事実です。しかし一方で、日本の社会人が他国と比較して著しく学習していないのか、というと、決してそのようなことは無いはずです。日本の25歳以上の社会人の多くが、単に学び直しの場として、既存の大学を選択してこなかっただけではないでしょうか?

日本ではOECD諸国と異なり、大学の代わりに社会人大学院や民間の教育機関、資格スクールなどが、社会人教育の主たる担い手となっています。よって、社会人大学院や民間の教育機関などが開講するセミナーや通信教育などを含めると、25歳以上の人の「学び直し比率」は、OECD諸国の平均値と比較しても、大きな差はないものと思います。

但し、社会人大学院や民間の教育機関を活用して「学び直し」を実行している人の多くが、東京などの大都市圏近郊に住み、大手企業に勤務している比率が高いことから、地方在住で中小企業に勤務している25歳以上の社会人でも、「学び直し」しやすい教育環境を整備していくことが、今後必要になるだろうと考えられます。

■リーダーを育成する教育機関の創出
国は、主に地方の産業振興などをリードできる人材を育成する役割を、各地方の大学に担ってほしい、と考えているようです。石破茂地方創生担当大臣は、先日のシンポジウムの席上、「大学には実社会で役立つ人材を育成してほしい。」と発言され、各大学に極めて実践的な教育を進めるよう、強く求めていました。しかし現実問題として、前述の理由から、大学側が国の期待にどこまで応えられるのか、現時点では疑問を感じざるをえません。

もちろん地方創生領域における各地域の大学が担う役割は大きいとは思いますが、地方創生関連の人材育成領域においては、大学のみならず、社会人向けの教育機関等にも広く門戸を開き、一定の支援を行っていく必要があるだろう、と思います。

また日本が抱える課題は、地方創生だけではありません。今後日本経済を上昇気流に乗せていくためには、中小企業の生産性向上が喫緊の課題となりますし、TPP時代を迎えるにあたっては、中小企業のグローバル対応への支援や、農業の6次産業化の推進など様々な課題に対して、スピーディな対応をしていかないとなりません。その課題解決策推進のための重要施策のひとつとして、各地域や各業界におけるリーダー人材の育成を促進させるための施策実行が挙げられるでしょう。

そのためには従来の大学に限らず、規制緩和により、優れた教育プログラムを開発している民間企業にも、米国のように、大学や大学院などを設立しやすい環境を提供することも必要です。逆に、時代のニーズに即した教育を提供できない大学や教育機関には、補助金等を縮小し、退場を余儀なくされる仕組みの構築も、併せて必要になるだろうと考えられます。

地方創生を初め、日本が抱える様々な課題解決をリードできる人材を意図的に育成していくには、優れた教育を提供できる教育機関の創出が必須となります。そのためには、既存の大学や大学院等の「スクラップアンドビルド」を加速化させるとともに、地方創生や中小企業の生産性向上、国際化対応など、日本が抱えるリアルな課題解決をリードできる人材育成を主眼とした、教育機関の設立を推進するための支援を提供する必要性も感じます。

その結果、大都市圏のみならず、日本各地で多くの社会人の「学び直し」が促進され、各地域で、様々な課題解決を主導できるリーダー人材が輩出されていくものと思われます。

【参考記事】
■「一億総活躍社会」実現のための「中高年転職市場」
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-21.html
■「中年フリーターの増加」を抑制することはできるのか?
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-18.html
■ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」
http://sharescafe.net/46134516-20150903.html
■「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉
http://sharescafe.net/45941690-20150816.html
■「女性管理職比率」を引き上げるための特効薬とは?
http://sharescafe.net/45853529-20150810.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 


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