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この1週間だけで4度も目にしたものがある。ストリーミング配信サービスの「Netflix」だ。パソコン、購入したばかりの無線LAN搭載テレビ、プレステ、そしてソフトバンクの契約者メニューであの赤い文字が目に飛び込んできた。

Netflixは創業1990年。カリフォルニアに本社を構え、2010年からスタートしたストリーミング配信サービスは、今や全世界に6,500万人の会員を抱える。2015年9月にはフジテレビと提携し、パソコンやスマホだけでなく、プレステやXboxでも月額650円定額で映画やドラマが見放題という触れ込みで日本への上陸を果たした。


■Netflixは成功するのか
この会社の登場によって、決定的なダメージを与えられた企業がある。米レンタルビデオ大手の「ブロックバスター」だ。2004年のピーク時に誇った9,000店以上誇ったチェーンは、2010年の破産法適用と同時に崩壊し、今やフランチャイズの50店舗しか残っていない。

こうしたエピソードからも、Netflixの日本上陸目的が、ツタヤやゲオなどの既存レンタルビデオ店の市場を取り込むことなのは想像に難くない。ターゲットの規模は、Tポイントカードの会員数だけでも5,000万人以上(2014年時点)にも上る。

実は、さきほどのブロックバスターも1991年に藤田田が日本法人を設立し、フランチャイズ展開を図ったことがある。しかし、1999年にゲオに事業譲渡し、失敗に終わった歴史を持つ。

この2社に限らず、様々な商品やサービスが日本市場を狙うが、スターバックスのように1,000店舗以上の展開を果たし成功を収めた企業もあれば、撤退を余儀なくされた企業もある。果たしてNetflixは成功するのだろうか?その成否は、ビジネスの由来が「軍事関連」であることを思い出すと垣間見えてくる。


■WIN−WINだけでは成り立たない
「孫子の兵法」や「君主論」など古典的な軍事理論が書店のビジネス書の棚に並ぶように、ビジネスの考え方の多くは、「軍事」から由来している。軍事、つまり戦争の目的は言うまでもなく「相手を倒す」ことだ。もしくは、二度とこちらに手を出さないように「ねじ伏せる」ことだろう。

一方で日本のビジネス社会には「WIN−WIN」という考え方が根強くある。お互いの利益を尊重し、無益な戦いは避けようというものだ。コラボレーションを進め、相手の力を借り、レバレッジを効かせて拡大を図る。起業したての企業をはじめ、JALのマイレージのように成熟したサービスでも見られる。

しかし様々な業界が成熟化する中で、この考え方だけで今後も乗りきれるのだろうか?WIN-WINが成り立つ背景には、分け合えるほどの十分な市場があったからではないかと思えて仕方がない。

身近な例を見ても、「WEB製作」などは全国Web制作会社オンラインデータベースに登録されている企業だけでも1,727社もある。未登録のフリーランスなど個人も含めれば、1万社以上と言われている。既存業者だけではない。ここ数年で「無料ホームページ」も広がりを見せ、プログラミング知識が不要と謳うWIXは7,500万人の利用者を数える規模に成長している。協力し合って、事業を拡大させる余地など見当たりそうもない。

こうした厳しい状況を打開するためには、「WIN−WIN」だけではなく、軍事の原点に立ち返り「相手を倒す」「ねじ伏せる」という考えも改めて必要になってくるのではないだろうか。


■相手を倒すために
相手を倒すために必要なことは「相手の弱点を突く」ことだ。これは孫子の兵法書にしっかりと書かれている。そのために相手を知り、自分を知れと兵法書は解く。

ツタヤにはNetflixのサービスと同様のものを展開し、そう簡単に追随できない現実がある。カニバリを引き起こし、900店舗以上あると言われるチェーンを実質的に捨てることになるからだ。仮にできたとしても、その頃にはNetflixか他のストリーミング配信サービスが市場を席巻しているだろう。単にレンタルビデオ市場に乗りこもうと考えたブロックバスターとNetflixにはこうした違いがある。

「相手の弱点を突く」パターンは、最近台頭し始めているサービスにも見られる。例えば米国でスタートしている「掃除用ロボットの貸し出しサービス」だ。貸すのは「ルンバ」ような簡易的なものではない。日本でもアマノ株式会社とシャープが業務用掃除ロボットを開発・発売しているが、自律走行機能を搭載し、屋内床面のゴミの吸引による清掃作業を自動的に行う高性能な業務用ロボットだ。あらかじめ清掃エリアの地図とプランを設定し、最適な経路で塗りつぶすように走行することでゴミを吸引、除去。リモコン感覚で手軽に操作できるタブレット端末を採用し、清掃エリアの設定や変更も簡単にできる代物だ。

価格は180万円。「ルンバ」と比べるととてつもなく高い値段だが、米国のケースでは、こうした高額な家事ロボットを月額数十ドルで貸出をしている。人海戦術によるきめ細かいサービスは、人件費の高さがアキレス腱だ。NetflixVSツタヤと同様に、今さら抱え込んだ人員を切って、ロボット貸出ビジネスへは移行できない。家事ロボット貸出は、この点をついたビジネスだ。

もちろん、貸出サービスにも「製造・在庫」という弱みはある。しかし、細かく考えるまでもなくコストは「既存家事代行の人件費>ロボットの管理費」だろう。人の手によるサービス自体が消えるとは思えないが、従来は値段に尻込みしていた層が、貸出サービスを使った格安の家事代行に飛びつく可能性は十分だ。


■既存ビジネスの弱点を突くメリット
既存ビジネスの弱点を突く最大のメリットは、Netflixや家事代行の事例にも見るとおり、既存企業が簡単にその弱点を覆せないことにある。なぜなら、自社固有の「価値」を捨てることになるからだ。つまり、新しい参入に対してそう簡単に報復攻撃を仕掛けることができないということだ。

市場が拡大し、利益を分け合える時代はWIN−WINも成立するが、消費者の財布の紐が固くなる一方の今、もはやそれだけで乗りきれるとは思えない。欧米的でドライに聞こえるかもしれないが、「相手の弱点を突く」という視点を持ちあわせ、今後のビジネス展開を考える必要もあるのではないだろうか。


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酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト


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