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このところ、軽減税率の適用範囲を拡大するという話で永田町界隈が盛り上がっているようです。

自民、公明両党は10日、2017年4月に消費税率を10%に引き上げる際に導入する軽減税率について、税率2%分を据え置く対象を生鮮食品と加工食品すべてとする最終調整に入った。菓子類と飲料も含める。必要な財源は約1兆円に上る。確保できている財源は4000億円にとどまっており、両党は追加の安定財源に関する詰めの協議を急ぐ。
(『軽減税率、菓子や飲料も 与党最終合意へ』、日本経済新聞、2015/12/10)

軽減税率に関しては、

・財源は一体どうするつもりなんだ?
・複雑な制度に合わせて準備するコストで中小企業が大変なんじゃないか?

といった問題もありますが、軽減税率は筋が悪いと私が考える一番の理由は、低所得層の税負担軽減を元々の目的としているこの制度で、一番損をするのが実は低所得層だという事実です。

■年収帯別の影響
表は、2014年家計調査のデータ(総世帯)をもとに、年収帯別の軽減税率の影響を概算したものです。年収帯は、下位から上位まで10%ごとにまとめられています。
軽減税率の効果
所得が低いほど、年収に対する食料品への支出の割合が高くなるため、軽減税率による効果の対年収比も同様に低所得層で高くなっています。しかし、年収に対する比率での比較は、ここでは適切ではありません。

表に示したように、金額で見ると、低所得層で平均6千円程度の税負担が軽減されているのに対し、高所得層では平均1万6千円程度も軽減されています。

軽減税率に賛成する人たちは、きっとこう言うでしょう。

「(高所得層との比較はともかく)税負担が6千円低くなると、ならないで、どちらが良いですか?」と。

しかし、それは言葉のまやかしなのです。

■軽減税率を国庫からの給付と考えてみる
軽減税率を、「払わなければいけなかったものを払わなくていいようになる」と考えてしまうと、自分への直接的な影響だけを見てしまい、全体を見失いやすくなってしまうのです。

これを、「軽減税率の効果分だけ国庫から給付を受ける」と、頭の中で変換してみましょう。

表で見たような、高所得者の方がたくさん給付を受ける制度は、低所得層の税負担軽減のための制度と言えるでしょうか? 税金の使い道として「逆進的な傾斜をかけた現金給付」なんて提案したら、何の冗談かと思われてしまうのではないでしょうか?

そんな制度よりも、同じ総額分を一律給付する方が、低所得層にとって好条件なのです。

上の表で言えば、軽減税率よりも、同額を一律給付した方が、低所得層には5千円ほどおトクになります(1.1万円 - 0.6万円)。

また、一律給付なら、軽減税率のための無駄な準備コストも必要ありません。

もちろん、一律給付の代わりに、出産時給付金のような所得水準が平均的に低い若年層に届きやすい制度にできれば、さらに大きな再分配効果を得ることも可能でしょう。

■低コストで効果的な低所得者支援策を
このように、軽減税率は低所得層支援策としては非常に筋が悪く、効果が小さい上に事業者にとってのコストが高い愚策です。

「やると言ったから、やらないわけにはいかない」というのは、一見とてもカッコよく思えるかもしれません。しかし、本当は、ダメなものはダメときちんと一つ一つ判断して、必要ならば前言を撤回してでもより良い選択をすることの方がずっと価値があるのです。

政治家の皆さんには、どうすれば一番低所得層への負担軽減につながるのかしっかりと検討した上で、実効性の高い政策の実現に尽力していただきたいものです。

お金に関する問題については、以下の記事も参考にしてください。
■【日米比較】お金持ちは本当にケチなのか? 本田康博
http://sharescafe.net/47093094-20151204.html
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。 本田康博
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■デリバティブで損失を出したあげく金融機関を訴える「名門大学」で金融教育が必要なのは、学生だけじゃない。 本田康博
http://sharescafe.net/43414929-20150217.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 本田康博
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本田康博 証券アナリスト・馬主

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