671551120bf9ac7221b0959b13baa320_s

平成28年度税制改正大綱から毎年のように検討されている配偶者控除の見直し案が来年以降に先送りされました。

■103万円の壁と130万円の壁
市民税務相談をしていると女性の相談者から、「パート収入で税金上一番得な働き方をするにはどうしたらいいですか?」という相談があります。いわゆる103万円の壁と130万円の壁です。103万円とは給料の経費となる部分の65万円と基礎控除の38万円を足すと103万円になり、1年間にパートを103万円以内で働いていれば自身の所得税がかかることなく、夫の扶養の中にも入ることができます。

一方、130万円は社会保険での健康保険の扶養に入れる限度額で、見込み年収で130万円を超えると扶養から抜け社会保険料を負担することになります。

■年収の壁が働く意欲を阻害しているのか?
確かに損得勘定で考えると130万円を超えると税負担だけでなく、年金や保険でも扶養からも独立しなければならないため、手取り収入が減り、損になるケースもあります。しかし、女性は家事や育児の負担が重いため、その合間を縫っての労働を選択せざるを得ない人も多くいます。結果として税金の損得で調整するラインぐらいまでしか働けないためにこの考えに落ち着くことになるのではないでしょうか。これには今現在でも全く変わらない日本の会社の労働状況が原因になっています。

■女性の家事の分担比は男性の4倍
日本の女性の家事負担は、他の先進国の中でも高く、2012年度のOECDの公表するデータによると、男性と女性の家事分担の比率はなんと4倍もあります。フルタイムで働いていても女性のほうが家事をこなすことが多く、女性の社会進出が期待される現在でも、家事・育児は母親がするものという固定概念は残念ながらあまり変わっていないことがデータにも表れています。

もちろん若い世代では徐々に家事や育児に前向きなお父さんは増えてきましたが、日本の社会は家庭より会社に忠実であることが評価されるという悪しき風習が残っています。家事を男性の4倍受け持っているのですから、女性は仕事を効率よくこなし、早く帰って家事をやらなければなりません。しかし、実際はがんばってもうまくいかず、せっかく仕事についても「やはり無理があった」と長続きせず辞めてしまいます。人生の中では出産、育児、病気、介護など会社いることが難しい局面があります。これをほとんど女性の負担とする世の中を変えていかなければなりません。

■日本の労働は全体的にも効率が悪い?
今までの働く女性はただ単に自分のプライベートな時間や睡眠を削ってこれに対処してきました。しかし、共稼ぎ世帯も多くなった今、家庭内の仕事も分かち合い、女性だけにこの負担をさせないように、労働の評価の基準を「長く会社にいる」から「決められた時間内で業務を完結する能力がある」ということにする必要があります。

日本のGDPを就業者数で除した一人当たりの労働生産性は、公益法人日本生産性本部の国際比較データによると、2014年公表の最新データで34か国中22位、就業1時間あたりでみた労働生産性は20位です。「長時間残業するほうが評価が上がる」という会社はまだ多いのかもしれませんが、結局は効率が悪いということなのです。

女性に限らず社会全体が短時間労働に取り組み、国民の労働環境を変化させる取り組みをすれば、おのずから家事・育児に専念していた女性でも無理なく働けるようになります。また、その効果で父親も早く帰宅できるようになり、育児にも参加できるようにすれば、女性の負担も減り、収入の壁を気にせず働く意欲を持つことができるようになります。「女性の社会活用」を言うならば、「男性の家庭内での活用」も同時に実行していってほしいものです。

■ただの増税案にしてはいけない
今、配偶者控除となる扶養控除を廃案しようとすると、国民から搾取する税金確保目的だけの増税案になってしまいます。政府は軽減税率の財源の穴埋めに必死ですが、配偶者控除を外して控除廃止分の税金を取るより女性の社会進出への取り組みが成功すれば、もっと大きい財源を確保することにもつながります。

「税金がかからない程度に働く」というのは1つの考え方ですが、その壁が女性の社会進出を阻んでいるというのはあまりにも安直すぎます。働く環境が整い、将来のキャリアが形成されるのであれば、働いてみようと考える女性も増えるはずです。まだまだ進まない日本の労働社会の意識改革をすることが急務でしょう。

これは理想論ではありません。現にそれを実現している国もあるのです。

また、文明社会が成熟した現在、企業のあり方も変化しつつあります。経営者も、働き方の多様性や柔軟性といった女性を含めたダイバーシティーの問題を考え実行する世の中に既に来ているのではないでしょうか。

【参考文献】
■相続税や消費税対策が将来の空き家問題を加速させる (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47043297-20151128.html
■アニメソングは非課税、歌謡曲は課税?難しすぎる税の判断基準。(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/46462250-20151003.html
■最も滞納税額が多い税金はこの税だった!(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/46098542-20150830.html
■脱税天国ギリシャは自営業がお得、日本はサラリーマンがお得?(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/45568041-20150716.html
■なぜ税務署は確定申告時に電子申告(イータックス)をすすめなくなったのか? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/45357050-20150629.html

浅野千晴 税理士

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加


シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。