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アルバイトの求人情報を見ていると社会保険完備を謳ったものがあります。社会保険が付いているアルバイトは、給料から年金や健康保険料が引かれるため、手取額が減ります。それを嫌がる人もいます。たとえば、結婚や出産を機に退職した女性がアルバイトを始めたとします。社会保険完備の時給950円のアルバイトで月120時間働くと月収が11万4千円になりますが、厚生年金と健康保険料を引かれるため、手取りにすると10万円を割ってしまいます。被扶養者の範囲内で働いた場合よりも、手取りベースでは低くなることがあります。

■アルバイトでも社会保険に加入できる権利はある
原則、法人の経営者はアルバイトを雇った際、一日または週の労働時間が正社員の4分の3以上でかつ月の労働時間が正社員の4分の3以上になるときは社会保険に加入させなければなりません。9時から16時までの一日6時間、週5日働いていれば該当します。

現実的にはこのルールを無視している経営者は多いのですが、ある程度の規模の会社になると守っています。ただし2ヶ月以内の期間を定めて雇用されるときは、該当しません。また個人経営の飲食店などはあてはまりません。
 
■最大のメリットは傷病手当金が支給されること
短期的には損することもある社会保険完備のアルバイトですが、長期的な観点や働けなくなるリスクを考慮すると得することが多いと思います。社会保険加入者しかない優遇制度がいくつかあるからです。その最たるものが傷病手当金です。

傷病手当金は、健康保険(共済保険も含む)の被保険者が業務外の病気や怪我で働けなくなったとき、標準報酬日額の3分の2が最大で1年6ヶ月、支給される制度です。日額が6千円でしたら4千円が貰えるのです。1年以上、社会保険に加入していれば退職後も受給できます(退職時に傷病手当金を貰える状態であった等の条件があり)。この制度は国民健康保険にないため、社会保険の加入者(加入者であった)でないと受給資格がありません。

アルバイトといえその収入は、世帯における住宅ローンの返済計画や教育費に大きな割合を占めるのではないでしょうか? 万が一働けなくなった場合、与える影響は大きなものがあります。傷病手当金で3分の2が補填されるのはかなり役立ちます。

■国民健康保険にはない出産手当金制度もある
もう一つ、健康保険の被保険者しか貰う権利がない制度として出産手当金があります。子供が生まれる前と後に休んだときに支給されるお金で、傷病手当金と同じく標準報酬日額の3分の2が、出産日以前の42日間、出産日以降の56日間の範囲内で、仕事を休み給与が支給されなかった場合に支給されます。出産手当金も配偶者の被扶養となっている第三号被保険者には、貰う権利がないのです。

■障害年金を受給できるハードルが下がる
年金制度に関して、厚生年金が貰えるほかにメリットがあります。それは病気やケガをしたときに貰える障害年金の判定基準が緩くなることです。厚生年金の被保険者には、国民年金と同じ1級、2級に加え、より軽い状態でも支給される3級と障害手当金という制度があります。

国民年金対象の障害基礎年金2級の判定基準は、仕事ができない状態であるのに対して、障害厚生年金の3級の判定基準は、労働に制限がある状態となります。労働制限があるというのは一日のうち、短時間しか働けないような状態をさします。

うつ病にかかってしまい今までと同じように働けなくなったとき、障害厚生年金の3級なら認定される可能性もでてきます。

■民間保険の就業不能時の給付条件は厳しい
社会保険に加入しなくても民間の保険で補えるのではと考える人もいると思います。たしかに障害状態になったときや就業不能時に給付金がでる保険商品もあります。所得保障保険(就業不能)などです。

しかしおおむね6ヶ月以上、いかなる職業においてまつたく就業ができない状態となった場合に支払われるなど給付条件は、それなりに厳しいものがあります。またうつ病などの精神的疾患も一部商品を除き対象外となっています。したがって民間保険で傷病手当金や障害厚生年金3級の代替とするのは、難しいものがあります。

■老齢厚生年金の受給者は悩むところ
60歳となり定年退職後、年金を受給しながらアルバイトなどの雇用体系で働き続ける人も多いと思います。内閣府が発行する平成26年度の高齢社会白書では、男性の場合60~64歳の72.7%が就業しています。そのうちの57.1%が非正規雇用となっています。

年金を受給している人が厚生年金の被保険者として働くと、老齢年金の支給調整対象となる恐れがあります。60歳から65歳までの期間ですと毎月支給される年金額(基本月額)と月の給料(標準報酬月額)の合計が28万円を超えると超えた分の2分の1が削減されます。年金支給額14万円で給料が16万だと、(14+16-28)÷2で1万円が減額されます。

厚生年金の被保険者としてならない場合は、上記の調整の対象となりません。もちろん、厚生年金を払った分は将来の年金受給額が増えますが、目先の金額は減るので悩むところです。しかし今後、65歳までの老齢厚生年金の受給できる順次、年齢は上がっていきます。老齢厚生年金を受給するまでの期間であれば、社会保険完備のほうがよいです。
佐藤敦規 FP・社会保険労務士

【参考記事】
■最低賃金を1,000円にすると、社会保障の財源が安定化する?(原田 雄一朗 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47021796-20151126.html

■配偶者控除は本当に女性の社会進出を阻んでいるのか(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47252222-20151218.html

■「俺、メンタル的にヤバいかもと思ったら」(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46714386-20151027.html

■祝!東尾理子さん第2子妊娠~働く女性への配慮は妊娠初期にこそ必要だ!~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/46118904-20150901.html

■アベノミクス2.0の前に、この一年一般庶民の暮らしぶりはよくなったのか検証してみた。 (皆川芳輝 ファイナンシャルプランナー、証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47285065-20151221.html

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