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東京(中日)新聞、年明けからの特集「新貧乏物語 悲しき奨学金学」では、「学ぶ代償、借金1千万」など奨学金で私大に進学した学生やその家族、保証人をとりまく悲惨な状況や、奨学金の回収強化などが伝えられています。奨学金のあり方への批判の声が上がる一方、そもそも投資回収の宛てがないと思われる低位大学への進学に、高額の借金してまで通った自己責任だという反論も根強くあります。お金の問題はキャリア決定において根幹ともいえる重大な要素です。学生の身近にある素材・奨学金問題は、キャリアデザインやマネーリテラシー養成の機会として格好のチャンスといえます。

■1千万の借金を18歳で決める
東京新聞の記事にある1千万の奨学金という借金を、1千万の取引と考えればそこそこベテランの営業マンでも気を引き締める金額です。まして人生をかけた選択でもある進路選択である以上、相当な重い決断となります。

ディール(賭け)に参加しなければ当然賞金も得られません。しかし学歴というキャリア決定においてきわめて大きな影響を持つこのディール、最悪は掛け金がパーになるリスクを持ちつつ、それが何倍にも何十倍にもなるリターンも期待できます。このように進路を決める、キャリアを決めるということは、正解など存在しない難しい問題なのです。

しかし難しくとも決断はしなければなりません。何より自分自身の人生がかかったものです。回収できる投資となるかムダ金となるか、その確率はどこの大学に入学するかによって変わります。強調しますが、あくまで「確率」であって、学歴だけでキャリアがすべて確定することは決してありません。いずれにしても18歳になれば、誰もがこうした人生を決める、重大な決断をすることになることは認識しなければならないことです。それを教える必要性は、キャリア教育においてきわめて大きいといえるでしょう。


■「夢はいつかかなう」はキャリア教育ではない
キャリア教育については国を挙げて取組が始まっています。しかし教員採用試験でのキャリア教育項目は、他の専門科目同様に知識を問う記憶力重視の試験になっています。「キャリア教育の新たな方向性を構成する4つの能力は何か?」のようなペーパー試験への正答を出せることと、現実に必要なキャリア教育は別物といえます。

結果として、医師や弁護士など、就業人口比からすればきわめて例外としかいえない、非現実的なキャリアを持つ人の話を聞いたり、「がんばれば夢はいつかかなう」「夢をあきらめない」といった精神訓話を授業で聞かされると、先日会った中学生が言っていました。精神論を否定はしませんが、子供たちを現実から目をそむけ、無菌保育することが教育だとは思えません。

現実という厳しいジャングルで、生きる力を養成できることこそキャリアを教育する意味だと思います。18歳の自分の可能性を客観的に考えるというのはきわめて貴重な機会です。高校卒業/大学受験というタイミングは、そんな点からも格好のキャリア教育の機会なのです。


■「パンがなければケーキ」といわせないためのキャリア教育
現実を知らない愚かさはマリー・アントワネットの最期のように悲劇です。人生の選択において、後先を考えずに1千万もの借金を背負うとするのは無謀以外の何ものでもありません。奨学金がどうあるべきかという政策論争より、目の前に存在する借金という認識がなく、周囲の薦めであれ何であれ、自ら契約をしてしまうことも同様に悲劇です。

リスクを取ってでもディール(大学受験を「取引」と呼ぶのが適切かどうかはさておき)をしなければ、それこそ夢の実現すらできないことはあり得ます。人生の結果を保証することは不可能ですが、人生の決断の重要性を教えることは可能です。キャリア教育では、知識を付与することより、こうした人生の選択における重大な決断の位置付けや、その後の可能性を考える能力を身に付けさせることが重要だと考えています。

金銭的には恵まれなくとも本当に優秀な学生には、防衛大や気象大のような学費どころか給与が支給される高等教育機関もあります。私大の中でもそれなりの数が特待生・学費免除制度を持っています。ただこれらは難関大であり、一般私大の特待生・学費免除を受けるにも優秀な成績を取る必要があります。金銭的に恵まれず、なおかつ優秀ではない子はどうすべきでしょう。


■Fラン大学に入ったら人生終る?
お金もなく優秀でもない子供であれば大学に行かないというのは現実的な選択肢の一つです。いわゆる手に職を付けるという道は、かつて昭和の時代までは学歴に頼らずに生きるキャリアとしてしっかり存在していました。しかし大学全入時代となり、「大学くらい行かせたい」という親の意向もあり、結果としてキャリア決定の重大さを無視した安易な決断とともに、多額の奨学金を借りてFランと呼ばれる、いわゆる低位の大学に進むという事態が起こります。

ちなみに低位の大学といっても、私は入ったら終わりだとは全く思っていません。実際には東大など大学序列の頂点に立つ大学であっても、就職できない学生は例外どころかそこそこ一定割合で必ずいますし、逆にFラン大生でも、がんばって大きな企業に就職する学生もいます。低位校しか入学できなかったその事実を冷静に理解することが出来たならば、就職においても超有名・人気企業のような夢ばかり追うことなく、地道に実現出来そうな仕事を探すというモードチェンジができる可能性が出てきます。

「自分は1千万の借金を抱えているのだ」という自覚を持って大学生活や就活に臨むのと、何も考えずに学生生活を過ごすのでは天地の開きがあります。Fラン大に入ったら終わりなのではなく、何も考えずに人生決定をすることこそ終わりなのです。野口英世ですら、研究のためお金の無心や資金獲得に走り回ったとのこと。ましてそんな偉人のレベルに至らない普通の人間であれば、自分の人生決定において無防備で思考停止した判断などあり得ないのです。

キャリア教育は正にこうした人生の選択の場において現実をつきつけられます。正にキャリア教育の価値の見せ所です。それをしっかり指導できる教員が、今、求められているのではないでしょうか。


【参考記事】
■キャリア教育とその指導者の資質。名選手が名監督ならず
http://shachosan.rm-london.com/?eid=850317
■ソーシャルメディアを使う資格
http://shachosan.rm-london.com/?eid=850304
■奨学金を借りてはいけない人の明らかな特徴
http://sharescafe.net/42753767-20150106.html
■内定辞退の作法。
http://sharescafe.net/46036751-20150826.html
■なぜ求人募集時の給与レンジと、提示時は違うのか
http://shachosan.rm-london.com/?eid=820954

増沢隆太 人事コンサルタント 株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役


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