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かつて人力で行われていた仕事の一部が、機械化・無人化することは珍しくありません。今や自動販売機はどこにでも存在しますし、ネットショッピングは誰とも接触することなく商品が購入できます。店舗オペレーションの機械化と引き換えに売り手が得るもの、逆に失うものは何でしょう。

■店舗オペレーションの機械化で、経営者が得られるメリットとは
『米国の職業別就業人口と平均年収から労働市場を出し「機械による代替市場規模」を算出した。奪われる仕事のトップは14兆円規模の小売店販売員だった。以下、会計士、一般事務員、セールスマン、一般秘書、飲食カウンター接客係、レジ打ち係、箱詰めや積み降ろし作業員、帳簿係、大型トラック運転手、コールセンター案内係、タクシー運転手、上級公務員、調理人と続く。
機械に奪われそうな仕事ランキング1~50位!会計士も危ない!激変する職業と教育の現場 週刊ダイヤモンド編集部2015/08/19』


元となるデータはアメリカのものですが、日本でも概ね同じ状況だと思って間違いないでしょう。たとえば私の自宅そばにオープンした弁当屋さんには、カウンター横にATMさながらの注文用タッチパネルが設置されていて、注文に関しては完全な無人化を実現しています。さらに近所のスーパーには、お客様自らがバーコードを機械に読み取らせてセルフで会計をする設備があります。バックヤードの仕事を含めると、もっと多くの作業が機械化・IT化しています。

お客様商売において、今まで人力で行なっていた作業を機械に切り替えるのには、経営者による「もくろみ」があります。店舗オペレーションの効率化・簡略化・簡素化、店舗オペレーションの精度アップ、データ管理の効率化・合理化、従業員の保安などがそれに該当します。たとえば飲食店の商品注文を、お客様によるタッチパネル方式に切り替えると注文間違いのクレームが減ります。知識や技術の低いスタッフが接客しませんので、お店の評判を落とすリスクが軽減されます。

しかし何より機械化促進の後押しとなっている理由は「人にまつわる経費と手間を軽減できる」というメリットです。人件費や求人コストだけではなく、求人の手間、面接の手間、採用の手間、教育の手間など、人材育成や人材管理に関する様々な手間や気苦労も減らせることにつながります。店舗オペレーションの機械化によるお店側のメリットを端的にまとめると「ミスが減って、お金が浮いて、楽できる」ということになります。

■店舗設備の機械化・IT化の影で進行する、お店の平均化・没個性化という問題
このように、店舗オペレーションの機械化には大きなメリットが存在します。しかし、機械化と引き換えに失うものもあります。たとえば注文取りをタッチパネルで機械化すると、単純にオーダーの聞き間違いはなくなりますし、注文の聞き方が悪いというクレームも減るでしょう。しかし同時に、これは店舗従業員がお客様と接触する貴重なチャンスを、売り手自らの手で減らすことを意味します。

接客サービスの良し悪しでお店の印象が大きく変わるのは、誰もが消費者として経験済みだと思います。店舗スタッフの立ち居振る舞い次第で、お店のファンは増えも減りもします。お店やスタッフのファンを増やす可能性を秘めた、貴重なお客様との接触チャンスを、店舗オペレーションの機械化により、みすみす逃しているという事実がそこにあります。

人力でこなしていた作業が機械に替わると聞くと、きっと機械化できる程度の簡単な作業なんだろうと誤解する人もいるでしょう。確かに「注文をとる」という作業に関して言えばまったくその通りで、お客様にメニューを表示して選んでもらい、注文ボタンをおしてもらうだけ、とてもシンプルです。しかし、それはあくまでも注文作業という「実務」に関してだけで、優秀なスタッフは実務以外の仕事を同時に行っています。

・お客様一人ひとりへのアイコンタクト
・お客様の性別・年齢などの客層による対応の変化
・声のトーンや注文の復唱でお客様に与える安心感や信頼感
・メニューに関する解説や、質問への回答
・効果的なオススメ商品の販促トーク
・ちょっとした雑談とお客様いじり、お客様からの「フリ」に対する効果的な「返し」

これらの仕事を、お客様からの注文を書きとめながら行なっています。そして、純粋な注文作業以外であるこれらの仕事こそが、お店の印象を大きく左右する重要な役割を担っているわけです。機械化される仕事は簡単で単純だという認識は、実は大きな間違いですし、そもそもの発想が逆です。機械化された接客業務に関する作業は、機械には真似できない部分が切り捨てられて、最小限の実務部分しか残されていないというだけなんです。

■なぜお客様はリピートするのか?機械化で浮いた時間とお金は、人的資産に再投資しよう
作業の効率化やコストダウンを目的に行なう作業の機械化やIT化は、決して大手企業にだけ起こる問題ではなく、中小・個人事業主が経営するお店でも行なわれています。

・手書きしていたDMをプリンタ印刷にする
・手書きしていた注文票を、POSに連動している携帯型端末にする
・DMやニュースレターを、手書きからメルマガにする
・ネットショップも並行して営業する
・ポイントカード・会員カードのデジタル化
・手書きPOPのパソコン作成

どれも時間の短縮や、効率や精度アップにつながるものばかりです。長期スパンで見れば、この先もお店の機械化はどんどん進むでしょう。しかし重ねて言いますが、単純にお客様との接点が減っていくことを意味します。しかも、お店の機械に出来ることは、同業他社のお店の機械にも出来ることです。お店の機械化が進めば、お客様との接点が減る上に同業他社との差別化が難しくなり、競合店ではなく「あえて」このお店で購入して頂く理由が、お客様に一層伝わり難くなるわけです。

機械化などの設備投資を行なう際は、それによって失うものをきちんと認識し、しっかり対策を講じる必要があります。特にお客様との接点や、コミュニティの構築に影響が出る設備においては、その代替となる策となる「次の一手」を忘れずに用意することをオススメします。あなたのお店が、味気ない買い物体験しか提供出来ない「巨大な自動販売機」にならない為にも、お客様の心を動かす施策を練りましょう。

経営に関しては以下の記事も参考になります
■人が育つ評価基準の導入で、ノウハウが蓄積・継承される人材育成の仕組みを作ろう
http://www.impact-m.net/?p=1336
■クレームの初期対応教育以前に、客商売としての共通認識を教育しよう
http://www.impact-m.net/?p=1214
■コンビニオーナーは本部の出店戦略に翻弄されるな! 立地や商品ブランドに頼る前に、商圏内ファンを増やそう
http://sharescafe.net/47268803-20151221.html
■回転すしチェーンに学ぶ、新規顧客の獲得につながる戦略的なメニュー展開と、経営の利益体質改善
http://sharescafe.net/46936074-20151118.html
■中小企業の猿真似厳禁!! 大手外食チェーンが仕掛ける「ちょい飲み」にみる、低価格戦略の
http://sharescafe.net/46516953-20151014.html

福谷恭治 商売力養成コンサルタント インパクトマーケティング代表 

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