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「下流老人」という言葉が昨年の流行語大賞にノミネートされたように、老後の金銭的な問題が盛んに雑誌やウェブ上で取り上げられています。最近では、中年破産という危機も取り沙汰されるようになってきました。それなりの年収や貯金があった人が中年破産や老後破産に陥る第一の原因は、世帯主の病気と言われています。一方、我が国では全世帯の8割以上が民間保険に加入しています。「日本人は保険にお金をかけすぎている。国が保険者となっている健康保険に入っている上、保険会社の医療保険に加入している」という意見もあるのです。ある程度の年収や貯金がある人でも病気が原因で老後破産に追い込まれるという主張に疑問をいだきました。

■リスクの中では対策がしやすい病気
実売で20万部を越えたと言われる「下流老人」(朝日新書)という書籍には、普通のサラリーマン(公務員や役員も含む)が下流老人へ転落する5つのパターンがあると述べられています。
(1)病気や事故による高額な医療費の支払い
(2)高齢者介護施設に入れない
(3)子供がワーキングプア
(4)増加する熟年離婚
(5)認知症でも周りに頼れる人がいない
いずれも深刻な問題ですが、自分自身ではコントロールできない(2)から(5)に比べて、病気のリスクはまだ対策がしやすいと思われます。国民皆保険制度の名のもと、原則として全員が国の健康保険に加入しています。入院費や治療費の自己負担を抑えられるので、一定の収入がある人ならば残りを貯金や民間保険で補えるのではないかと考えられるからです。

■負担を抑える高額療養費制度
国が保険者となっている健康保険(サラリーマンや公務員が加入)や国民健康保険には、高額療養費という給付制度があります。医療機関や薬局の窓口で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給するものです。所得や年齢によって上限額が異なります。

原則として退院後、請求により上限額を超えて支払った分が戻ってきます。事前に「限度額適用認定証」を申請すれば、退院時の支払い額を自己負担限度分のみに押さえることができます。ただ保険会社のFPとして色々な人に会って話をした結果、この制度の認知度はそれほど高くない印象があります。

■高額療養費制度があるので民間の医療保険は不要?
生命保険には、亡くなったとき(高度障害なども含む)に支給される死亡保険と入院したとき、その日数に応じて給付金が支給される医療保険があります。個別の医療保険には加入していなくても、死亡保険の特約(オプション)として入院関連の保障をつけている人も多いです。

医療保険について、「思っているほど入院費がかからないので必要ない。医療保険に払うお金を貯金にまわしたほうがよい」と主張するFPがいます。その根拠となるのが高額療養費制度です。前述したように所得によって上限額は5段階に分かれますが、最も人数が多い370万~770万の層ですと1月の支払上限額は9万前後となります。ただし1月というのは1ヶ月以内というわけではありません。1月20日から2月14日のように月をまたいで入院した場合は、5万+8万というように2月分の金額が適用されます。

また食事やシーツ代などの入院時生活療養費の自己負担分は含まないため、別途請求されます。さらに患者の希望により1人から4人の病室へ入院したときの差額ベッド代、保険の対象外となっている治療を受けた場合の費用も対象外となります。

実際に1回あたりの入院にかかった費用は、22.7万円、平均日数は19.7日となっております(生命保険文化センターの平成25年度調査結果)。

自営業や日給制の非正規の仕事に就いている人にとっては、入院により収入がなくなる上、23万の出費があるため厳しい状況になるかと思います。しかしサラリーマンであれば有給休暇制度もあるため、入院中の収入はある程度、保障されます。高額な保険外治療を受けないのであれば、医療保険がなくても問題ないかもしれません。

■高額療養費があれば安心だったのか?
実際、高額療養費があれば大丈夫だったのでしょうか? 何ともはっきりしない感じです。「下流老人」には、69歳の男性が62歳の会社退職時に3000万の貯金があったにも関わらず、心筋梗塞の治療費により大半を使い果たし、生活保護に頼る羽目になったという事例が紹介されていました。高額療養費の制度があることは知らなかったようです。

老後の破産をテーマとした書籍や記事では、上記のような極端な例を掲載していることが多く、具体的な数字の裏付けが不足している印象があります。

■増加する民間の医療保険の加入者
医療保険は不要というFPの主張とは裏腹に、医療関連の保険の加入率も増えています。平成25年度、民間の保険会社、郵便局、JA共済などで入院時に給付金が支払われる保険に加入している人の割合は74%。平成16年度の69.3%より、増加しています(生命保険文化センターの平成25年度調査結果)。ガンの罹患リスクなどが広く認知されていることから、医療関係の保障を手厚くしようとしているようです。最近では、廉価な共済にも先進医療特約といって、保険の対象外の治療にも給付金がおりる場合がある保障が用意されています。

こうした状況を考慮すると、病気になっても心配ないように考えられますが、民間の医療保険が病気になったときに役だったかについて述べている記事は、確認できませんでした。

■病気になったときに貰える保障を確認しておこう
なぜ高額な医療費の支払いにより、ある程度の年収や貯金がある人が破産してしまうのか、今一つわからないところで、モヤモヤ感が消えません。

いずれにせよ、老後破産をテーマにした書籍や記事を読んでいたずらに怯えるのではなく、一度、高額療養費や傷病手当金などの国の社会保険制度はどのような場合に支給されるのか、医療保険に加入しているのであればその内容について確認することをお勧めします。不明点があれば、会社の総務や保険会社の担当者に尋ねてみるのもよいでしょう。いくら手厚い保障があっても使えなければ、何の意味もありません。

普段、病気になったことなど想像する人は少ないと思います。ガンや脳梗塞などになってしまった場合は、本人だけでなく、家族も混乱します。病気になってしまうと対策を思いつかないこともあるからです。
佐藤敦規 FP/社会保険労務士

【参考記事】
■生命保険金が置き去りにされるトラブルが続出中! その理由とは?(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー )
http://sharescafe.net/40387650-20140817.html

■医療費40兆円突破の元凶、医療機関へのフリーアクセスを抑制する方法。(山浦卓 薬剤師・医学博士)
http://sharescafe.net/46517054-20151009.html

■アルバイトは社会保険完備のほうがよい理由 (佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47340992-20151227.html

■積み立て型の生命保険、終身保険は不用? (佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46343820-20150924.html

■「年金もらえない話」とあの「大予言」は似ている(原田裕一朗 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47537450-20160117.html


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