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節分の時期になると、昔から存在している行事なのに、やることが増えていることに毎年ハッとします。いつの間にか生活に入り込んできた、節分の時に『恵方巻』と呼ばれる太巻きを食べるといった習慣ですが、筆者が子供だった20年ほど前には存在しなかったと記憶しています。

筆者の住んでいる関東で節分といえば、豆をまきをして、そのあと歳の数の分だけ食べるといった行事だったと記憶しています。

この『恵方巻』を食べるという習慣は、もともとは大阪を中心に行われていた習慣ということですが、最近では大阪のみならず様々な地方のお店が『恵方巻』といった太巻きを販売しています。

季節感を感じさせてくれるイベントが増えると楽しみが増えるので良いことであると感じます。しかし、この『恵方巻』が尋常ではない量の廃棄を出しているとの報道がありました。

「異常な量の恵方巻き残ってる」「26万円の廃棄」「100個以上捨てる」――。2016年2月3日夜、こんな悲痛なツイートがコンビニ店員から相次いだ。節分にあわせて入荷した恵方巻きが大量に売れ残り、それを廃棄しているというのだ。2016年2月5日J-CASTニュース


もちろん、ちゃんと売り切った店舗もあるでしょうし、すべての店舗がこのような大量廃棄を出したとは限りません。しかし、一部の店舗とはいえ、このように大量に食料品を無駄にしているということは悲しいことです。

(なお、取引の力関係とか、従業員に不当に買い取らせるといった事については本稿では触れません)

■ある程度の廃棄は
さて、商売をするうえで避けなければならないロスはなんであるかご存知でしょうか?今回の報道のように商品を泣く泣く廃棄する廃棄ロスでしょうか?

せっかく仕入れた商品を廃棄するなんてもったいないですし、心情的にも無駄にしている感が強いため、商売をやっている人は、この廃棄ロスを出す際には身を切られるような痛みが生じると思います。

しかし、この廃棄ロスよりも避けなければならないとされているロスがあります。それは、お客様がほしいと思う商品がおいていないことによって生じる機会ロス(チャンスロスとも言います)です。

この機会ロスは、そこに商品があれば売れたはずの売り上げを逃すことになるので、非常にもったいないことですし、何よりもお客様の期待を裏切ることにつながります。その結果お客様に「あのお店は品ぞろえが良くない」といった悪い印象を与えてしまい、客足にも悪影響を与えるといわれています。

そのため、多少の廃棄ロスは覚悟して少し多めに仕入れるというのが小売業を営む上でのセオリーであるといわれています。

もちろん、食料品を無駄にしないため、また少しでも損失を小さくするために、閉店時間が迫ってきたタイミングで大幅な割引をして売ってしまうといった努力をしているお店もたくさんあります。

しかし、このように、機会ロスを防ぐためといった観点から考えたとしても、今回の『恵方巻』の大量廃棄はなかなか正当化することはむつかしいでしょう。

どうも、機会ロスを防ぐために少し多めに発注したといったレベルではなさそうですし、もし、本気で大量廃棄した量の『恵方巻』が売れると考えて発注したとすれば、それは需要の見通しが甘すぎたと言ってよいと思います。

■一番大きなものを失う
今までであれば、食料品を大量に廃棄するといった行為の倫理的な問題はともかく、食料品を大量廃棄した情報は広く社会に知られることはほとんどなく、大量に廃棄したお店が損失を被っただけでした。

しかし、現代では、誰もが情報の発信側に回ることができます。そのため、こういった衝撃的な状況はすぐに画像付きで拡散されてしまいます。

26万円分の『恵方巻』が廃棄される写真は、多くの人にとって、食料品を無駄にしているといった強い不快感を感じさせる写真です。

少し古い記事ですがフランスではまだ食べられる食料品の破棄を禁止にする法律が制定されています。

膨大な食品の廃棄量に頭を悩ませるフランスで、大手スーパーマーケットがまだ食べられる食品を廃棄処分することを禁じる法律が制定された。

この法案は、5月21日にフランスの国民議会で全会一致で可決された。一連の法律によって、店舗の面積が400平方メートルを超えるスーパーマーケットは賞味期限切れなどで販売できなくなった食品を処分することができなくなる。

売れ残った食品は慈善団体に寄付するか、家畜の飼料や肥料に転用しなければならなくなり、法律に従っていることを証明するため、スーパーマーケットは慈善団体と契約を結ぶことも義務付けられる。
2015年5月25日 ハフィントンポスト


このように、食料品の破棄に対する見方は厳しさを増しております。

『恵方巻』といった文化を商業的に利用することは悪いことであるとは言いません。しかし、甘い需要見積もりの結果発生した食料品の無駄は、画像付きで拡散されてしまう時代になっているのです。そのことを企業側は認識する必要があるでしょう。

企業は自らのブランド価値を高めるために、ありとあらゆる手段を用いて懸命の努力をしています。しかし、『恵方巻』の売り上げを確保するといった目先の売り上げ増のために、せっかく培った自らのブランド価値を棄損する危険を冒すだけの価値があるでしょうか?

全てのお店でこれだけ多量な廃棄ロスが出たわけではないにしても、少なくとも今年多量の廃棄ロスを出した店舗は需要予測を引き下げ、仕入れる量を適正にした上で、食料品の廃棄ロスが少なくなるような事業運営が求められると考えられます。

【参考記事】
■軽減税率で一番損なのは誰か、分かりやすく解説してみました。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47565368-20160120.html
■コンビニオーナーは本部の出店戦略に翻弄されるな! 立地や商品ブランドに頼る前に、商圏内ファンを増やそう 福谷恭治(商売力養成コンサルタント)
http://sharescafe.net/47268803-20151221.html
■合理的でない消費税の還付制度をするくらいなら、還付額を増やした方がよい(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/46198325-20150908.html
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/38555851-20140430.html

中小企業診断士 岡崎よしひろ

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