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今日で軽井沢のスキーバス事故から丸1か月になる。

運転手が2人とも死亡し、生存者の乗客も就寝中であったため事態を把握できておらず、真相解明には時間がかかりそうだということである。

■シートベルトの着用率は低かった模様
現在までに判明している事実として明らかなのは、乗客の大半がシートベルトを締めていなかったということだ。この点、もし乗客全員がシートベルトを締めていたら、結果は変わっていたかもしれない。

この点、道路交通法ではシートベルトの着用義務について次のように定めている。

道路交通法第71条の3 第2項(抜粋)
自動車の運転者は、座席ベルトを装着しない者を運転者席以外の乗車装置に乗車させて自動車を運転してはならない。


だが、この違反に対してはバスの客席を含む後部座席に関しては、一般道では「注意」にとどまり罰則はなく、高速道路上の違反でも運転者に対する減点1にとどまる。実際に高速バスが乗客のシートベルと着用義務違反で検挙されたという話も聞いたことがない。

結局のところ、高速バスやツアーバスの乗客のシートベルト着用は、乗客の自己責任に委ねられていると言わざるを得ない。

だが、なぜ高速バスに乗るとき大半の乗客はシートベルトを締めないのだろうか。また、バス会社も「シートベルトを締めてください」とアナウンスを流すだけで、乗客が確実にシートベルトを締めたことを確認しないのであろうか、ということが素朴な疑問として浮かんだ。

■厳格な航空機のシートベルト着用義務
この点、航空機に乗るときのことを考えると、キャビンアテンダントが1人1人のシートベルトをチェックし、1人でもシートベルトを締めていない乗客がいると決して離陸をしない。

乗客のほうも、航空機に乗ったら自然とシートベルトを締めているのが通常の光景だ。

航空機機のシートベルト着用義務は航空法第73条の4に根拠がある。

航空法第73条の4
機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、またはしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序もしくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置をとり、又はその者を降機させることができる。


やや抽象的な条文ではあるが、シートベルトの着用は「航空機の安全の保持」や「該航空機内の秩序もしくは規律の維持」に当然に含まれると解されている。

そして、道路交通法のシートベルト着用義務を定めた条文との大きな違いは、シートベルト着用義務に従わない者を飛行機から降ろす権限が機長に与えられているということと、本条の機長命令に従わなかった者には罰則(航空法第150条により50万円以下の罰金)が定められているということである。

つまり、航空機の場合は、機長が乗客にシートベルトを締めさせる権限を法的に与えられており、また守らない乗客に対して刑事罰も適用されるから、航空会社は乗客に対して「シートベルトを締めないと離陸しない」「シートベルトを締めないなら降機してもらう」ということが堂々と言えるわけだ。

■バスの運転手にも機長並みの権限を与えるべき
これと同様に、道路交通法を改正して、街中を走る路線バスにまでシートベルト着用を義務付けるのは非現実的だが、高速バスとツアーバスについては、運転手に乗客に対してシートベルト着用命令をする法的な権限や、着用しない乗客を降車させる権限を与えるべきではないだろうか。

そのような命令権がないから、運転手も内心では「ちゃんとシートベルトを着用してもらうまで発車したくない」という気持ちがあったとしても、「シートベルトの着用なんてしたくない」という乗客に対しシートベルトを締めさせることも、降車をさせることもできず、「さっさと発車しろ!」というプレッシャーに負けて、やむを得なく発車してしまっているというのが実態なのではないだろうか。

■バスは航空機よりも危険な乗り物である
飛行機事故はいったん起こると大参事になるので、乗客も恐怖感があるからシートベルとを締めているという事実もあるだろう。

しかし、冷静に考えると、ハイテクで何重にも守られた飛行機は、確率論で言えば高速バスよりもはるかに安全な乗り物である。操縦桿を握るパイロットにも、バスの運転士よりもはるかに厳しい健康診断や技能検査などが義務付けられている。日系の航空会社に限って言えば、実は、1985年のあの痛ましい日本航空123便の墜落事故以来、旅客機の死亡事故は1件も起こしていないのだ(JAL、ANA、SKY等だけでなくLCCも含め)。

それほど厳重に安全対策がなされている飛行機でさえ、たった1人の乗客がシートベルトを締めないだけで離陸をしないのである。

飛行機よりもリスクの高い乗り物であるはずの高速バスで、発車時や高速道路に入る前に「シートベルトを締めましょう」と形ばかりのアナウンスだけで済ませてしまうのは、おかしいのではないだろうか。

上記のように、運転手に乗客にシートベルトを締めさせる権限を与えるとともに、シートベルトを締めていない席を運転席のコントロールパネルで確認できたり、締めていない乗客の席には赤色のランプが付いたりするような仕組みも、それほど大きなコストをかけずに導入できるのではないだろうか。

シートベルトを締めない乗客がいた場合、出発しない運転手ではなく、シートベルトを締めない乗客のほうを非難する社会的風潮を生み出していくことも必要であろう。

■高速バスのシートベルト着用を本当の意味で義務化すべき
高速バスの事故に関しては、運転手の高齢化の問題、過重労働の問題など、解決すべき問題はたくさんあり、当然解決していかなければならない問題である。

しかしながら、それは今日明日ですぐに解決できる問題ではないことも事実だ。

そんな現状の中、確率論的に一定の割合で事故自体の発生は不可避としても、死亡事故のリスクを減らすという意味では、航空機並みのシートベルト着用義務を乗客に課すというのは、今すぐにでも打てる安全対策の一手なのではないだろうか。

《参考記事》
■社会保険の未加入企業は「逃げ切り」ができるのか? 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/shakaihoken-mikanyuu
■社員を1人でも雇ったら就業規則を作成すべき理由 榊 裕葵
http://aoi-hrc.com/blog/shuugyoukisoku-sakusei/
■独立するなら学びたい、AKB48のキャリアウーマン岩佐美咲の仕事術 榊 裕葵
http://sharescafe.net/47686063-20160201.html
■軽井沢スキーバス転落事故。国が本気にならなければ悲劇は繰り返される。榊 裕葵
http://sharescafe.net/47553437-20160118.html
■東名阪高速バス事故、11日連続勤務は合法という驚き 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45556859-20150715.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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