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保険の加入者は、原則として請求しなければ給付金を受けとれません。国の健康保険には、高額療養費制度という入院や通院の自己負担額を抑えてくれる仕組みがあります。ベストセラーとなった「下流老人」(朝日新書)に、入院時にこの制度を利用しなかったことにより、多額の貯金を失い老後破産に陥った事例が紹介されていました。保険会社の医療保険も同様です。手厚い保障をつけていても請求しなければ、意味がないのです。そこで医療保険を加入者(加入検討者も含む)が注意すべき点をまとめました。

■保険会社の医療保険は加入したほうがよいのか?
高額療養費制度があるため、医療保険は不要と主張するFPがいますが、私は次の理由から加入したほうがよいと考えています。

・医療費の自己負担割合が増える
社会保障費は年々増加しております。平成27年度一般会計予算の医療費は、9兆3680億円。社会保障関係予算の29.7%を占め、1位の年金(35.2%)に次ぐ数字です。前年度と比較して2.3%増加しています。年金制度を維持できるか課題となっているのは周知のとおりですが、医療費の状況も同様に深刻です。

高額療養費制度がなくなることはないものの、増加する医療費を支えるため、年収が平均以上の人の自己負担額が増える可能性があります。実際に2015年度から770万円以上の収入がある人の1月あたりの自己負担限度額は値上がりしました。

・一度、病気に罹ると連続してかかる
がんが完治後、再発するように、人間の体とは不思議なもので一度、ある箇所が悪くなると直っても別な箇所が悪くなったりします。

医療保険に加入する際の留意点は、高額療養費などの社会保険の概要を把握し、営業担当者から勧められるまま特約(オプション)につけないことです。前述したように自己負担額が増えるものの、制度そのものがなくなる可能性は低いからです。

最近では介護状態になったときに一時金や年金が支給される特約が用意されている医療保険も登場しています。一時金が支給されれば、介護施設の入所金を賄うことができます。ただし要介護状態の2以上などの条件がついている商品が多く、毎月払う保険料もそれなりにアップしますので、貯金で用意するのか悩むところです。

■医療保険は不要という営業トーク
私は保険会社に所属しているFPなので、医療保険を勧めるのが当然かと思われる人も多いでしょう。意外なことに「医療保険は不要です」という話法を使う保険会社の営業担当者もいます。それは次のような背景があります。

2014年、全世帯の中で単身世帯の割合は27.1%。10年前と比較して3.4%増加しました(厚生労働省の調査結果)。死亡保険に加入して自分の葬式代を用意したいという律儀な人もいますが、大半の独身者は病気や入院したときに給付金がおりる医療保険のみ興味を抱きます。あえて医療保険に関心を示す見込み客に対して、「高額療養費制度ってご存知ですか?」という質問を投げかけるのです。知らないと答える人には、概略を説明した後、「ある程度の貯金があれば医療保険は不要です」と提案します。今まで保険勧誘において入院のリスクを強調された人は、「医療保険は不要」という営業担当者に対して意外性を感じます。

その上で「銀行にお金を預けっぱなしにしておいても増えますか?」と問いかけ、終身保険について紹介します。「医療保険や貯金として銀行に預けているお金をこちらに廻しませんか」と提案すれば、契約してくれる確率が高まります。医療保険の保険料は、月に数千円なのに対して、終身保険の保険料は数万円を超えることもあるので成績的にも高く評価されます。

■医療保険に加入しないのであれば手元に現金を持っておく
医療保険に加入しない替わり、貯金で備えるという考え方もありかと思います。その際は、銀行の預金通帳に現金を残しておく必要があります。高額療養費により入院費用はかからないといっても、1回あたりの入院により平均23万前後かかります(生命保険文化センターの平成25年度調査結果)。最低、その金額を預金口座に残しておかなければなりません。自営業者であれば入院が収入減に繫がるため、100万前後は用意したいところです。

投資信託や積立て型の生命保険に毎月の給料を投入しすぎて、銀行口座にほとんどお金が残っていない人は危険です。入院時に手持ちの現金がなければ、解約して割り当てることになります。株価の下落時に投資信託を解約すればマイナスになる可能性が大ですし、積み立て型の保険を払い込み期間の途中で解約すれば、戻ってくる金額は払い込んだ金額よりも少なくなります。いずれも金融資産を減らすことに繫がります。

■保険加入の情報を家族で共有する
保険に加入していたら安心かというとそうでもありません。保障内容を確認した上で、配偶者や家族と情報を共有する必要があります。医療保険(がん保険を含む)にあるがん診断給付金という特約は、一度に100万円といったまとまったお金が支給されます。がんによる離職時の収入減少を補ってくれる魅力的な制度です。ただし商品によって、1回の支給で終わるもの、何回でも支給されるもの、就業不能にならないと支給されないなど大きな違いがあります。

また入院する際、窓口で民間の医療保険の加入の有無を確認されますが、脳梗塞や認知症になってしまい、本人が思い出せない事態も想定されます。医療保険は死亡保障と異なり、お金を払う契約者と保障の対象となる被保険者、保険金を受け取る保険金受取人が同一になっていることが多く、また結婚前から加入する人が多いため、配偶者が医療保険に加入していたことを知らないケースもあります。

■便利な指定代理請求制度
独身の方は、加入している医療保険に指定代理請求人を指定しておくと安心です。指定代理請求制度とは、被保険者本人が保険請求の意志表示をできない場合、契約者があらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって、保険金を請求できる仕組みです。

医療保険加入時に指定代理請求人を指定していなくても追加できます。指定代理人になれるのは、保険会社によって異なりますが次の人達です。
・被保険者の戸籍上の配偶者
・被保険者の直系血族
・被保険者と同居または生計を一にしている被保険者の3親等内の親族

■先進医療特約をつけても無条件で給付金が支給されるわけではない
最近の医療保険の大半は、先進医療を特約(オプション)としてつけられます。がんの重粒子線治療や陽子線治療などの備えとして、医療保険に加入する人もいると思います。先進医療の技術料は高額療養費制度の対象外となるため、場合によっては200万を越える費用がかかります。先進医療特約をつけていれば、支払い限度額までの給付金を受け取れます。

ただし厚生労働省によって指定された先進医療指定医院で治療を受けないと給付金が支給されません。例えば白内障の治療として遠近両方の視力を回復できるため、“多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建手術”を受ける人が増えています。また手術を行う眼科も多数あります。費用は数十万以上かかります。しかし先進医療指定医院とされていない眼科でこの手術を行った場合は、先進医療特約をつけていても給付金は支払われません。

■対策にお金をかければよいというものではない
地震や水害の対策として、普段から避難場所の確認やどのように家族と連絡をとるか想定しておく必要があります。いくら設備に予算を投入しても、活用できないのであれば無意味です。病気に対する備えも同じです。家族がどんな保険に加入しているのか、保障内容の概要は確認しておきたいところです。(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)

【参考記事】
■本当に高額な医療費の支払いで老後破産になるのか?(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/47636064-20160127.html
■積み立て型の生命保険、終身保険は不用?(佐藤敦規 FP・社会保険労務士)
http://sharescafe.net/46343820-20150924.html
■生命保険金が置き去りにされるトラブルが続出中! その理由とは?(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/40387650-20140817.html
■うつを放っておくと一生保険に入れない(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/47681033-20160131.html
■結婚したらすぐに生命保険に入る理由 (加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/41215969-20141006.html



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