プレゼン

経団連と大学の綱引きにより後ろ倒しされた就職活動時期が、再び前倒しされるというややこしい2017年卒就活がいよいよ3月から本格化します。各社の企業説明会や合同説明会などの広報イベントを堂々とできるのが3/1からになります。学生との重要な接点の企業説明会ですが、そこで行われている企業からの情報発信は適切なのでしょうか?学生へのアピール浸透という視点で考察します。

■バブル採用とは違う売り手市場
2017年卒就活と呼ばれる今年の就活シーズンでは、学生側優位の売り手市場の傾向は続き、欲しい学生の取り合いの激しさが増すでしょう。ただこの争奪戦は、バブル期の再来にはなりません。かつて面接のその場で内定が出たとか、歌を歌ったら内定したというような都市伝説的エピソードで語られた、学生全体が売り手市場だったバブル期とは全く別です。争奪戦の対象はあくまで「欲しい学生」なのです。

新卒採用をしている企業に共通する一番の課題は「欲しい学生が採れない」というものです。当然のことながら企業は経営方針・人事政策の一環で採用をします。経営方針に沿った人材でなければ採用する必要がないのです。

企業の新卒採用意欲はきわめて高く、2月16日に経団連が発表した「2015 年度新卒採用に関するアンケート調査結果の概要」でも売り手市場であることが確認されています。経団連調査では前年に比べ、24.4ポイント増の91.1%の経団連企業が「前年より売り手市場」だと感じています。リクルートワークス研究所始め、複数の調査でも、採用意欲は増えることはあっても減る可能性は見当たらないという見通しです。

しかし一方、長い景気後退を通じ、組織スリム化は広く企業から共通目標として認識されています。人手が足りなくとも単純に採用を増やすわけではなく、厳選採用という風潮はこの売り手市場下でも緩んでいません。結果として、高偏差値大学の学生であっても、内定を一つも得られない「無い内定」者や本意の企業から内定をもらえず最後まで就活を続ける学生は珍しくありません。


■学生が求めるもの
各種学生意識調査などを見ますと、上位には「楽しく働きたい」、「個人の生活と仕事を両立させたい」(2016年卒マイナビ大学生就職意識調査)や「自分が成長できること」(ジョブウェブ就職活動ミニアンケートVol.02)への強い関心が表れています。実際に学生と接してもこうした傾向は間違いなく強く感じます。

企業の採用活動が活発化する中、このような学生の志向は反映されているでしょうか?筆者自身が多数の企業説明会に関わっているため、学生以上にさまざまな企業の説明プレゼンテーションを見ていますが、業績や歴史を強調したり、世界的名声や業界内ポジショニングをアピールする企業は多くとも、教育体制やキャリアパスをじっくり説明するプレゼンはあまり見かけません。

今の学生に共通する傾向は、そのまじめさです。わずかでもスキあらばバイトの手を抜こう、授業をサボろうなどばかり考えていた筆者などと比べ、今の学生は全般的にまじめ度が違います。講義にもよく出席し、成績も悪くないという学生はむしろ今の方が多いのではないでしょうか。

このことは学生の特質をも象徴しています。間違うことが恐いのです。極度に失敗を恐れ、怒られることを忌避する点は、少子化による子育て環境の変化も影響しているのかも知れません。結果としてリスクを背負ってまで授業をサボったりせず、まじめに勉強している学生はとても多いといえます。

「楽しく働きたい」「成長したい」という多くの学生の声は、イコール失敗したくない、辛い思いをしたくないという意識の表れではないかと感じます。キャリアパス等、働いてみなければわからず、人生を会社が保証するなどできません。では社員の事例やエピソードの提供ならどうでしょう。

理系学生であれば学部生なら技術職、大学院生なら研究職を志望する率が高いのが普通ですから、そうした学生が入社してから歩む社内キャリアの例をもっと増やします。単なる合同説明会に比べ、OBを招いて就活体験を聞く催しはどの大学でも大盛況です。企業側が伝えたい情報ではなく、安心感を得られる情報を学生は求めていると考えるべきでしょう。


■アピール次第で中小にも勝機
社内の教育体制もきわめて重用な関心事です。この点かなりあっさりしか説明しない企業が多いのですが、実にもったいないといえます。文系学生が多く就くであろう営業・事務系職では、教育体制といえるほどシステム化されていないOJTも多いかも知れません。これまた表現の仕方次第で関心を惹くことは可能です。先輩について得意先回りをすることも、「メンタリングによる実地研修システム」と呼ぶパッケージ研修として説明してはどうでしょう。

単に呼び方を強引に変えるのではなく、実際は先輩同行であっても、研修パッケージとしてしまうのです。それにより若手社員が嫌う修行イメージが軽減できれば、モチベーションにも影響すると思います。先輩社員の事例や教育実態については、大手企業・有名企業でもたいして触れない企業が多いのです。それであれば非大手企業・非有名企業が差別化のために積極的な取組みを考えてはどうでしょう。

キャリアパスを知りたいという要望には、会社組織というものを知らない学生がわかりやすいよう、説明の仕方を工夫することで、現状の体制を大きく変えることなく応えられるはずです。広報戦略の視点で、採用活動におけるカスターである学生をとらえ、そのカスタマーが求める情報を、カスタマーがわかるような形態で提供するための工夫はいくらでもできると思います。

採用という企業活動における戦略目標は、合同説明会に何人動員したか、内定者を何人獲得したかでは絶対にありません。内定を受諾し、来年4月の最終的な入社までこぎつけた欲しい人材を何人獲得できたかです。人気企業に対抗して、早期に内々定者を獲得できたとしても、2016年卒就活ではその後、大量に内定辞退が発生しました。今一度、カスタマーという視点で、学生への情報提供を見直してみて下さい。


【参考記事】
■なぜ求人募集時の給与レンジと、提示時は違うのか
http://shachosan.rm-london.com/?eid=820954
■ソーシャルメディアを使う資格
http://shachosan.rm-london.com/?eid=850304
■「石の上にも三年」の真の意味
http://sharescafe.net/47148491-20151209.html
■内定辞退の作法(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/46036751-20150826.html
■「手書き履歴書で人柄がわかる」という勘違いへの対策
http://sharescafe.net/46742045-20151030.html

増沢隆太 人事コンサルタント 株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役


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