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先日2015年度国勢調査の結果が公表されました。それによるとこの5年間で日本の人口は約95万人減ったそうです。人口や雇用は経済活動に大きな影響を与える要因であり、また最近、人口や雇用に関わる記事も多く見かけますが、分からないことも多いのでまずは現状を確認したいと思います。



■不本意な非正規雇用者は少ない
人口や雇用に関するデータは総務省統計局のホームページに公表されています。また2013年から非正規雇用に関する分析に有用なデータの取得も進んでいます。これらに基づいて作成したのが図表1a,1bです。

【図表1a】 年齢階級別雇用形態別雇用者数(男性、2013年)
fig1a


【図表1b】 年齢階級別雇用形態別雇用者数(女性、2013年)
fig1b



注)図中、「非正規雇用(不本意)」は非正規雇用についた理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」という回答者の割合から算出。非正規雇用についた理由として、男性の理由1位は「正規の職員・従業員の仕事がないから」であり、年齢階級によって11.3%~49.1%の違いがあります。一方女性の理由1位は、「家計の補助・学費等を得たいから」、2位は「自分の都合のよい時間に働きたいから」であり、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由は6.8%~21.9%と少なめ。(出所:労働力調査ミニトピックス No.7総務省統計局2013年)

不本意な理由で非正規雇用を選んだ人は全体で見ればそれほど多くはないと言えそうです(だからといって無視してよいという話ではありませんが)。


■直近非正規雇用を増やしているのは団塊世代
非正規雇用=貧困弱者的なイメージからか、非正規雇用率の上昇が貧困を助長するかのような論調もありますが非正規雇用率が増えている要因は何でしょう。

2013年から2015年にかけての人口の増減と雇用者数の増減(男女別、年齢階級別、雇用形態別)を表したのが図表2a,2bです(総務省統計局労働力調査データを加工)。

【図表2a】男性人口および雇用の増減(年齢階級別、2013年から2015年の変化)
fig2a


【図表2b】女性人口および雇用の増減(年齢階級別、2013年から2015年の変化)
fig2b


図を見ると分かりますが、人口および雇用が増えているのは、65歳以上の高齢者と45~54歳のバブルの前後世代で、その増加数も他の年齢階級よりはるかに大きくなっています。中でも65歳以上の非正規雇用の増分は男女共に大きく、男女合わせて2年で60万人超増えており、非正規雇用率の上昇に寄与したものと考えられます。また、45~54歳のバブルの前後世代では、男性は正規雇用が20万人超、女性は正規雇用が10万人超、非正規雇用が20万人超ずつ増加していて、これも非正規雇用率の上昇に寄与したと考えられます。

まとめると以下です。

【男性】
      2015年  2013年    差分
正規雇用  2,270万人 2,274万人  -4万人(バブル前後世代と若手のプラスマイナス)
非正規雇用  634万人  610万人 +24万人(65歳以上の影響)

【女性】
      2015年  2013年    差分
正規雇用  1,043万人 1,028万人  +15万人(バブル前後世代と若手のプラスマイナス)
非正規雇用 1,346万人 1,296万人  +50万人(65歳以上+バブル前後世代の影響)


■本当に若手が減っている
ここで一つとても気がかりなことがあります。15~44歳の若手(40代を若手と呼んでよいかはさておき)の人口ですが、男女共に減っています。雇用については年齢階級別に多少差はあるものの“一部を除いて”微増微減となっています。さて、問題はこの“一部を除いて”の部分で、25~44歳男性正規雇用者はその数が大きく減少しています(2年で40万人超)。

25~44歳男性といえば多少無理もきき一番働き盛りで企業としても優先して雇いたいであろう世代と考えられますが、なぜこの世代の正規雇用が大きく減ったのか?この世代は仕事をしなくなったのか?というとそういう訳ではありません。この世代の就業率は90%以上です。つまり、どこかで遊んでいるという訳ではなく、人口減少がほぼそのまま正規雇用者数減少につながったと解釈できます。つまりこの世代の人的供給量が減ってほぼ売り切れ状態ということです。

それを裏付けるかように、知り合いの中小事業者からは、「もっと人がいれば案件を増やせるのに」とか、「仕事はあるのに任せる人がいないので頭打ちだ」とか、「誰か活きの良い若手いない?」などという言葉をよく耳にします。つまり若手人材が不足していることで経済的な機会損失が生まれていると考えられます。潜在ニーズがあったとしてもさばききれないのであればGDPも上向きません。


■イノベーションは必要だがその主体は人
若手は減少していて余っていない。かといって移民受け入れには大きなハードルがある。となれば頼れるのは中高年者、特に就業率がまだ男性よりは低い女性ということになるのでしょう。実際に雇用は増えていて、中味を見ると若者の不足を中高年者で補っている様子がうかがえます。

最近イノベーションの必要性が叫ばれています。中高年者の労働力は数的には重要ですが、技術の変化をキャッチアップして新しい価値を生み出す力はやはり若手にはかなわないと思います(もちろん有能な高齢者もいるかもしれませんが少数でしょう)。年々女性の就業率も高まってきてはいますがいずれどこかで限界を迎えます。

長期的に考えれば、やはり本筋は、将来の担い手である子供を増やしていくこと、そのための環境を整えることを基軸にする。一方で今ある人でイノベーションを起こす努力をすることでしか持続的な経済活性化は実現できないのではないでしょうか。そのために必要な雇用制度、賃金制度構築やセーフティネット構築が望まれます。


【関連・参考記事】
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?
http://sharescafe.net/44507403-20150429.html
■最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。
http://sharescafe.net/47839310-20160217.html
■アベノミクスが対峙する「生産性向上ができない日本の"特殊"事情」
http://sharescafe.net/47884288-20160222.html
■アベノミクス2.0の前に、この一年一般庶民の暮らしぶりはよくなったのか検証してみた。
http://sharescafe.net/47285065-20151221.html
■コストコのような高額のアルバイト時給を支払えないお店が、優秀な人材を確保する唯一の方法
http://sharescafe.net/47761433-20160209.html



皆川芳輝 ファイナンシャルプランナー/証券アナリスト グローバルライフプランナーズ合同会社代表

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