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 昨年のフランクフルトモーターショーでお披露目されたニューポルシェ911カレラシリーズが今月(2月)日本に上陸した。モーターショーでは、様々なメーカーから新商品が打ち出された通り、現在の自動車業界は、日本メーカー含め激しい競争にさらされている。自動車業界以外からの人工知能を活用した自動運転技術の研究や、既存企業の新たな市場拡大による競争激化など、競争市場の広がりは想像を超えるスピードで進んでいる。その中でも、近年大きな戦略転換をしているドイツメーカーのポルシェにフォーカスし、同社の今後の戦略と目指す方向性を読み解いていきたい。

 ポルシェといえば「911カレラ」がその代名詞であり、憧れの車である。1963年にデビューして以来、スポーツカー市場ではその存在を際立たせてきた。ポルシェといえばスポーツカー、そんなイメージと共に歩んできた名車である。そして、この911デビューから2000年代の前半まではポルシェは高級スポーツカーというニッチな市場で生きてきた。ニッチであるがゆえに、そのこだわりと特徴的なデザインで市場の名声とブランド力を獲得し、高い評価を得たのである。

■ニッチ戦略とは
 ニッチ戦略とは、市場が小さく、大手が魅力を感じない規模の市場をターゲットにした戦略である。ポジショニングアプローチにより未開拓市場や競合が少なく規模が小さな市場を狙い、積極的な競争を避けることで収益性を確保する。また、市場が小規模なため、大きな資本の投下をそれほど必要としないケースが多く、小規模事業者の新規事業や、中小企業の体力でも参入が可能であることが多い。

しかしながら、ニッチ戦略には落とし穴もある。ニッチな市場で成功した事業者は、その後更なる成長を求めたがるケースが多い。ニッチ市場で成功した手法をもってより大きな市場へ参入、または、ニッチ市場で確立したブランド力やイメージを利用し、現在の市場で更なる市場拡大を行いたいと思うことは、成功した人間が抱く当然の心理である。

だが、ニッチな市場に参入する理由は、大手との競合を避けるため(=大きな資本との競合には勝てないため)である。成功を収めたニッチ市場から大手ひしめく既存市場への進出は、大きな競争市場へ打って出ることを意味する。また、これまでのニッチ市場の中で更なる成果を求めると、その市場は拡大を続け、やがて大手から見ても魅力的な市場に変化し、ここでも将来的には大手との競合に発展する。従って、ニッチ戦略は、ニッチであり続けることで競争を回避し、高収益体質を維持することが成功の秘訣なのである。

■ポルシェの動向
 近年のポルシェは、代名詞である911を柱にしつつ、VW(フォルクスワーゲン)との関係強化をきっかけに、そのシナジーを活用した商品戦略に着手している。具体的には、近年人気を集め、各社がこぞって商品を投入するSUV市場に、VWの商品をベースとしたポルシェ初のSUV「カイエン」を2002年に投入した。そして、この新規市場で大きな成功を勝ち取ると、その後高級セダン市場へ「パナメーラ」を投入し、BMW7シリーズやメルセデスのSクラスがある各社フラッグシップとの競争を選択した。2014年には最低価格帯600万円台から購入可能な「マカン」をラインナップに加え、SUV市場の更なる低価格帯へ進出し、既存メーカーひしめく市場に積極的な競争を仕掛けている。

これらの動向は、ポルシェがこれまで培ってきたブランドと、VWのノウハウを組み合わせ、ポルシェが主戦場としていたニッチ市場である高級スポーツカーのみから更なる成長を求め、大きなボリュームが望める大海原へ打って出たポルシェの拡大戦略である。これにより、ポルシェは2015年上半期に納車台数約30%増、売上高約33%増を記録し、営業利益率は15%を確保する驚異的な成長を遂げている。この状況の中で、これまでのニッチ市場に留まるという判断を下せる経営者はほぼ皆無であろう。また、現時点では誰もがポルシェの戦略は成功していると判断するであろう。

しかし、今後もポルシェが高級セダンやSUV市場を侵食し続け、またその他の市場へと触手を伸ばすと、その市場の競争環境は激化する。そして、これまでその市場をメインフィールドとしていた各社がその市場で十分な利益を得ることができなくなり、新たな市場を探し始めるであろう。そのターゲットがひとたびポルシェの既存市場へと向けられれば、ポルシェは自らの拡大戦略により、眠れる獅子を呼び起こすかの如く長期的には自らのメインフィールドを脅かす危険性にさらされる。そうなれば、ポルシェが他の市場に進出したことと同様に、BMWやメルセデス、レクサス等の大手が高級スポーツカー市場(またはそれに代わる代替市場)に進出し、ポルシェのラインナップ全てにおいて熾烈な競争が展開され、巨大な資本に立ち向かわなければならない時がくるかもしれない。

■企業戦略
 企業の戦略には長期的な視点とともに、自己の行動の結果予想されるライバルたちの反応を盛り込むゲーム理論が叫ばれて久しいが、現在のポルシェの拡大戦略は5年、10年後に吉とでるか凶とでるか。やはりニッチ戦略はニッチであり続けることが、大手との競争を回避し、独自の強みを生かし、生き残るための掟であると思わずにはいられない。ニッチがターゲット市場を変えた途端に大手と競合し、その結果巨大な資本の反撃に合う。ニッチがニッチでないほど拡大した途端に大手に狙われ、その市場はニッチではなくなるのである。短期的な成功を目指し、隣の芝がどれだけ青く見えたとしても、戦略の一貫性を貫くような不器用なメーカーの1台に男はいつまでも憧れを抱くものではないだろうか。

【参考記事】
■日本企業のM&A「対等の精神」に潜む影 「ファミマとユニーの経営統合」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47656741-20160129.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html
■地方創生時代に輝く地方企業の挑戦と秀逸な競争戦略(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/46572214-20151014.html
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点
http://sharescafe.net/44050998-20150331.html

森山祐樹 中小企業診断士




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