しばらく人が住んでいないアパートpkts
レオナルド・ディカプリオが念願の主演男優賞を受賞した第88回アカデミー賞で、脚色賞を受賞した注目の映画が『マネー・ショート 華麗なる大逆転』です。

マネーがショート(不足)して資金繰りに奔走…そんな話かと勘違いしてしまいそうな邦題ですが、原作はマイケル・ルイス氏の小説『The Big Short』(邦訳『世紀の空売り』)で、リーマンショックに至る経済危機を舞台に展開される実話をもとにした悲喜劇です。

「ショート」「ロング」と言えば、一般的には長さが「短い」「長い」ですが、金融市場では、「ショート」が「売り」、「ロング」が「買い」を意味しています。(普通に長さを意味する場合もある。)

■サブプライムローンとは何だったのか?
この映画で重要なカギとなるのが、過剰な住宅ローン融資を背景とした住宅バブルです。当時問題化した住宅ローンとして良く知られる「サブプライムローン」が、本映画の公式サイトでもキーワードの第一に挙げられています。
サブプライムローンとは?
銀行がろくに審査もせず、借金返済能力の低い市民にバンバン貸しつけた住宅ローンのこと。全米でバブル化していた住宅市場の崩壊(住宅価値の下落)が始まると、ローンの焦げつきが急増。多くの市民が破産して自宅を失うとともに、サブプライムローンを組み込んでいた金融商品(モーゲージ債)は投げ売りされ、リーマンショックの引き金となった。
(映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』公式サイトより抜粋。)

「銀行がろくに審査もせず」という部分はともかく、「バンバン貸しつけた」ことが住宅バブルを促進させたであろうことは、この図からも容易に想像できます。
米住宅市場
(住宅価格はS&P/Case-Shiller全米住宅価格指数、住宅債務残高はFRB資料より、筆者作成。)
(注: 住宅価格指数は1975年から2006年まで一貫して上昇。足もとでは住宅価格指数がピーク時に近い水準まで戻したが、住宅債務の総量は増えていない。)

過去数十年にわたり右肩上がりに推移した米国の住宅価格(図の赤線)は、2000年代に入りその上昇ペースを加速させた後、2006年をピークに下落に転じました。そして、それから約一年遅れ、住宅債務残高(青棒、FRBの定義によるOne- to four- family residences向け)がピークに達した頃、サブプライムローン問題は世間一般にも認知されていました。

「サブプライム」は本来「プライム(優良)よりは劣る」という意味で、特別とんでもない住宅ローンというわけではありませんでした。プライムと比べてある程度の貸し倒れリスクを貸し手が許容する一方で、金利等の条件を比較的厳しく設定したものがサブプライムなのです。

借入当初から金利が高いわけではなく、かつて日本の住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)が貸し出していたステップアップローンのような、途中から金利が上昇するティーザー金利と呼ばれる仕組みが頻繁に採用されました。

審査基準は、当然プライムよりも緩かったでしょう。ですが、流石に「ろくに審査もせず」という状況ではなかっただろうと思います。

幸運にも過去数十年間に渡り住宅価格が上がり続けてきた当時の米国では、住宅ローン貸出基準のキモは将来値上がり確実な物件であって、返済が困難となった借り手であっても、ローンの借り換えや物件売却によって完済可能だと考えられました。借り手本人の支払い能力はあくまでも補完的なものだったのです。

(FICO(ファイコ)スコアと呼ばれる信用情報の欠陥や不正等、他の問題も多々ありますが、ここでは説明を省略します。)

■過去データを反映して設計されたサブプライムローン
下図では、黒が住宅ローンの毀損率、緑がクレジットカードローンの毀損率、青が失業率、赤が住宅価格指数の推移を表しています。(但し、毀損率は債務不履行後の回収を反映したネットの損失率。)
経済環境とパフォーマンス
(住宅価格はS&P/Case-Shiller全米住宅価格指数、他はFRB資料より、筆者作成。)

緑のクレジットカードローンの毀損率が概ね失業率と関連して変動する中、リーマンショック以前では、景気の悪化を意味する失業率の上昇が住宅ローンのパフォーマンス悪化(毀損率上昇)に大きく影響していないことが、図の比較から見て取れます。

このようなデータを長年積み上げた結果、「住宅価格さえ上がっていれば、景気が悪化しても住宅ローンは回収できる」と貸し手が考えてしまったのは、当然のことだったのかもしれません。それを否定するもっともらしい根拠はありませんでした。

景気悪化時も含めて住宅価格は常に上昇していたため、サブプライムローン等の住宅ローンの貸出基準は、ある意味必然的に物件価値中心となったのです。

米国の住宅ローンが実質的にノンリコース(住宅処分後に借入人がローンの残額を請求されることがない)であることも、個人の返済能力を重視しない方向に働きました。

そして、借り手にとっても、とにかく住宅ローンを借りて住宅購入することこそが、正しい道のように見えてしまったのです。

■米住宅市場崩壊の時系列
公式サイトの用語説明にあるように、住宅価格下落を機に「ローンの焦げつきが急増」したことは、図からも確認できます。

貸し手も借り手も、住宅価格が上昇することを大前提に、借り換えや売却ありきで実行されたローンですので、住宅価格が低下すれば、当然、返済見込に大きな影響が生じます。返済不能に陥る人が続出するのは、当たり前なのです。

当時の住宅市場の変化を大雑把に時系列に追うと、
・ 住宅価格の伸びが鈍化し、次いで住宅ローンの伸びが鈍化(2005~2006年頃)。
・ 2006年をピークに住宅価格が減少に転じ、同時に住宅ローン毀損率が上昇開始。
・ 2007年半ばに失業率が底を打ち、反転上昇。サブプライム問題が広く認知。
・ 2008年9月のリーマンショックを境に住宅債務残高が減少に転じる。住宅ローンを担保にした複雑な証券化商品の市場が壊滅状態に。失業率の急激な上昇に伴い、住宅ローン毀損率はさらに上昇。
となります。

今から振り返ると、住宅価格下落の始まりがポイント・オブ・ノーリターンで、そこから市場崩壊への道筋は、システマティックに決まってしまっていたようにも思えます。

多くの人がありえないと思っていた住宅価格の下落が始まったとき、物件価値重視の仕組みが市場崩壊の梃子(てこ)になることに気付けた人だけが、未曽有の金融危機の最中に他の市場参加者たちを出し抜くことができたのです。

そんな人たちにスポットライトを当てた映画『マネー・ショート』は、3月4日から全国ロードショーとのこと。重要なキーワード等をおさらいした上での鑑賞をおススメします。

■とても大事な教訓
・ 過去のパフォーマンスは、それがどんなに確かそうに見えても、決して将来を約束しません。
・ 皆が同じ方向を向いているときほど、期待が外れた時の反動が大きくなりがちです。
・ テールリスクに備えましょう。

≪参考記事≫
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。 本田康博
http://sharescafe.net/46947203-20151119.html
■不遇の天才チューリングの半生を描いた脚本家が感動のアカデミー賞スピーチで訴えた、日本に一番足りないもの。 本田康博
http://sharescafe.net/43977373-20150326.html
■映画「イミテーション・ゲーム」の暗号解読ミッションを、「魚のムニエル」で解説してみました。 本田康博
http://sharescafe.net/43988269-20150327.html
■「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。 本田康博
http://sharescafe.net/43385921-20150216.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 本田康博
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html

本田康博 証券アナリスト・馬主


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