おまえはもう証券化されている
リーマンショックに至る経済危機が舞台の実話をもとにした映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』が、いよいよ公開されました。私自身、1999年に日本で初めて「モーゲージ担保証券」を組成した経験もあることから、この映画を観るのをとても楽しみにしていました。

映画の中では一般の人が普段耳にしない金融用語が終始飛び交っているのですが、テンポ良く駆け抜けるように話が展開されるので、あまり細かい部分を気にしなくても十分楽しめるだろうと思います。

その上で、一般の映画ファンの皆さんがこの映画を観た後の満足度をさらに一段高いものにするために、映画に関連した基礎知識をできるだけ分かりやすくお伝えすることにしました。これはその第三弾となります。

ご自身の金融知識に併せて、これまでに書いた「初心者編」「サブプライムローン編」なども、参考にしていただければ幸いです。

また、記事の末尾で基本用語とキーワードの解説をしています。必要に応じて参考にしてください。

■MBSやCDOがAAAになる理由
多数のサブプライムローンを束ねて証券化したMBS(モーゲージ担保証券)や、そのMBSをさらに束ねて証券化したCDOが、AAAのような高い格付を付与されるのは何故でしょうか?

MBSの場合、ジニーメイやファニーメイ、フレディマック等の政府系金融機関が元利払いを保証する仕組みになっていたものも多く、連邦政府レベルの信用力を背景に高格付けがつけられました。

また、民間企業による証券化でも、AAA格の信用がある保証会社や保険会社による保証をつけることで、AAA等の高い格付を比較的簡単に取得することができたのです。(保証がないものもある。)
モーゲージ関連図
そうした保証の仕組みに加え、モーゲージをたくさん束ねることによる分散効果も高格付に寄与しました。また、過去数十年にわたる経験から常識化していた「住宅価格は上昇し続ける」という見方も、高い格付をサポートしました。

住宅ローンの返済は長期にわたるため、最初に元本が返る「優先」、後で元本が返る「劣後」、最後に余った金額をすべて受け取る「残余」等、「トランシェ」と呼ばれる複数のパートに分割されました。借り手が返済不能になるリスク(デフォルト・リスク)の影響は返済の順序が先であるほど小さいため、「優先」トランシェには高い格付が付与されたのです。

■MBSはインチキか?
MBSや証券化と言うと、よく分からないインチキな金融商品という印象をお持ちの方も少なくないかもしれません。ですが、少なくとも日本においては、そうした考えは正しいとは言えないでしょう。

当時の米国の証券化市場が決定的にダメだったのは、市場が過熱したために住宅市場におけるバブルを生み出してしまったことと、住宅市場の過去のパフォーマンスを唯一神のように妄信してしまったこと、商品の極端な複雑化によって誰もそのリスクを正しく評価できなくなってしまったことなどでしょう。これらは、日本の証券化市場とは大きく違っていました。

実はMBSは、日本でもこれまで数多く組成されています。作りはシンプルなものが多く、私の記憶に間違いがなければ、複雑なCDOは組成されてはいません。裏付けとなる住宅ローン資産の情報も、投資家に対してはかなり詳しく開示されていたと記憶しています。

アメリカ発の金融危機によって、そうした日本の証券化市場が大きく縮小したのは皮肉なことでした。

ちなみに、銀行等が融資している住宅金融支援機構のフラット35はほぼすべて証券化されますが、これは、米国の政府系MBSを参考に、日本の法制度や慣行に合わせてシンプルな形でデザインした、MBSに類似した金融商品です。

■あなたはもう証券化されている
フラット35が証券化されているのはわりと有名な話だと思いますが、日本の一般の皆さんにとって、もっとずっと身近な「あるもの」が証券化されているのは、あまり知られてはいません。

実は、ソフトバンクの割賦(分割払い)債権は、結構な割合が証券化されています。利用する携帯キャリアがソフトバンクだという方は日本全体で25%ほどだそうですが、若者世代ならおそらくもっと比率が高いでしょう。

また、ソフトバンクだけではなく、クレジットカードの支払いや各種の分割払い契約など、いろんなものが証券化されている場合もあるでしょう。

もしかすると、あなたはもう既に証券化されているかもしれません。

そんなふうに考えると、映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の一見自分に縁がないように思える世界も、何となく身近に感じられるのではないでしょうか?

(注: 自分の債務が証券化されても、どうってことはありません。)

≪参考記事≫
■映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を華麗に楽しむための基礎知識 - 初心者編 本田康博
http://sharescafe.net/47982665-20160303.html
■Why American people!? 米アカデミー脚色賞を受賞した注目映画で、アメリカ人が住宅ローンを返せなくなったのは当たり前。 本田康博
http://sharescafe.net/47953593-20160229.html
■スター・ウォーズを特別料金にするのはともかく、日本がそもそもダントツに映画が高い件。 本田康博
http://sharescafe.net/46947203-20151119.html
■不遇の天才チューリングの半生を描いた脚本家が感動のアカデミー賞スピーチで訴えた、日本に一番足りないもの。 本田康博
http://sharescafe.net/43977373-20150326.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 本田康博
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html

■基本用語とキーワード
ここでは、基本用語と映画のキーワードをおさらいします。(但し、各用語を大雑把に理解するのが目的であり、正確な定義とは異なる場合があります。)

<基本用語>
「ショート」と「ロング」
一般的には長さが「短い」と「長い」を意味するが、金融市場では「ショート」が「売り」、「ロング」が「買い」を意味する。(普通に長さを意味する場合もある。)

「債権」と「債務」
契約等に基づいて金銭の支払い等を受ける権利が「債権」。逆に、支払い等を行う義務が「債務」。住宅ローンの場合、借り手は元本と利息を期日どおり支払う「債務」を負っており、貸し手は元本と利息を受け取る「債権」を持つ。「債権」は売買可能。

「債券(Bond, ボンド)」
国や自治体、企業等が資金調達のために発行し、投資家が買う金融商品の一種。国債や社債等。株式との大きな違いは、発行した企業等が元本や利息の返済を期日までに行うことが予め決まっている点。

「モーゲージ(Mortgage)」
元々の意味は「抵当権」だが、住宅ローン(不動産ローン)も意味する。(一般の方には聞きなれない言葉ですが、住宅ローンと同義だと考えれば良いでしょう。)

「証券化(Securitization)」
モーゲージ等から将来回収される資金をスケジュールされた元利金返済に充てる「債券型の金融商品」を組成して、資金調達を行うこと。裏付けとなった資産は元の保有者から切り離され、保全される。(債券以外の金融商品として組成される場合もあります。)

<キーワード>
「MBS(Mortgage Backed Securities, モーゲージ担保証券)」
複数のモーゲージを集め、証券化によって作られる債券。住宅ローンの回収金から、ローンの貸倒れ損失、事務費用等を差し引いた後、MBS投資家への元利金の分配が行われる。

「CDO(Collateralized Debt Obligation, 債務担保証券)」
普通に日本語に訳すと「債務担保証券」となるが、実際には、将来受け取る予定の金融商品(MBS等)の元利金等をもとに、証券化によって作られる「債券型の金融商品」。

「CDS(Credit Default Swap, クレジット・デフォルト・スワップ)」
債券等の金融商品の発行体(企業や国など)や担保資産の状況が悪化する等、事前に決められた理由で損失が発生する場合に、CDSの売り手がCDSの買い手に対し、その損失に見合う金額を支払うことを約束する取引。デリバティブ取引の一種。

本田康博 証券アナリスト・馬主


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