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週刊文春が報じた経営コンサルタント「ショーンK」ことショーン・マクアードル・川上氏(以下川上氏)の学歴・経歴詐称問題については、問題発覚後に様々なメディアで取り上げられ、現在では半ば社会問題化しつつあります。また前回の筆者の投稿も多くの人に読んでいただき、想像を超えた数の反響もいただきました。

そこで今回は、「ショーンK氏問題」の背景に見え隠れする我が国における「学歴評価に関する偏り」について、少々考えてみたいと思います。

■「タレントの高学歴化現象」から垣間見える、日本の大学が抱える課題
筆者は数年前、ある人材育成コンサルタントの方と、大手企業の研修の仕事をご一緒させていただいたことがあります。その方は、企業の研修や公開セミナー等で若手社会人等を対象とした教育の指導を担当される傍ら、大手芸能プロダクションとも契約し、そのプロダクションに所属する高校生のタレントに、大学受験のための勉強を教える家庭教師の仕事もされていました。

その方のお話によると、タレントが著名な大学に入学した場合は一般的に人気も上がり、かつ卒業後には報道番組のキャスターなどのポジションに就ける機会も増えるなど、活躍できる領域が広がるため、今では芸能プロダクションも、所属タレントの学力向上に極めて熱心なのだそうです。

またタレントのご両親が、子供を大学に進学させるよう主張されるケースも多く、ある著名タレントのご両親は、子供を芸能界に入れる条件として、大学に進学させることを所属ダクションに約束させていたそうです。なお余談ですが、その方の教え子の数名は筆者ですら名前を知っているほどの著名タレントであり、彼らはAO入試等を経て大学に入学し、大学卒業後も彼らのキャラクターを生かして、様々な領域で活躍されています。

筆者は、タレントが仕事と学業を両立させて大学で学ぶことは、素晴らしいことだと思いますが、一方で、毎日仕事で忙しい彼らが、本当に著名大学の卒業生に与えられる「学士」にふさわしいだけの学習時間を確保し、しっかりと学習ができていたのかどうか、少々疑問を感じるところもあります。(タレントだけに当てはまることではありませんが。)

日本の大学は海外の大学と比較して、一般的に入試は難しいけれど、総じて卒業は簡単だ、と言われています。著名大学であっても、医学部や理工系学部など一部の例外を除き、一旦入学さえしてしまえば、よほどサボらなければ卒業できる大学のほうが多い、というのが実情だろうと思います。加えて現在では、著名大学でも付属高校の増加やAO入試枠の拡大等により、入学そのもののハードルも下がっています。そうしますと、日本の大学は総じて「入学も簡単だし、卒業も簡単だ。」ということになり、一部の大学は「研究・教育機関」というよりも、一種の「学位授与機関」になってしまっているのではないかと、懸念を抱くこともあります。

ここで思い出されるのは、歌手の宇多田ヒカルさんのケースです。宇多田さんはアメリカンスクールを卒業後、米国の名門大学であるコロンビア大学に入学したものの、しばらくしてから中退されました。報道によると、宇多田さんはアメリカンスクールを飛び級で卒業されたほど、学業成績が優秀な人だったそうです。しかし残念ながら、宇多田さんほどの頭脳明晰な人でも、音楽活動とコロンビア大学での学業との両立は難しかったのだろう、と推察されます。

一般的にコロンビア大学のような名門大学が求める学習量は膨大なものであるため、宇多田さんの立場では、それだけの学習量をこなす時間の確保が物理的に困難だったことが、中退に至った一因になったのではないか、と想像されます。

以上芸能界の事例を用いて、日本と海外の大学の違いについて考察してみましたが、一般的に海外の名門大学での学習はハードなものであり、だからこそコロンビアやハーバードのような名門大学の卒業生は、世界各国で高い評価を得ているのです。

海外名門大学が学生に対して提供する価値は、圧倒的な学習量に裏打ちされた「世界最高レベルの学力の提供」にあると言えます。よって、コロンビアやハーバードなど海外名門大学を卒業した等の「学歴詐称」を軽々に行うことは、決して許される行為ではないといえるのです。

■日本人は「学歴」にこだわりすぎるのか?
川上氏の問題発覚後に、何人かの有識者が「日本人は学歴や経歴を気にしすぎる。」といった趣旨の発言をされています。しかしながら、欧米諸国は一般的に、日本以上に「学歴社会」「職歴重視の社会」でもありますので、必ずしもその指摘は当てはまらないと思います。

一方で筆者は、日本人の多くが人物評価を行う際、「大学時代、何をどの程度学習したのか?成績はどうだったのか?」という点には無頓着なのに、「入試偏差値の高い大学の卒業生なのかどうか?」といったことに強い関心を示す傾向があることに、時々違和感を覚えることがあります。日本では、「入試偏差値の高い大学ほど良い大学だ。」という固定観念が定着しており、それは50年ほど前から殆ど変わっていません。そのことが「学歴詐称」や「学歴ロンダリング」を生む一因になっているようにも感じます。

しかし海外では、入試の難易度だけで大学の評価が為されるなどといったことは、殆どありません。一般的に各大学の評価は、研究成果や学習内容、卒業生の活躍状況などの総合的な見地から為されており、それが世界のスタンダードになっている、といえるでしょう。よって我々日本人も今後大学の評価を行う際は、入試偏差値のみを基準とする考え方から脱却し、多角的、多面的に大学を評価する習慣をもつべきだろう、と思います、

■入学時の偏差値ではなく、「出口偏差値」を評価する社会へ
しかしながら我々日本人は、未だに入試偏差値を基に人物評価を行ってしまう思考回路から、十分に抜け切れていないように感じます。その一例として、先日議員辞職をした宮崎謙介元衆議院議員の例が挙げられます。

宮崎元衆議院議員は早稲田大学を卒業後、ベンチャー企業の経営などに携わった後、自民党の公募に応募し、衆議院議員に当選しました。おそらく宮崎氏が衆議院議員に当選できたのは、「早稲田大学卒」という学歴があったからこそだと思います。一方で、宮崎氏は付属高校の出身であるため、入試を経験せずに早稲田大学に入学しています。

そこで筆者は、宮崎氏が早稲田大学時代どのような学習に打ち込んだのか情報を集めようとしたのですが、それについての報道は、殆ど見当たりませんでした。しかしそのことはメディアの責任ではなく、宮崎氏の大学時代の学習内容等に対する世間の関心が、総じて低かったことが要因だろう、と考えています。

よって、我々が今後宮崎氏のような人物に惑わされないようにするためには、「どこの大学を卒業しているのか?」といった事実確認もさることながら、「大学で何をどの程度学習したのか?また成績はどうだったのか?」といった点にも強い関心をもって、人物を評価していく習慣を醸成する必要があるだろうと考えます。

■川上氏復活のための処方箋
川上氏のケースに話を戻すと、川上氏の学歴詐称が長い間露呈しなかったひとつの原因として、我々が川上氏のハーバードビジネススクール(HBS)を卒業した、という事実だけに注目し、HBS在籍時の学習内容などに大きな関心を示さなかった点が挙げられます。この点を是正していけば、このような問題の再発は防げる可能性が高くなる、と予想されます。

一方川上氏は、あるメディアのインタビューで「ハーバードビジネススクール(HBS)での学習が、体幹のようになっていた。」といった発言をされています。その発言自体は虚偽であったといえますが、川上氏自身は、独学でMBAホルダーにもひけをとらないほどの経営知識を習得されているのは事実のようなので、相当な量の独学が「体幹」になっていると感じているのだろう、とも想像できます。

そこで余計なことかもしれませんが、川上氏が再びビジネス領域での仕事で復活を希望されるのであれば、充電期間中に大学や大学院等で学習し、独学で習得した知識を体系的に整理されることは、極めて有益なことだろうと考えられます。それにより川上氏の「体幹」が、もっと強くなることが期待できるからです。

不祥事を起こした後に大学に入学して復活を果たした例として、東国原前宮崎県知事のケースが挙げられます。東国原氏は不祥事を起こしてメディアから干された後、早稲田大学に入学し、そこで地道に政治学を学習することで、宮崎県知事として復活を果たされました。

川上氏は、東国原氏に勝るとも劣らない能力の持ち主だと思います。また多くの人が、川上氏の仕事に対する姿勢を高く評価しています。よって時間はかかるかもしれませんが、今回の件について十分に省察し、充電期間を有益に過ごされることで、いつの日か見事な復活を果たされることを願っています。

【参考記事】
■「ショーンK氏問題」から考える、コンサルタントの学歴詐称
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-27.html
■中年世代になったら考える「キャリアのリスクマネジメント」
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-24.html
■世界最低レベルの「社会人の学び直し」比率
http://sharescafe.net/46989472-20151124.html
■「一億総活躍社会」実現のための「中高年転職市場」
http://sharescafe.net/46590587-20151016.html
■「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉
http://sharescafe.net/45941690-20150816.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 


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