649955

「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名ブログが、国会でも取り上げられ、その後ブログの賛同者が厚労相に対し署名を手渡すまでに至った。小さな意思表示が日本中に伝わり、それが国会にまで届く速度は、SNSの普及によって飛躍的に高まったと言えるだろう。

この件については、私の周りの働く女性達からも、様々な声を聞く。日本が子育てしながら働く女性に対していかに酷薄であるか、また出産後に社会復帰して活躍したい女性の負担がいかに大きいか、共感の輪が広がっている。

保育園の整備など、国や地方自治体が取り組むべき問題は多く、そこに関する議論は数多く目にするが、反面、この手の問題に対しては、働く場を提供する側である企業の、ひいては経営者が沈黙しがちだ。

なぜか。

経営者がこの手の問題にうかつに発言すると、どうしても雇用「する側」「される側」という視点で受け取られがちであるからだ。そうでなくても労務問題はデリケートで、経営者にとっては扱いづらい。中小零細企業の経営者には、営業や技術に長けた者は多いが、労務畑の専門家は極めて少ないことも影響しているだろう。

しかし今回、地方で零細企業を経営する一人として、また地方で起業支援に取り組んできた者として、誤解を恐れずに少々もの申してみたい。

なお、日本の企業総数の99%は中小零細企業であり、日本の人口の90%は東京以外の地方に住んでいる。私の「地方で小さな会社を経営している」という立場は、経営者としては数値的にも多数派であることも申し添えておきたい。

■企業にとって子育て女性を受け入れる態勢とは
先のブログ炎上から飛び火して、女性が活躍するためには「企業がもっと女性活用に積極的にならないと問題は解決しない」という見方が強まっているように思う。しかし経営側にとって出産前後の女性の雇用問題は、極めて多面的な問題をはらんでおり、安易に取り組みづらいのも事実だ。

さて、女性が妊娠・出産したからといって、言うまでもなくその業務能力までが低下するわけではない。まして、これまで何らかの重要なポジションにいた女性であれば、経営側も仕事を辞めないで頂きたいし、出産後は戻ってきて欲しいと考えるのが普通だ。

私の経営するいくつかの会社でも、女性社員が妊娠した場合には、本人が望む限り、産休・育休を取得している。その女性社員が携わる業務の内容に関わらず、である。そして、育休後の女性が職場復帰する時機は、まさに今回のブログ問題と同様に、「子供を預けられる保育園が確保できた」その時である。

さてその場合に、中小零細企業において問題になるのは、産休・育休中の女性が休んでいる間の業務をどうするか(具体的には誰がやるか)、という点だ。あるいは職場に復帰した後も、時短勤務中に不足する業務の配分をどうするかという点も問題になる。中小零細企業の経営者が腐心するのは、まさにそこであり、産休・育休を取得する女性と、会社・経営者との間の溝は、決して深くない。

会社全体の業務に対して、一人の女性社員が担う業務の割合は、会社の小ささに反比例して大きくなる。しかし育休後の復帰を考えると、産休・育休中の安易な人員補充は、人件費が過大になる可能性があるため、実施に踏み切れない。いきおい、現状のスタッフで乗り切るしかないのだ。

そして大抵の場合、女性が抜けた穴は女性が埋めざるを得ないことが多い。私の実感として、会社が小さいほど、そして地方になるほど、男女間で仕事の役割がより区分けされることが多いからだ。

誰かが産休や育休をとって、さらにその後の復帰を望んだ場合、経営者だけが子育て女性の活用に理解があれば良いというわけではない。最も理解を求めなければならないのは、それをフォローする他の女性社員たちなのだ。

経営者がそこを軽視すれば、配慮は贔屓に感じられ、権利行使が他の社員の不公平感をあおる事になりかねない。小さな会社の経営でもっとも注意すべき点の一つは、”不公平であると社員に感じさせない”ことだと言っていい。

■中小企業の産休・育休は周囲の女性の理解によってのみ成り立つ
幸いにも私の会社では、女性社員同士がフォローし合って、何人かの産休~育休~復帰のプロセスを順調にこなしており、今のところ問題は起きていない。これは決して自画自賛ではなく、経営側の仕掛けよりも、むしろ社員間の理解と思いやりに負う面が大きい。つまり今のところ問題がないからといって、それが今後の円滑な運営を約束するものではないのだ。

子育てと仕事を両立させようという女性は、社会全体の取り組みとして大切にしなければならないが、だからといって仕事に専念する他の女性に過度な負担増を強いて是とするわけではないし、企業側もそれをカバーするために労務費を増大させれば、経営そのものが揺らぐ。大抵の経営者は女性を活用したいと考えているが、小さな会社においては経営者の方針だけでは実現できないこともある。

産休・育休を対象にしたスポットの助成金程度で解消する問題でもない。ましてや地方自治体が取り組む女性活用に関わる表彰やアンケート(当社にもよく送られてくる)など、気休めにもならない。それらは毎日が戦場の中小零細企業経営者にとっては、余計な手間を強いるばかりで、むしろ迷惑だ。

「匿名だから」と切り捨てようとする国会に、子育て女性への支援に充分な配慮が行われると期待することはまだまだ難しいだろう。

【参考記事】
■なぜ上戸彩さんは叩かれても産後3ヶ月で復帰するのか?
http://sharescafe.net/46970046-20151121.html
■「賃金は1分単位で支払う」というサンクスの労働協約に対する違和感
http://sharescafe.net/48110476-20160317.html
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?
http://sharescafe.net/44507403-20150429.html
■「残業代ゼロ法案」は正しい。
http://sharescafe.net/44298878-20150416.html
■退職時に有給消化をする従業員は「身勝手」なのか?
http://sharescafe.net/40070575-20140728.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社店舗応援団 代表取締役

この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加




関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。




執筆者プロフィール