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国連「持続可能な開発ソリューションズ・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network)」は今月16日、『世界幸福度レポート2016年版(World Happiness Report 2016)』を発表しました。

3/17付CNN.co.jp記事『国連の幸福度報告書、トップはデンマーク 日本53位』では、以下のように報じています。
幸福度が高い国としてはデンマークが1位で、昨年トップだったスイスは2位に下がった。
4年前から発表されている同報告書で、デンマークがトップに立つのは3回目。16年版の3位以下にはアイスランド、ノルウェー、フィンランドが続いている。
6~10位はカナダ、オランダ、ニュージーランド、オーストラリア、スウェーデンだった。
経済大国の中では米国が13位、ドイツが16位に入ったが、英国は23位にとどまり、日本は53位、ロシアは56位、中国は83位と振るわなかった。
日本人の幸福度が他の国の人たちと比べて低くなりがちだというのは、これまでも様々な調査で指摘されてきた点です。このニュースもいくつかのメディアで報じられましたが、調査内容を良く把握せずに調査結果だけを大きく取り上げてしまった例も見受けられました。これは、あまり褒められたことではないでしょう。

■幸福度って何?
国連版「幸福度」調査の内容については、例えば、3/18付WIRED.jp記事『デンマーク「世界で最も幸福な国」に:国連の幸福度ランキング』で、
2016年版の「世界幸福度ランキング」が発表された。報告者によると、総合的な幸福度には、経済的状況のほか、「幸福度の平等さ」や「社会的支援」などが反映されているという。
と説明されているように、「経済状況」、「幸福度の平等さ」、「社会的支援」等の複数のパラメーターから算出されていると思っている人は、少なくないのではないでしょうか?

しかし、実はそうした理解は、まったくの勘違いと言ってよいでしょう。

国連版「幸福度」は、「キャントリルの梯子の質問(the Cantril ladder question)」によって回答者の「主観的幸福度(subjective happiness)」を測定し、国ごとにその平均を算出したものです。また、「キャントリルの梯子の質問」は、「ありうる最悪の人生」を梯子の0段目、「ありうる最高の人生」を梯子の10段目としたときに、「現在」自分が何段目にいるのかを回答してもらうための質問なのです。

国連版「幸福度」が複数のパラメーターから算出されているものと勘違いしてしまう人が多いのは、報告書の中で、(1)経済水準(一人当たりGDP)、(2)社会的支援、(3)健康寿命、(4)人生選択の自由、(5)寛容さ、(6)腐敗認知度の6つのパラメーターを説明変数として回帰分析を行っているためでしょう。

6つのパラメーターから「幸福度」を算出したのではなく、アンケート結果から各国の「幸福度」を算出した上で、6つのパラメーターを説明変数として用いた数式によって、その「幸福度」をどうにか推計しようとしたわけです。

また、報告書では、「キャントリルの梯子の質問」に対する回答の標準偏差を「幸福度の平等さ」と定義し、比較しています。標準偏差は、データの散らばりを表す統計指標です。

■幸福度と推計値の違い
下図は、アンケート調査の結果である「幸福度」と、「幸福度」のデータを回帰分析することで得られた6つのパラメーターによる推計値を比較したものです。斜め線の上側に位置する国は推計値よりも実際の値が低く出ている国で、逆に下側に位置する国は推計値よりも実際の幸福度が高く出ている国になります。
幸福度vs推計値
乖離幅が大きければ大きいほど、回帰分析で得られた6つのパラメーターによる数式では説明しきれない「要因」が大きいことを意味しています。中国本土への同化が不安の香港や深刻な紛争が進行中のシリア等は、分かりやすい例と言えるでしょう。

日本は、アンケート結果から得られた「幸福度」が推計値よりも低く出ているグループの一員ですので、「幸福度」では全体の53位と低迷しましたが、推計値で比較すると23位になります。これは、「経済水準(一人当たりGDP)」だけで比較した場合の26位よりも良い結果です。全体の3位と健闘した「健康寿命」によるところも大きいのでしょう。「寛容さ」は137位と残念な結果となりましたが、他のパラメーターと比べて寄与度は低かったと考えられます。

<<パラメーター別順位>>
 幸福度       53位
 推計値       23位
(1) 経済水準      26位
(2) 社会的支援     23位
(3) 健康寿命      3位
(4) 人生選択の自由   45位
(5) 寛容さ       137位
(6) 腐敗認知度     32位

推計値は、紛争中の国等を除けば、グローバルで見た場合の客観的な「幸福度」を表していると言えるのですが、日本人は客観的な「幸福度」のわりに主観的な「幸福度」を低く回答するという傾向があります。これは、要因の一つとしてですが、日本人が悲観的すぎて、本当は身近にある当たり前の幸せを感じ難くなっている可能性が挙げられます。

しかし、おそらくそれ以上に日本人の「幸福度」を押し下げている要因は、以前『国際世論調査で際立つ、日本らしさ』と題した記事で書かせていただいたように、日本人の「はっきりした意見を言えない(言わない)」気風ではないでしょうか。

「わからない度」と「決められない度」で総合一位の日本は、「まぁまぁ」くらいの回答が断然多くなることから、アンケート調査結果として記録される表向きの「幸福度」は、どうしても実態よりも低くなってしまうのだろうと思うのです。

以下の記事もぜひ参考にしてください。

<<参考記事>>
■国際世論調査で際立つ、日本らしさ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47446398-20160107.html
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48046767-20160310.html
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■軽減税率で一番損なのは誰か、分かりやすく解説してみました。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47171441-20151211.html
■【日米比較】お金持ちは本当にケチなのか? (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47093094-20151204.html

本田康博 証券アナリスト・馬主


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