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いよいよ、日本の長時間労働に本格的にメスが入りそうな兆候が出てきました。差し迫った4月1日からの女性活躍推進法施行に加え、先日24日の日経新聞朝刊には、月80時間を超える時間外労働を取り締まる規制強化、市場では転職35歳の壁崩壊、という記事が掲載。その翌日25日には、安倍首相が一億総活躍国民会議で長時間労働の是正の具体案の検討を指示しています。

■長時間労働を続ける余裕がもはや私たちには残されていないという現実。
女性活躍推進について企業で研修をさせていただく際、特に男性が多くを占める管理職の方向けにお話しをするときには、「女性向けの話でしょ?」という若干冷めた反応もしばしばです。ただし、次の話をすると、皆さんの姿勢がぐっと変わることを実感します。

前回2010年の国勢調査では、男性未婚率が35~39歳で35.6%。ここまでの上昇傾向からいって今回の統計では4割前後に達することも予測されます。すでに前回調査からは6年たっており、今から5年後には45歳を超えてくるわけです。親の年齢を考えれば、人によっては介護を視野にいれなくてはならない年齢に入り始めます。

今までなら、介護は育児同様「妻に任せる」ことが主流だったのですが、それができなくなる男性が職場で多くなってくることは目に見えています。平成24年の就業構造基本調査によれば、働いている人で介護をしている人は年齢階級別でみると「55~59歳」が男女ともにピークです。要職についている人たちが今までのような働き方では介護と仕事を両立できず、職場を離れていかなくてはなりません。現在、年間介護離職は約10万人いるとも言われているのです。

ある日突然、自分の上司が、あるいは、会社の役職者が
「ごめん、今日、母のデイサービスのお迎えあるから、5時で上がるわ」
ということもまったく不思議ではない光景になります。

介護は実際に体験したこともありますが、子育てと同じかそれ以上の体力をつかいますし、元気だった家族が、自分の想いとは裏腹にいろいろ思うようにいかずに悲しそうな顔をしているのを見るのは、本当につらいものです。徘徊などがあれば、ケガ・生命の危険も考えながら日中働き続けなくてはなりません。子どもは成長していきますが、介護はいつまで続くかが見えないのも大きく違うところです。いまだ管理職の約9割を占める男性の中には、それまでのような長時間労働ができなくなることから、昇進が遅れるのでは、という思いが原因で仕事でのモチベーションを失う方もいます。

働き方を変えるのは、女性活躍のため、だけではありません。今、育児で時間制約を受ける当事者である女性の働き方を変えることで、企業全体が働き方を変えなければ、経営の中枢でぽろぽろと仕事をやめなくてはならない人が出てきてしまいます。

■でも、介護休業取得率は3.2%しかない。
女性活躍推進の研修では、育児休業の制度があってもなかなかとりづらいという声が未だに聞こえてきます。介護の場合にはさらにとりにくいのが現状です。雇用者における介護休業の取得率はわずか3.2%(総務省統計局「平成24年就業構造基本調査」)しかありません。いまだに増えない男性の育休取得率と大差ない状態であり、「とりづらい」人が多いのです。

法律で認められた介護休業は家族一人につき、一の要介護状態につき通算93日まで。この休業はあくまでも「介護しながら働く体制を整える準備期間」という趣旨なのです。会社の福利厚生制度でこれ以上の休みが整備されていても、その趣旨を理解していない人からの「休めていいよね」という視線、理解があったとしても仕事の負担をまわりにかけること、さらには自分の評価が下がることなどを恐れて、「休業はとりづらい、あってもとれない」と思う人たちが少なくありません。制度整備だけでは、働き手は不安を抱えたままで、かといって、介護する家族を抱えたままで今までのような長時間労働はできず、結果、離職するということになってしまうのです。

■長時間働かなくても評価される、時間以外での評価軸をいかにつくるか。
こうした不安を解消し、介護離職や育児による退職を防ぐには、短時間で成果をあげている、ということを客観的に評価することが必要です。労働時間は誰から見てもわかりやすい評価基準ですが、保育園やデイサービスのお迎えにいくために必死で16時までに仕事を仕上げる、ということをする人が増えてくる状況では、かえって不公平感が募ってきます。

公益財団法人日本生産性本部の「日本の生産性の動向2015年版」によれば、日本はOECD加盟諸国34か国のうち、労働生産性(GDPを就業者数でわったもの)は21位。就業時間1時間当たり労働生産性は41.3ドルで同じく21位ですが、1位のルクセンブルグが92.7ドルですから、半分に満たない数値になっています。

先進7か国の中でも最も低いこの労働生産性を上げていくには、少ない時間で生産性を高める人をきちんと評価することは必須になります。もちろん時間をかけなくてはいけない業務もありますので一律ではありませんし、以下のような要素を最低限考えた上で、さらに詳細をつめていくことになります。

(1)売上やお客様へのアプローチ回数、かかったコストのように定量的につかめる数値の評価、設定した目標を達成できたかどうかや勤務態度といった定性的につかめる評価双方の指標を複数決める
(2)定期的に、指標ごとの達成度合いを5段階評価等でチェックする
(3)複数の人数(本人、上司、部下あるいは後輩)の目で評価をする
(4)評価について上司からのフィードバックと成長のための面談を実施する
(5)給与、休暇、仕事内容等、上記評価をどの要素にどのように反映させるかを決める

■休業中の仕事フォローもきちんと評価に組み込もう
休業中の人の仕事を「フォローした人」がきちんと評価されることも大切です。お互い忙しい中で、フォローしあっていることをきちんと会社が評価してくれている、と思えばより一層モチベーションが上がるものです。また、普段から仕事全体の量が適正かどうかのチェックも必要です。少ない人数で仕事をやりくりするのですから、「顧客からの頼みだから」ということでしている仕事も、「絶対、“今”やらなくてはいけないのか」、「この部署ですべきものなのか」というふうに、仕事を上司が「さばく」ことも必要になってきます。

やり方は企業ごと、あるいは部署ごとに異なると思いますが、中小企業で生産性を上げている組織もあります。せっかく長い時間かけて育成した魅力ある人材が、「周りの理解があったら・・・」という理由で辞めてしまうのは、企業にとっても大きな痛手です。今から、長時間働かずに生産性を上げる評価基準と仕事の仕組みを準備しておく必要がどの企業にもあるのです。

《参考記事》
■新しい働き方で、企業と個人双方がつけなければいけない力。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45172807-20150614.html
■2015年は長時間労働崩壊元年に (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42734491-20150104.html
■結局、「女性活用」って何すればいいの?(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206

小紫恵美子 株式会社チャレンジ&グロー代表取締役 中小企業診断士


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