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先日、相次いで百貨店閉鎖のニュースが飛び交った。20代や30代の人が聞けば変に思うかもしれないが、筆者のような40代以上の人間にとって一昔前まで百貨店は特別な存在だった。百貨店に行くこと自体がステータスだった。百貨店の紙袋を持っている。それだけである種の優越感を感じることができた。しかし、今や百貨店にそんなブランド力は微塵もない。スーパーやコンビニと垣根がなくなり、一部高級品を取り扱うことや店舗面積の大きさ以外、明確な違いがわからなくなった。どうして、このようなことになってしまったのだろうか。

■百貨店の現状
百貨店市場のピークは1991年。当時の売上は9兆7,000億円。この25年間で3兆円以上失ない、国内の小売業全体の規模は約140兆円に対して7%近くあったシェアを4.2%にまで落とした。直近の5年間でも6兆1,525億円から、約1,600億円縮小し、低空飛行を続けている。

なぜ、ここまで落ち込んだのか。それは百貨店の数字を分解すると見えてくる。百貨店はその名の通り、食料品、衣料品、雑貨、化粧品、家具、家電、宝飾品とほぼすべてのカテゴリーを扱う。経済産業省の商業販売統計によると、この5年間で最大の落ち込みを見せたのは衣料品だ。2兆1,261億円から2兆170億円と1,000億円以上減っている。特に婦人服が著しい。1兆3,836億円から1兆2,980億円と約1,100億円も落としている。

他のカテゴリーはどうか。食料品や雑貨などは横ばいを続け、化粧品は3,230億円から4,015億円、宝飾・貴金属類は2,696億円から3,588億円と増加し一矢を報いているが、全体の底上げにつながるほどではない。婦人服、家電や家具など専門店が台頭しているカテゴリーでは数字面からその厳しい状況が鮮明に伝わってくる。

百貨店の手からこぼれ落ちた売上はどこへ流れたのだろうか。それは他の小売業態と比べると一目瞭然だ。下記の図のとおり、多くの専門店が出店するショッピングセンター、コンビニ、そしてアマゾンをはじめとするECサイトが取り込み、なおも拡大を続けている。グラフには表記していないが、中でもアマゾンが群を抜く。この5年間の売上は、5,247億円から約1兆円へとほぼ倍に伸びている。(米Amazon SEC FilingよりJapanを抜粋。為替レートはそれぞれの年平均を使用)
業態別売上推移

(出典:日本チェーンストア協会、日本百貨店協会、経済産業省)

■なぜ、こんなことになったのか
原因として考えられるのは4つ。人口構成における年齢層の遷移、スマホの出現、家計支出、そしてそれらの変化に対して百貨店のビジネスモデルが合わなくなったことだ。

総務省統計局人口推計によると、人口は2011年1億2,778万人から2015年1億2,710万人へと約68万人(0.5%)減少した。それ以上に大きく変化したのは年齢層だ。2011年では15〜64歳が63.8%(8,100万人)、65歳以上は23%(2,900万人)だったのに対して、2015年では15〜64歳が60.6%(7,700万人)、65歳以上が26.7%(3,390万人)となった。いわゆる労働人口が400万人減り、65歳以上がそのまま400万人増えた格好だ。京王百貨店などがシニア層へ大きくシフトしている理由がよくわかる。

そしてスマホの出現。総務省情報通信白書(平成27年度版)によると、スマホの普及は2011年から始まっている(この時点での普及率は9.7%)。この5年間で64.7%まで拡大し、60歳未満に限ると86.4%、20、30代は90%を超えている。スマホを持つことが当たり前となった結果、先ほど述べたとおり、アマゾンなどのECサイト拡大へとつながっている。消費者のライフスタイルが大きく変化した5年間だ。

消費者は消費行動を変えたが、支出を増やしたわけではない。2011年から2015年での総世帯の平均消費支出は、25万円前後から大きく変動していない。平均世帯収入が増えない中、税金や社会保険料などの非消費支出が年々増加しているため、結果可処分所得が減り、財布の紐を強く締めざるを得ない状況が依然続いている。
消費支出

(出典:総務省統計局 家計調査報告)

こうした変化に対して、百貨店のビジネスモデルはさほど変わっていない。ブランドなどに売り場を貸すだす家賃収入、一定期間を過ぎると返品可能な委託販売、売上が立つまで仕入れを計上しない消化仕入などだ。一見多様な方法に見えるが、いずれもリスクを取らない点で共通しており、リスクが少ない分、利幅は少ない。

目立った戦略と言えば、近年の店舗改装だろう。関西圏では阪急百貨店を筆頭に、こぞって大掛かりな店舗改装を行った。これは今も続いている。先日新宿でオープンしたルミネの「NEWOMAN」などが象徴的だ。残念ながら、さきほどの変化に適合した施策とは言いがたい。「顧客は百貨店に来てくれるもの」という高いブランド力を誇った頃とスタンスが変わっていないからだ。

■百貨店が持つ「強み」とズレ
百貨店が持つ強みとは何なのか。残り少ない都市部における駅前などの好条件の立地と広い営業面積、100年にわたる長い歴史に裏打ちされた信頼性と多くの取引先、そして「リアル」であることだ。

しかし、こうした強みを持ちながら、店舗改装が象徴するように消費者のライフスタイルとの間には大きなズレがある。それは情報の鮮度と多様性だ。これだけ情報が飛び交う中、消費者はより鮮度の高い情報を求める。それはネットにかぎらずリアルでも同じだ。一度の店舗改装ぐらいでは早晩飽きられる。コンビニの棚のように入れ替わる莫大なテナントと、一日中遊べるアミューズメント施設も兼ね備えたSCに勝てるはずもない。スマホ経由で膨大な情報に触れるECサイトとは比べるまでもない。そうした消費者心理に対して、「店舗に来てくれ」というのはどう考えても通用しない。

だからと言って、インターネットの世界で足場を広げようとするのは得策ではない。セブン-イレブンがオムニチャンネルで苦戦しているように、リアルでいくら強くても、ネットにはアマゾンや楽天といった競合が多くを占拠しているからだ。わざわざ強みを捨て、敵がはびこる場所で戦いを挑む必要はない。

むしろ、情報過多を背景に「リアル回帰」の傾向がある今、さらにリアルに力を入れるべきなのだ。リアルの魅力は、ECサイトの雄、アマゾンもよく知っている。だからこそ、今、現物の店舗を展開しようとしている。百貨店は本来の強みを捨てずに、戦いの方法を探るべきなのだ。

■ラスト・ワンマイルを奪いにいけ!
では、具体的にリアルでどう戦えばいいのか。そのカギは「ラスト・ワンマイル」だ。通信用語の一つで、通信事業者の最寄の加入者局からユーザの建物までのネットワーク接続の手段のことをいい、インターネット接続の最終行程を指すのが一般的だ。

小売の世界に置き換えると、「消費者との接点」になる。多くの消費者が日々の生活の中で接するのは、家の近くのコンビニ、エキナカ、通勤や通学途中にスマホで見るECサイトだ。これらが今、ラスト・ワンマイルを牛耳っている。

一方の百貨店は、生活圏内の中にあるものの、建物が大きく、目的のフロアまで結構な時間がかかるなど、ひと手間を要してしまうことが仇になっている。食品売場の賑わいとそれ以外の階で人の流れに大きな差があることからも明らかだ。1階で顧客を集め、上のフロアへと導くいわゆる「噴水効果」が機能不全に陥っており、顧客のラスト・ワンマイルでは出遅れている。

こうした状況で百貨店が取るべき戦略は、旧態依然の「待ち」ではなく、顧客がいる場所に打って出て、このラスト・ワンマイルを奪い返しに行くことだ。

すでに、百貨店業界TOPの三越伊勢丹はその動きに出ている。羽田空港内に3店舗ある「イセタンハネダストア」をはじめ、15年4月には六本木にレディースの「イセタンサローネ」、12月には東京・丸の内に「イセタンサローネ メンズ」をオープン。食品や雑貨を扱う「エムアイプラザ」は140店舗、化粧品を扱う「イセタンミラー」は20店舗などの中小型店の展開で18年度には180店600億円規模まで拡大する計画を打ち出している。

とはいえ、資本力の厳しい地方の百貨店が伊勢丹と同じ戦略は取れない。そこで提言したいのは、ミニショップではなく「カフェ」だ。地域で消費者がいるエリアにカフェを開き、ラスト・ワンマイルを取り返しに行くのだ。

狙いは一つだ。その地域の集会場のような役割を果たし、顧客との接点を増やすことだ。もちろん、カフェ自体で採算が取れるように設計しておくことは言うまでもない。できるだけ提供メニューを絞りこみ、簡易的なオペレーションによって低コストで進める。あくまで目的は「顧客との接点の増加」だ。カフェでの滞留を通して、親近感を向上させ、店舗への利用へとつなげていく。

カフェが正解とは限らない。しかし、このまま旧来の方式でいけば、爆買いが収束する頃、さらに窮地に追い込まれるのは必定だ。顧客との接点を増やすことが急務なのは明らかだ。何らかの形で可能な範囲でリスクを取り、顧客の前に出ていくことを願ってやまない。


【参考記事】
■【【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html
■ネットフリックスに見るビジネスの視点(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47055631-20151129.html
■モノを売らずに、「センス」を売る新しいビジネスとは(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/44389389-20150422.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表


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