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サッカー日本代表ハリルジャパンが、W杯アジア2次予選を1位通過と、ここまでは快走だ。

ところで以前に、サッカー界の二人のカリスマ、三浦知良さんと中田英寿さんが対談で話されていた言葉が強く記憶に残っている。

「“走るのが速い”とか“シュートが強い”とかじゃなく、”サッカーが上手い”人になりたい」

いちサッカーファンとしての見方に過ぎないが、若い頃の三浦選手はドリブラーとしての色合いが強かったし、中田選手も代表初期においてはバイプレイヤーの位置づけだったが、お二人とも円熟期には、攻撃を組み立て、必要とあればシュートを打ち、守りの意識も高い、ポジションは異なるもののゲームを創ることができる「サッカーがうまい」中心選手として活躍した。

■中小企業で、特に零細企業において望まれる人材にも実は同様のことが言える
もちろんどんな事業であっても、営業・製造・経理・サービス・などの様々なパーツから成り立っており、それらのセクションごとに専門担当者がいるだろう。専門担当者には当然だが専門性が要求されるわけで、その分野に関しては自分が会社内でナンバーワンなのだという自負があっていい。

だが、分業化しやすい大企業と異なり、小さな会社では業務が複数のセクションにまたがらざるを得ないことが多い。

例えば飲食店の場合でいえば、席数に正比例してより細かな分業化を進めることが可能だ。スタッフ数名だけで回している小料理屋などは、店主自らがカウンター内で料理をしながら接客し、注文をとり、会計も行っている。それに対して数百名を収容する宴会場などでは、キッチンとホールは完全な分業制になるだろうし、その中で更にキッチン内でのポジションは細分化される。

あるいは建築会社の場合でも、一人親方と社員数名で住宅を建築する工務店の場合には、営業から設計、そして現場監督から集金まで親方がこなすことになるが、大手ハウスメーカーであれば、営業と設計と施工管理は完全な分業制を敷いているのが普通だろう。

芸術や特殊技術を提供する一部の例外(下町ロケット的な)を除き、小さな会社に際立った専門性が求められる機会は少ない。というよりも、自社の専門性が際立っていると勘違いして驕り、経営努力を怠るようだと、衰退していくことは避けられない。

そしてそれは企業だけではなく、自らの専門性が高いと思っている個人も同様に、小さな会社の中では伸びてゆきにくい。

料理がとても上手いが、お客様意識が低い板前。
トップクラスの営業成績を挙げるが、トラブルが多い営業。
技術は素晴らしいが、人間関係を軽視する職人。
業務の処理は早くて正確だが、笑顔のない事務職員。

そういった仕事をする専門職は、少人数で事業を回す小さな会社では、戦力化しづらい。

■実は専門性を高める上でも必要な視点

また、専門分野にのみ重心をおく仕事が、企業や顧客に求められる専門性を高めるかというと、残念ながらある地点からなかなか伸びてこなかったりする。現在習得した技術を、経験で劣る他者とのみ比較して、優位に勘違いしてしまいがちだ。

むしろ、専門性に固執せず、別のセクションを理解しようと努め、他者に敬意を払う人材の方が、自分の専門分野においてもより高度な地点までたどり着くことが多い。

これには、先に述べたように、分業化を進められない中小零細企業の事情が大きく関係する。(なお誤解を避けるために申し上げると、大企業であれば自己中心的な人間でも許される、などと言うつもりは毛頭ない。)

小さな会社においては、もともと業務に投入出来る人数が少ない。そのため、一人の業務範囲は複数のセクションにまたがらざるを得ない。自らの専門性が高いと勘違いして、他のセクションとの協調性に欠けたり、顧客意識が薄い社員は、実はやらなければならない業務の一部を怠っているといえる。

しかも小さな会社において、複数のセクションにまたがらなくていい”純”専門的な業務は実はそれほど多くない。大企業であれば、限定された範囲でのみ高い能力を発揮するタイプの人材を活かせる道もあるだろうが、小さな会社にそれはない。

小さな会社で必要とされる専門技術は、100人に1人の確率で存在するレベルのものは少ない。しかし先に述べたように、専門性を持ちながらも別のセクションを理解し敬意を払う人材となると、これは誰もがたどりつけるわけではなく、残念ながらその割合はかなり低い。

■「仕事がうまい」人材
料理人としても一流だが、新人より大きな声で挨拶をする親方。
会社を支えるほどの営業成績を挙げながらも、アフターサービスにも気を配るトップセールス。
誰からも尊敬される技術を持ちながら、周囲を気遣える技術者。
早くて正確な業務処理の上、謙虚で明るい事務スタッフ。

若い方たちにとって、際立ったスペシャリストになることは一見かっこよく感じるかもしれないが、小さな会社においては走るのが速いだけとか、シュートが強いだけの人材でなく、「サッカーがうまい」人材が望まれている。

たとえ小さな会社においても、周りを見回せばきっと、自分より遥かに優れた技能を持ちながらも謙虚に「仕事がうまく」なろうとしている、見習うべき管理職が見つけられるはずだ。

【参考記事】
■地方の中小企業経営者が現場から見た「女性活躍」のリアル (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48171281-20160323.html
■退職時に有給消化をする従業員は「身勝手」なのか? (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/40070575-20140728.html
■「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~ (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/42556186-20141224.html
■新社会人に贈る 高橋みなみから学ぶ転機に為すべきこと (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/48231632-20160331.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社店舗応援団 代表取締役

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