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■リストラの「リストアップ」は以前からあった
前回、大手企業の「リストアップ方式」による退職勧奨の問題点について書きました(「道義なきリストラは最大のパワハラだ」)。内容は法的な問題というよりは、経営権利者の道徳性を問うものでした。今回は、一部の中小オーナー会社に見られるリストラする側の構造と、それに対する心的対策について書いてみたいと思います。

「リストアップ方式」に似たやり方は、今始まったというわけではなく、中小の会社にあっては珍しくない構造的なものであったと思われます。筆者が一時期いた会社では、「誰か切る(クビにする)奴はいないか」というのが毎回の役員会の議題だと聞かされていましたし、「あいつは駄目です」とリストアップされた者は、次の週から会社に姿を見せなくなっていました。嘘のような話ですが、筆者もじつは、その役員会の「議題」に名が上がって会社を去ったのです。この会社が特別では、と言われるかもしれませんが、最近まで知人たちの身近にも起きていたものです。

こういった問題ある中小オーナー会社では、何の根拠もなく「君は著しく能力が劣る」「ほかの部署で役立てる場所がない」という能力評価から始まって、「人間として欠陥がある」という人格評価まで持ち出し、結局「いてもらっては困るんだ」などと恫喝っぽい言葉や「君には大変だと思うが」という同情節で退職に追いやられるのです。本人に弁明が許されるならば、いくばくかの誤解も解けることもあるのですが、「これは、社長の決断です」と宣告されると、もはや覆らない事実となっていることを悟るわけです。

■トップに対する判断は無用である
どうして、こういうことが起こるのか。これはオーナーをトップにした集団では、良い面でも悪い面でも、すべてオーナーの意に沿わないと、組織自体が成り立たなくなるからです。ある人数までの組織では、同じ色、同じ形、同じ趣向、同じ考え、つまりすべてが同一でなければ、分裂、崩壊してしまう恐れがあるのです。トップが恐れるのは唯一、そのことです。

ここでは社員が優秀であるかどうかは、トップの考えをいかに早く捉え、どんな手段を使ってでも実行できるかにかかっています。経営方針が正しいかどうか、倫理に適っているかなどの判断を社員が行うことは必要とされません。そこに判断を入れ、意見がありそうな素振りを見せる者は優秀でない社員、無能な社員、いずれ会社を去るべき社員となります。そのような者には、微妙な「匂い」が漂います。それは、すぐに周りや上の者に嗅ぎ付けられ、トップに伝わるのにそれほど時間はかかりません。その異臭を放った者は、以前から自分でも自らの存在を異分子と感じ始め、孤立に陥っているはずです。そのうちに、彼には無理難題が押し付けられ、やがて罵倒を浴び、不条理で理不尽な扱いが待っています。こうした日々が続くと、気力は萎え、適応障害に似た症状も現れてくるのです。

■最終的には法的手段があるが・・・
やがて出社が苦痛になり、会社の前まで来ても遠回りをしたり朝の喫茶店でひと息入れないと、心の安定を保てなくなります。こういう状況に追いやられた者は、ある日呼び出されて、「お前はいらない」と言われると、ショックではあるが抗弁する気力さえ残っておらず、これでやっと辞めさせてもらえると、かえって解放された気になるのです。このような心理状況ですから、実質は不当解雇なのに、悪いのは自分だと自らを責め、「退職願い」を書くように促されると、言いなりに「自主退職」の届を出すことになります。

こういう会社に対しては、どのみち解雇の決定は覆らないと腹をくくり、先方から解雇を持ち出してくれたことを逆にチャンスと捉え、いかに有利に退職条件や金銭補償を引き出すかを考えることが大事です。自分はあくまで正当であると主張して会社に居残ることを考えたりすると、交渉における時間と労力、機会的コストを無駄に費やすことになり、心的ストレスも重なって、そのうち本当の自主退職になりかねません。

この場合、最終的には個人でも労働問題にあたってくれるユニオンや、不当解雇による和解金とかパワハラにおける賠償金・慰謝料、さらには未払い残業代請求などの交渉をしてくれる弁護士等に依頼する方法があります。これらは法的手段に訴えるもので、確実に有効な方法となります。ただ本稿では、そのような最終的手段を使うことを前提としつつ、そこに至るまでの「リストラ候補者」の心的対策を考えてみます。

■「リストラ候補者」の4つの心的対策
まず1つ目に、不当な解雇という身の危険に気づき始めた時から、気持ちを毅然と保つことです。臆病にしている者ほど、犬によく吠えられると言います。気持ちを強く持って堂々としていればリストラは避けられるとは言いませんが、法的手段をちらつかせるだけで、相手の言葉つきや態度に手心が加わったり、退職手当や未消化の有給休暇取得を勝ち取れることもあります。気落ちして、先方の手の内に陥ることは避けたいものです。

2つ目に、自分に対する不当・不条理・理不尽と思われる事柄はすべて正確にメモしておくことです。日時、場所、自分に関わった役職員の名前、どういう事案があったかを客観的かつ克明に記録しておきます。手書きと同時に、公表用としてパソコンでも保存しておきます。これらは、パワハラの証拠になりえます(証拠能力は専門家が判断します)。人事担当から呼び出しがあった時、この手書きの束をそれとなく机の上に置いておくだけで、先方はけっこうビビるものです。「こいつ、何か法的手段に出るのでは」と、逆に圧力をかけることができます。

3つ目に、最初の解雇通告ではこちらの態度を保留することです。「はい」「わかりました」などの承服的言辞は絶対吐かないことです。あとは、黙秘です。「なぜ黙っているのか」と問い詰められたら「突然なので、承服しかねます」とでも言っておきます。そして次の面談までに、今回のことは「不当」にあたるという趣旨の簡潔な意見書を渡すことです。同時に、弁護士に相談中である(実際に依頼していなくても)ことも書き添えておきます。担当者はオーナー社長の絶対的決定を承服させられなかっただけでも相当焦るものです。

4つ目に、出社、退社はもちろん、残業時間や休日出勤を記録しておきます。このようなブラック企業はたいてい残業代が未払いとなっていることがあります。未払い残業代請求の時効は2年ですから、可能な限りその時期に遡ってタイムカードをコピーしておきます。コピーできない場合でも、手書きで毎日メモを残しておきます。そのメモが正確かどうかに対する証明は会社側にあるのです。面談の時、メモした勤務時間の一覧をそれとなく置き、「未払いの残業代がありますが」と言うだけで、相当の圧迫効果があります。

■履歴書からは抹消できない
以上を踏まえたうえで、とにかく自分のキャリアを大切にしたいのであれば、在職中に早めに転職活動を始め、いいところがあればさっさと転職することです。そしてこの会社のことはすぐにでも記憶から消去することが一番の良策になります。もちろん、忘却すると言っても、履歴書から完全に抹消することは経歴詐称となりますから、そこまではお勧めできないのですが。

【参考記事】
■道義なきリストラは最大のパワハラだ 「ローパー」と呼ばれる人たちへ 野口俊晴
http://sharescafe.net/48118899-20160322.html
■投資は「大ざっぱ」でも怖くない - ポートフォリオに惑わされない初心者の資産運用法 野口俊晴
http://sharescafe.net/47819120-20160217.html
■文系卒が、それでも実学としてビジネスで役立てられる理由 野口俊晴
http://sharescafe.net/47493984-20160113.html
■「宵越しのお金」が持てれば、老後の人生は変わる 野口俊晴
http://www.tfics.jp/ブログ-new-street/
■野球賭博は他人ごとではない 人がギャンブル的投資に走るワケ  野口俊晴 
http://www.tfics.jp/ブログ-new-street/

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー  TFICS(ティーフィクス)代表 


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