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まず初めに、先般発生した熊本地震にて犠牲となられた皆様に心からお見舞い申し上げますとともに、被災地域の一日も早い復興を祈念申し上げます。

■はじめに
筆者は東北地方在住であり、2011年3月に発生した東日本大震災で被災した。交通断絶による物資不足や長期の停電・断水等、生まれて初めて経験する状況の中、無我夢中にその日1日をやり過ごすのが精いっぱいであったことは、5年以上たった今でも鮮明に記憶に残っている。

被災地では、近親者の死や勤務先が津波で消失したことによる失業、住み慣れない場所での避難生活など、数多くの悲劇があった。今回の震災でも多くの人が苦しい現状にいると思うと、胸がつまる思いだ。

■心のケアは後回しにせざるを得ない?
今現在でも、度重なる余震におびえたり、集団での避難生活にストレスを感じている人も多いだろう。一方で震災から時間のたたないうちには、心のケアは後回しにせざるを得ない状況も想定される。実際問題として、食料や衣類、情報や一晩を過ごす寝床の確保など、生命維持に直結するような事項は多い。特に小さい子供を持つ親や、身の回りの世話が必要な高齢者を抱える家族などは、自身の心の健康を顧みる余裕すらないのが現状ではなかろうか。

もちろん個々の状況にもよるが、とりあえずの身の周りの安全が最低限確保された段階から、保健師やカウンセラー等による体の健康も含めたケアの実施を検討する必要があるだろう。

■支援者のためのメンタルケア
一方、大災害において忘れられがちなのが「支援者へのメンタルケア」である。支援者とは、被災者対応にあたる自治体職員や自衛隊・警察、地域の消防団やボランティアとして活動する人々も含む。

先の東日本大震災においては、建物の倒壊に加え、津波で多くの人々が犠牲となった。多くの支援者がそれまで無縁であった遺体関連の業務(遺体安置所での遺族対応や遺体捜索)に従事することとなり、後の調査では、被災自治体の職員の多くにうつ病等精神疾患の兆候が見られたという。

特に今回のような大震災の対応業務は際限がない。業務量が無限となる中、業務の範囲も不明瞭となりがちだ。一方できわめてイレギュラーな事態に対し、支援者個人が処理できる能力にも限りがある。使命感に燃える人ほど無理をしてしまいがちであるが、誤解を恐れずいえば、ある程度のところで一線を引く勇気(疲れたら遠慮せず休む等)も必要なのではないか。支援者自身も多くは被災者であり、地震の健康管理や身の回りの整理に立ち返るゆとりも肝要だろう。

防衛大学校監修の資料によれば、「惨事ストレスは異常事態に対する正常な反応で、誰にでも起こりうることであり、反応が出た場合でも、多くの場合は一時的で、次第に収まり完全に回復するが、一部の場合は、その影響が長引く場合もありえる。反応が長引く場合には、なるべく早く周囲に相談するのが望ましい」という。「自分だけ休んでいられない」と罪悪感が生じることは自然なことであるが、支援者自身が調子を崩すと、その影響がかえって周囲に及びうるのだ。(重村淳(防衛医科大学校 精神科学講座)監修「災害救援者・支援者メンタルヘルス・マニュアル」)

とはいうものの、災害時における対応はそう簡単なものではない。災害時の業務の差配や人員の確保等は、メンタル対策等とともに、我が国共通の課題としてまとめ上げる必要があるだろう。

■直接の被災者・支援者でなくてもメンタル的に落ち込むときはある
また、直接的に支援に関わってない場合でも心の不調は起こり得る。先の東日本大震災では、津波が街を飲み込む映像が繰り返し報道されたが、映像を見ただけでもメンタル的に落ち込んでしまった人も多かった。地震の状態に応じて、時にはテレビから離れることも必要となるだろう。

前例のない大災害の前に、被災地との関係は薄くてもメンタル的に不安定となることはある。筆者の知人は東日本大震災の際「なぜお前はボランティアにも行かず、のうのうと暮らしているのだ」と突然友人から叱責されたそうだ。震災という非常事態に対し、居ても立っても居られないという心境だったのだろうが、妙にハイテンションなその言動に、正直引いてしまったという。

災害の直接の被災者でない人々に求められるのは、「被災者・被災地のニーズに沿った支援」「息の長い支援」ということになるだろう。せめて自身のメンタル面での健康を保ちながら支援をしたいものだ。繰り返すが、メンタル面での健康を保てなそうだと感じたら、震災関連の報道からいったん身を置く、休息をとりながら誰かに話を聞いてもらう、などが肝要だ。

■結びに代えて
報道では、過度の自粛に対する論争や一部芸能人のSNSに対するバッシングなどが報じられている。本稿ではそれらに対し深くは言及しないが、「被災者・被災地は何を求めているのか」という視点に立った言動が求められているだろう。ニーズは刻々と変容していくのだ。

何も、直接被災地に行き汗をかくことだけが支援ではない。募金や支援物資の提供なども立派な支援である。がれきの撤去が最も貴くて、募金はお気楽なものだ、などと序列をつけることは意味のないことではないだろうか(無論状況に応じたニーズはあろうが)。さらに言えば、各人がなすべき場所でなすべき仕事をなす、それにより我が国経済を回していく、という姿勢が、回りまわれば被災者支援となり得るのではなかろうか。

先の東日本大震災で、筆者は自身の無力さを嫌というほど味わった。しかし、ベタな言い方かもしれないが、逆境から立ち直る強さや、心が折れたとしても再び立ち上がる強さを、われわれ人間は持っているのだ、と筆者は信じたい。被災地域の皆さんがご無事で、一歩一歩、各人が復興に向けた歩みを始められることを、切望してやまない。

【参考記事】
■「育休でもボーナス満額」で男性の育休取得は促進されるのか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48294119-20160406.html
■ハローワークでサービス残業が起きた理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48104775-20160316.html
■「そうだ、相談に行こう!」と思ったら、まずどこへ向かうべきか。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47919566-20160225.html
■それでも、ベッキーさんへの過剰な批判が危険な理由。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47661979-20160129.html
■それでも、不倫疑惑タレントを「抹殺」してはいけない。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/47561520-20160119.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント


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