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先日WBSで米国格付会社S&Pの格付委員ジョン・チェンバース(John Chambers)が、増税は日本経済にとって逆効果であり、むしろ日本は構造改革からの経済成長が重要だと発言していました。3月来日したノーベル賞受賞者のポール・クルーグマン(Paul Krugman)も同様の意見で「増税先送り」を安倍首相に提言したばかり。「百貨店売上」や「家計調査」などの国内消費の経済指標も低迷、加えて熊本大地震の被害。

安倍首相や菅官房長官は増税延期の可能性は否定し続けていますが、これだけのネガティブ材料がそろってしまうと消費税増税は現実的ではなくなってきたかもしれません。

■国内問題だけにとどまらない消費税増税
「消費税増税の目的は、日本の財政赤字(一般会計や社会保障特別会計)の縮小手段」と語られることが多いのですが、実は日本ぐらいの大国になってしまうと内輪の財政事情だけで消費税増税が簡単にできるものではありません。というのは、増税自体が海外との関係に大きく関わってくる問題にもなるからなのです。

この問題を少しシンプルに考えるために、国内と海外の消費税の効果を分解して考えてみます。

まず、海外からの視点で日本の行動を見てみましょう。
日本が今消費税を上げるということは、自分たち(海外)が日本に輸出する価格に間接的に税金がかかるということです。言い換えれば、消費税とは関税の役割(間接的な関税障壁)にもなるわけで、貿易摩擦がおきてもおかしくないわけです。

■間接税を採用しないアメリカ
ところで、消費税もしくは付加価値税(VAT)と呼ばれるシステムを採用する国が140を超えることをご存知でしょうか?多くの国で採用されている一方で、貿易大国のアメリカはこれらの消費税やVATなどの間接税は採用していません。実は、アメリカはこの間接税を採用していないがために、国際貿易において競争力が低い状態にあることはあまり知られていません。国際政治的には貿易バランスを取っているものの、単純に経済的な側面だけで考えると決して公平であるとは言えません。

そのからくりは次の通りです。

■消費税増税に痛さを感じない輸出企業 (海外通商問題)
国で間接税が採用されていた場合、その国の輸出企業は輸出還付金が還付されるため、輸出価格に競争力をつけることができる一方、非採用国は還付金もないため国際競争力はありません。例えば日本のT社が外国に車を輸出したとしましょう。当然その売上には現地で消費税が発生し、T社にはその支払い義務が生じます。しかし、この輸出した車はT社が日本国内の部品メーカーから購入した部品を使ったものだとすると、購入した際に支払った消費税については還付される仕組みがあるのです。つまり実質的に消費税を支払わずに済むことになります。当然その還付された分を使って価格勝負をされてしまうとアメリカ企業はなかなか競争力を持つことができないのです。

通常このような不平等にはWTO(旧GATT)協定だと禁止になるところですが、実はこの間接税だけは輸出還付金などの補助金や課税免除を認めてしまっているのです。

間接税である消費税を上げるということは、日本の輸出企業を優遇して輸入に関税をかけることと同じです。間接税非採用国であるアメリカがTPPを日本に押し付け、多くの項目で認めさせた理由は間接的な報復措置だったのかもしれません。

■中小企業が育たない日本の環境 (国内問題)
一方で、この消費税という間接税は国内経済にも影響を及ぼします。ただ、私の考える消費税の問題は消費減退からの経済弱体についてではありません。むしろ健全財政を目的とした増税はやむなしと考えている一方で、これまでと何ら変わらずただ消費税を上げるだけでは決して経済力強化を望むことはできないということに対する危機感にあります。そして、これはアベノミクスが提唱する新第三の矢の目的とは真逆の効果になってしまうわけです。

総務省が発表する経済センサス(2012年)によると、日本国内にある会社400万超企業のうち中小企業&零細企業は約99%を占め、日本のGDPの約半分を彼らが生み出していることがわかります。また大企業が非正規雇用にシフトしているなかで雇用の多くを中小企業が吸収しているのです。

安倍政権も2015年秋から日本経済の”供給力”強化のために新第三の矢を掲げていたはずで、GDP600兆円を目指せる構造改革をするならば、そのサポート対象は大企業ではなく中小企業ではないでしょうか?今の現存大企業がGDPを一気に伸ばす起爆剤になることはありえませんが、ポテンシャルのあるグローバル企業を育成することによる経済の伸びは十二分にあり得るのです。

ところが、この消費税による還付金メリットを享受できるのは主に大企業で、下請けとなっている多くの中小企業は、大企業との取引消費税分を負担することになり割を食う立場にいます。データで見る通り、国内で多くの税金を支払っている中小企業が少しでも楽になる対策を進めなければ国際社会で戦えるグーグルやアマゾンのような次世代企業は生まれてこないでしょう。

増税自体が良い悪いという極論的な話ではありません。
むしろ輸出大企業に偏りすぎた税金仕組みではなく、経済自体が刷新し中小企業が育ちやすい税金の仕組みを追及すべきと考えるわけです。


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JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師


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