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先日4月22日、大塚家具の創業者である大塚勝久前会長が高価格路線で新たに出店した「匠大塚」がオープンしました。同時に大塚久美子氏が率いる現大塚家具が「大感謝祭」を期間限定で開始。昨年から続く親子戦争の第2幕が開きました。こうした騒動を横目に、3兆円とも言われる家具市場で29期連続という途方も無い記録を続けている企業があります。製造物流小売業を標榜する「ニトリ」です。創業者にして、現会長である似鳥昭雄氏が日経新聞での連載に大幅加筆し、書籍化したのが本書です。

運は創るもの ―私の履歴書
似鳥 昭雄
日本経済新聞出版社
2015-08-26

本書は、札幌の片隅で創業した似鳥家具店が、29期連続増収増益を果たす一大企業にのし上がるまでの一代記です。戦後のヤミ米販売からスタートする波乱万丈の壮絶な回顧録から始まり、何度も経営危機に見われながらも、得意の実行力で切り抜けていく有り様が自らの言葉で綴られています。そうした唯一無二の経験から掴み取った独自の経営指針が随所に散りばめられており、参考になるポイントを4つご紹介します。

<目次>
1章 勉強嫌いの落ちこぼれ
2章 歌手になろうとした青春時代
3章 何をやってもうまくいかない
4章 日本に「豊かな生活」を実現したい
5章 師匠の教えを指針に
6章 試練は終わらない
7章 ロマンとビジョン、愛嬌と度胸

■経験でものを語らない
最初に経験でものを語らない。まず顧客にとって必要なことは何かを突き詰める。その上で自分の経験で判断し、決断する。「業界ではこうだった」とか「自分の経験ではこうだった」とか、最初に過去の成功方程式を出したら終わりだ。(P136)

これは誰しもが思い当たるところではないでしょうか。人は誰しも年齢を重ねるとどうしても自らの経験値で物事を推し量りたくなるものです。結果的に良い方へ転がることもありますが、似鳥氏は最初に経験で判断することを強く戒めています。

ビジネスの現場では、手に余るほどの選択肢が目の前に現れ、ときに原則から外れた「尺度」で判断してしまうこともあります。例えば、組織の論理などです。しかし、ビジネスはいったい何によって成立しているのか。原点である「顧客」を思い出すことで間違いは減らせるのです。

■店舗の年齢
店舗の年齢を4倍すると、人間の年齢のようなイメージになる。店舗年齢が6歳なら24歳、10歳なら40歳、15歳なら60歳。だいたいこれで定年だ。店舗年齢が20歳ぐらいの店を運営するチェーン店もある。もう80歳だから本来は死を迎える。企業も人も常に若返る努力が欠かせない。(P166)

インターネットの普及によって、人間の処理能力を大幅に超える情報が溢れる今、ビジネスの鮮度が落ちるスピードは加速する一方です。商品やサービスの種類によっては半年も持たないものすらあります。

ただ、問題が顕在化していない場合、手をいれることをためらいがちです。下手に改善を進めることによって、これまで回っていたビジネスに悪い影響が出たらどうしようと。ここに成功する企業とそうではない企業の決定的な差があります。一見問題のないように思えるが、今後を想定するとこれではいけない。未来をイメージして、常にブラッシュ・アップする準備とその実行を怠らない。時にドラスティックに事を進められるかどうかが事業の成否を分けるのだと思います。

■数字のマジック
例えばカーテン。最初は柄物に対して20%分を無地としたが、この比率では買い物客は気づかない。ところが30%まで増やすと、売れるようになることが分かった。20%程度では80%の柄物が売れるため、販売員は売らなくても済んでしまう。逆に35%を超えるような水準になると無地を売らないと部署の目標数字を上げられない。このため自然と無地商品が広がっていった。(P204)

数字に強い。成功した経営者の最大の共通点です。一方で数字が苦手だという方も結構いらっしゃいます。こうした方が勘違いされているのが、数字に強い=専門的・学術的な簿記や会計の知識のことと思われている点です。

必要とされる数字とは、現場の動きと連動するものです。このカテゴリーの商品の種類を5種類から10種類に増やしたらどうなるのか。店舗のレジ台数を減らしたらどうなるのか、などです。

いわゆる専門的な会計は、スタティック、つまり「静的」です。会計年度の範囲内で月次や四半期、半期といった期間における事業行動の結果を点で表しています。一方、現場で必要とされるのはダイナミック、つまり「動的」。生き物のように動く数字です。思考錯誤、トライアンドエラーによってのみ捕まえることができるものです。

■乗り物を変える
創業期は家具中心だったが、年々比率が低下し、今は40%程度。そこで、カーテンや寝装具などホームファッションという新市場に乗り換えた。今度はインターネット、リフォーム、法人事業、ロジスティックス、小商圏向けデコホームと新たなフォーマットを作っていった。(P300)

強い企業が必ず持っているのが、明確な「コンセプト」です。扱う商品やサービスの内容が変わっても、コンセプトが変わることはありません。掴みどころのないようにも思えますが、要はその企業を一言で表す言葉です。ニトリでは創業時から「顧客に豊かな生活を提供する」というコンセプトで一貫しています。このコンセプトこそが、29期連続増収増益を果たした真の立役者ではないかと思います。

コンセプトをどのように設定するかで大きな差が生まれます。例えば、スーパー。私達の日常生活に欠かすことのできない存在ですが、スーパーという事業を「日用品を売るだけの存在」とするのか、「消費者の生活基盤全般を支える存在」でまったく違ってきます。

明確な差が生まれるのが事業を拡大したとき。ニトリが「良い家具を提供する」と設定していたら、ホームファッションはコンセプトの枠外になり、事業拡大を進めていくうちに歪みが生まれ、今のような結果にたどり着いていなかったでしょう。



【参考記事】
■百貨店ビジネスの処方箋 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/48236292-20160331.html
■【【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html
■ネットフリックスに見るビジネスの視点(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47055631-20151129.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表



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